分担作業
「申し訳ございませんでした!!」
ロディが一瞬だけ深々頭を下げた。
パン、とジェイマーが手を打って区切りをつける。
「はい謝罪終了~、さぁ次が来るぞ!」
団員達もすぐに敵の状況確認に戻る。
「もーなんなのー! どこも勝ててないのー?! 偉い人たちはー?!!」
「姫のお怒りはごもっともです!」
隣も、それより向こう側のテント付近も、それはもう静かなものだった。
まったく戦闘のやり合う音がしない。
ただただ村人と討伐兵士たちの大量の足音が不気味に聞こえてくるだけだ。
「人数連れて来た分やりにくくなってしまった気がするわ。悪循環ね」
「だが洗脳をかけたナイトメアを倒せば俺のように解放されるだろう。形勢はここから良くなっていく一方だぞ」
「この人数が一気に来るんだと一人ずつ捕まえてるのじゃ間に合わないだろう。馬を引き寄せる方が楽そうだよね」
「だが人間を盾に使ってる奴らがそんなに簡単におびき寄せられるか?」
「じゃあとりあえずはピンポイントに上から狙えば?」
「「え?」」
「え?」
なんか俺ヘンな事言ったか?
「でもねルイスくん、攻撃は周りにも飛び火しちゃうかもしれないから」
「だから、攻撃じゃなくて転送だよ。魔法使いが二人いるんだから2頭ずつは移動させられるでしょ。転送は攻撃じゃないから大丈夫だよね姫」
「まぁーそうだけどー……」
「やり口が向こうに認識されるまでの数回が限度だとは思うけど、軍の洗脳が解けたら動き方も変わるだろうし」
「それはそうだな。ではまずはそれでやってみよう。転送はテントのあったこの位置に!」
決断の早いロディが布が剥がされて柱だけになった場所を指し示す。
「攻撃はオザダと俺とジェイコフさん。それ以外は兵士やナイトメアからの攻撃が来たら対応を頼む」
「よし、じゃあカラビウは俺の方、ササはルイスの方に」
「あ、ちょっと待って…………ぁあ、どうしよう……」
カラビウが自分の魔法書を確認して泣きそうになっている。
「姫ぇ……、転送の書がありません~……」
歪んだ顔を見てもやらず、ササは本を3冊カラビウにぶん投げてから俺の後ろに跨った。
「もう忘れたのー?! あたしが攻撃魔法以外没収してたんだから当たり前でしょー! ほらさっさと働くよー!」
「ありがとうございます姫ぇ~……」
「……カラビウ、急いでくれ」
「ほらー、あいつがトロトロしてたから攻撃されてるじゃんー」
接近戦まではまだ距離があるものの、弓兵や魔法使いからの攻撃がロディ達へ向けられている。
更に、ナイトメアからも黒い炎の塊が放たれた。
「あ、でもほら、ちゃんとみんなが防いでるし」
ワフがナイトメア処理班と自分たちとの間に特殊な壁を設置し始めていた。王宮の見学エリアに設置されていたガラスに似ている。そしてジェイマー、フィリーアは騎士達の進行を遅らせるためのネットが狙いを定めて投下していく。
「姫ー、僕は奥の方で良いですかーっ?」
アデギウスに抱き着きながらもう片方の手に転送の書をひろげてカラビウが叫ぶ。
「よしじゃあやるよー! せーのーっ」
同時に魔法が発動し、2頭のナイトメアが光に包まれた。
少しだけ飛ばされたナイトメア達は待ち構えていた処理班によって抵抗する間も与えられることなく大勢の人間の洗脳を解かされた。
「あ、みんな気が付いたみたい」
攻撃していた兵士たちの手が止まり、キョロキョロと周囲を確認している。
ジェイマーが何か叫ぶと兵士が進行方向を逆にとった。
「でも洗脳が解けない人もいるみたいねー」
ちらほら動きを変えずに攻め続けている者もいる。他のナイトメアから受けた精神支配なのだろう。村人たちもまだ解けていないようだ。兵は兵に任せ、ワフは村人を優先的にその場から釣り上げていく。
「向こうの行動が変化する前に次に行こう」
「そうだな」
俺たちは少し進んで再びナイトメアに転送をかけ、またすぐに移動する。
