ご対面
翌朝。
…といってもまだ日の出前。
俺たちはテントの中で戦いの支度を進める。
「ルイスくんはやっぱりここで待ってた方が良いんじゃないのかい?」
このままテントに待機のワフは香りのいい豆茶を淹れて一人和んでいる。
「大丈夫! なあルイス!」
「……はぁ…そうなの?」
ロディは相変わらず俺の事は手放しだ。
一体何を期待されているんだか……。
「危なかったらすぐ転送かけてあげるねー」
「回復薬とか補強アイテムとか必要だったら言ってね。言われなくても見た感じ不安だったら勝手に使うからね」
「無理して前線まで出なくても良いぜ。まずは全体の戦況を見る力が大事だからな」
「俺もサポートする。不安は要らない」
「ごめん、僕は自分のことで精いっぱいだから……」
「敵の目がルイスに向かないように俺とカラビウが囮の役目をしっかり果たすぜ」
「ありがとう。でも俺の事より魔物のほうに集中してよ。みんなそいつとは初めて戦うんだろ?」
「ルイスの言うとおりだ。あいつを軽く考えてはいかんぞ」
ガシャガシャと鎧の音をさせて近づいてくるジェイコフ。さっきからテントの隅で黙々と鎧を装着していたのだけど…。
「後方支援じゃなかったのー?」
「ヤツが目の前にいるのに大人しくしていられるか。一発ぶちかましてやらんと死んでも死に切れん」
そう言って右手に持った巨大なハンマーを振り下ろと。ドスンと地面が揺れた。
「ジェイコフ様はナイトメアとの間に遺恨があるのですか?」
首を傾げるカラビウにジェイマーが慌てる。
「バカ、そんなこと直接本人に聞くんじゃねーよ!」
その場の雰囲気がぐっと重くなったのを感じた。事情を知らないのはカラビウだけのようだな。
……あと俺。
「いいさ、隠してることでも無し。むかし俺の嫁と息子がナイトメアに操られた人間に殺されたって話さ」
「! それは、失礼をっ……」
「いいって言ったろ。気にすんな」
「……はい……」
「結構有名な話なんだよ。僕が本に書いたからね」
ああ、それでか。
「おかげでナイトメアは目撃例が少ないにも関わらず誰もが知ってる魔物になった。今回も修繕班の判断があと少しでも遅れていれば全滅していたかもしれん。そうすればまた情報も得られず、取り逃がすところだった」
「良かったら僕の本読んでみてね」
「は、はいっ。必ずや!」
カラビウが本の購入を宣言し、日の出の時刻となった。
「よし、じゃあ開けるぞ」
ロディがテントの布に手を掛ける。
僅かに開けたその隙間から朝陽が差し込……
「!!!戦闘準備っ!!……」
叫んだロディがゆらりと振り返る。まったく表情が無くなっていた。
ザッ、と一斉に地面を擦ってロディから半歩離れる。
「見たのはロディだけか?!」
「そうみたい!」
「もー!!役立たずーっ!!」
ササが苛立ちの声を上げながら即座に魔法を発動させた。
みるみるうちに地面から茨が伸びてきてロディをグルグル巻きに縛り上げる。
「一気にテントを剥がすぞ!」
セシルに乗ったアデギウスが布を持ち上げようと天井目掛けて飛びあがる。
「マグマ! 俺たちも!」
「おう! 早く乗れ!」
「もう、せっかく美味しいお茶だったのに」
ワフがお茶を手放し、かわりに取り出した白い鞭を握ったのが見えた。
「行くぞ! 目線気をつけろよ!」
セシルとマグマで一気に布を持ち上げる。
「! なんだよこれ?!」
アデギウスが叫び、俺も地上に目をやる。
「!!」
取り払われたテントの向こうでは3頭のナイトメアが待ち構えていた。
しかもそれで全部ではなく、ほかの班すべてのテントにまでナイトメアが数頭ずつ張り付いていたのだった。
「厄介だ、人間も一緒だ」