正気を取り戻した兵士がどんどん増えていく。
「このまま全部やれるんじゃないか」
アデギウスが余裕のある発言をする。しかしそういうときこそ危険が生まれるものだ。
「それ『フラグ』って言うんだよアデギウス」
「?」
「ほら」
暗黒色の馬たちが一斉に青い空を駆けだした。
「……一番目がいいヤツ! 黒い馬は何匹だ?」
「15!」
すかさずマグマが得意気に叫んだ。
「お、マグマが一番か。じゃあご褒美にアレ一回燃やしてみるか?」
「やるやる!!」
一頭だけ先行して攻めてきたヤツがいたので、他が来る前に試させてもらおう。
マグマはここまで攻撃が出来なくて溜め込んでたストレスを表したみたいなデカい炎の玉を吐き、ナイトメアに向かって飛ばした。全身に炎を浴びた暗黒の馬だったが、わずかに体毛から煙を上げている程度でダメージにはなっていないようだった。
「むぅ! 効いてないのかよー!」
悔しそうなマグマに次の案を伝える。
「さっき氷は効いたよな。じゃあ今度は一気に全部凍らせてみようか」
「よし!」
溜め込んだ凍る息を炎の玉のように一気にぶつける。真っ黒な体が氷の膜で覆われ、動きがぎこちなくなる。
「あいつの体の中まで凍るのを想像して頑張ってみろ」
「!!!」
追撃のブレスは喉元に集中的に吹きつける。温度を更に下げた攻撃はこちらまでヒヤッと冷気を感じる。
そして完全に凍り付いたナイトメアは地上に急降下……。
「あ、まずい」
「だいじょーぶよー」
すぐにササが転送をかけ、届け先でのジェイコフの一撃により粉々になった。
砕けた氷が朝陽を浴びてキラキラと舞う。
「綺麗ー」
ササが喜んだ。
「でも肉片とかも混ざってるから浴びずに済んで良かったね」
「……そうだねー」
ササが目をそらした。
「次が来るぞ!」
「マグマ、今の攻撃は結構大変?」
「めっちゃ疲れる!」
それは良くない。あと何匹だっけ。14か……。
「セシルは凍る息吐ける?」
「いや、習得してない。火炎放射と、あとは風をおこすくらいだ。」
火炎系の攻撃は役に立たない。あとは風か…どうだろう…。
「……ん?」
よく見ると進路がおかしいヤツがいる。
「あいつらこっちには来るけど、低いな」
「もしかしたら洗脳が解けた人たちにもう一度使おうとしてるんじゃないー? それか殺そうとしてるー?」
「スキルを使うならアイツを倒せば良いだけだけど、本格的に人を襲われたら厳しいぞ」
すぐに攻撃したいが周りに竜騎士たちを飛ばせて身を守っている。
「アデギウスとカラビウは今まで通りこっちに来る奴を転送して! 俺と姫で向こうの注意をひいてみる!」
マグマに細かく火の玉を吹かせて挑発しながら低空飛行しているナイトメアに近づく。
下にいる討伐軍は丁度洗脳されているのと解けたのとの境で、武器のぶつかり合う音や「しっかりしろ!」とか「すぐに助けてやる!」とかの叫び声があちこちから聞こえる。
「お前ら大丈夫か?!」
少し後ろの方までジェイマーが来ていた。
「師匠! ドラゴンが邪魔なんだけど!」
「見りゃわかるよ! 今どかすからちょっと待ってろ!」
ジェイマーが手にした弓矢には、また見た事のないものが付いている。
「ごめんな!」
と謝罪を叫びながらドラゴンたちへ射ち込んでいく。
すると矢尻が刺さったドラゴンから順にどんどん上空に昇っていく。
「お。すげーな、浮遊石!」
「浮遊石?」
「魔力を吸い取って浮かび上がる石だよー。一見便利だけどめちゃくちゃ魔力持っていかれちゃうから使うときは気を付けてねー」
確かにふわふわと昇っていく。
「へぇ…でも俺魔力無いし……って、そうじゃなくて! 姫、転送!」
「そうでしたー」
ササが笑いながら転送した1頭は即座に爆発した。
ロディの武器って一体なにで出来てるんだろう。
「素材残してって言ってるだろー!」
遠くでワフが騒いでいる。