ナイトメアたちのすぐそばに、修繕班に襲い掛かった村人らしき人間たちが武器を構えて立っている。
「人間には攻撃できないって知ってるのか」
「そうなんだろうな。…これじゃあセシルの火炎放射が打てないぜ」
マグマもそうだ。
何の攻撃をするにしても村人を巻き込んでしまう危険性が高い。
すぐに茨が何人かの村人を確保した。ササか。
しかし村人はまだ絶妙な位置に何人も配置されている。
ガララが右のナイトメアに向かって飛び出した。
攻撃はせず、ただ注意だけを引いている。
「よし俺も!」
セシルが急降下して左の1頭に向かっていく。
正面のナイトメアにはジェイマーが向かった。
放つ矢は足元を狙う。地面と接触すると光を放って威嚇するものだった。
「あ」
後方のワフがスルスルっと動いた。
そして一瞬で白い鞭がメンバーの間を縫って伸びていき、村人の一人に絡まった。
その鞭を手前にいたジェイコフが一気に引っぱる。
飛んできた村人を摑まえて持ち上げると、カラビウが後方に出現させた魔法の檻の中へ収容する。
次々と村人は集められていった。
村人全員を回収したのを見計らってジェイマーが3頭に向けて同時に火矢を放つ。
3頭は回避するために後ろへ跳ねる。
そこに着地点を予測していたオザダが雷を落とした。
怯んでいる隙にフィリーアが中央の1頭の足元を狙って捕獲ロープを飛ばす。
足を絡めとるとそのロープから何本もの杭が生えてきて地面に突き刺さる。ナイトメアは逃れようと暴れたがどうにもならずに転倒した。そこへジェイコフが走り込んできて、思い切り頭部目掛けてハンマーを振り下ろし、最初の一頭を仕留めた。
「俺たちも行こうぜ」
皆の戦いぶりを黙って見ていられなくなったマグマがウズウズと体を揺らし始めた。
「んーと、じゃあセシルの所に行くか」
セシルとアデギウスは遠距離攻撃で戦っていた。
セシルの火炎放射に注意を引きつけ、後方からブーメランが切りつける。近づかれるとセシルの羽ばたきで起こした風圧で押し離す。
ダメージは与え続けているものの、一撃の破壊力には欠けているように見える。
「向こうも黒炎ていうのを使うから火には強いんだろう。……凍らせてみようか」
「全部か?」
「いや、まだまだ数がいるから力は最小限にだ」
俺は狙う場所を指示して、アデギウスに向かって叫ぶ。
「ごめーん! ちょっと試してみるからー! 危なかったら逃げてくれー!!」
「? 分かったー!」
アデギウスが手を振りほんの少しナイトメアとの距離を広げる。相手は何も知らずに向かってくる。
「よし、やるぞマグマ、まずは間に!」
セシルとナイトメアの間にマグマが体を割り込ませる。
そして急上昇。ナイトメアの真上に付ける。
こちらの動きに気を取られたナイトメアが上を向いた瞬間、
「いまだ!」
マグマの凍る息で両目を狙う。眼球を氷で塞がれたナイトメアは前足をばたつかせ頭を振り回す。
「どう? これ使えそうじゃないー?」
同意を求めるが、アデギウスはそれより先にと先端の鋭いブーメランに持ち替えてナイトメアの横に移動し、ざっくりと腹を掻っ捌いた。動かなくなったナイトメアはそのまま地上に落ちて行った。
「すごい切れ味だな……」
「俺も実はコレを投げて使うのは怖いんだ」
空中で少し笑いあい、残りの1頭に向かう。
が、たどり着く前に破裂して無くなってしまった。
やったのは、ロディのようだ。
「ロディが復活したのか?」
「どういう事だろう?……あ、隣から次が来るよ!」
「今度は何頭だ?!」
近場の3頭を処理し終えたところで戦いは終わらない。
隣の班を襲い終わった次の集団がこちら目掛けて進んできていた。




