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廃村の先へ

「そうだ、忘れないうちに」

 後ろに乗っているフィリーアがモゾモゾ動き出した。

「何? 俺あんまり振り返れないんだけど、危ないことしてないよね?」

「大丈夫よ。あのね、ルイスくん用の剣を作ってみたの。腰の所に付けてみてもいい?」

 フィリーアの手が腰に回ったのを感じ、次に来る武器の重さを待つ。……が、なかなかやってこない。

「後からでもいいよー」

 と前を向いたまま叫んでみる。

 すると、

「もう付けちゃったよ! どう? 弓を使うときとか邪魔じゃないかなぁ?」

「え」

 チラ、と自分の腰に目をやると、本当に見覚えのない皮のソードベルトが巻かれていた。そしてベルトには細い剣が納まっている。

「これなにレイピア?! 細いしすごく軽い! しかもカッコイイ!」

「効果の付加で誤魔化せないから頑張っちゃったよ! 後で使い心地を試してみてね」

「ありがとう!」

 今すぐ鞘から抜いてみたいけどマグマが向かってくるカブトムシの大群を食うのに必死なせいでフラフラ飛んでるから我慢してあとにしよう。

 因みにササはカラビウを盾にして虫との対面を避けていた。


「あ」

 平原から森を抜け少ししたところに先ほどの村と同じくらいの集落が見えてきた。

 どうするんだろう、壊滅したと聞いた村だと思うけど念の為生存者の確認に一時滞在するんだろうか。

 チラチラ他の班を見ながら進む。けど何時まで経っても何処からの指示は飛んでこない。

 少し前を走っているガララもスピードが落ちる気配はない。まぁこのまま進んでも俺たちの班は村の脇を通ることになりそうだから心配しなくても良いかな……?

 え……?

 あ……


 村の上空に【大きな足】が二つ出現した。


 その足は躊躇なく、まるで足踏みをするように交互に建物を踏み潰しに落ちては上空に戻りを繰り返す。瞬く間に高い建物は見当たらなくなり、村全体が土煙に包まれて見えなくなる。

 靄の中で何かがドスンドスンと地面を打つ音だけが響く異様な光景だ。

「なに…魔物…?」

「魔法よ。魔物に襲われた村は再襲撃を受けやすいから一度更地に戻すの」

 足踏みの音が続く中、今度は雨雲が集まり出す。大きな雨粒がまっすぐに落ち、土煙を消していく。同時に大きな足も消えていった。

「見てて。橋が架かるよ」

 雨が晴れ、虹が出る。

 それは空に架かる虹ではなくて、跡形もなくなった村を全部を覆う大きさで、まるで七色の屋根のようだ。

 そしてその上を討伐軍が一斉に渡っていく。

「あの雨と虹には魔物の残していった負の魔力を浄化するっていう意味があるんだって」

「へぇ……」

 浄化か……。

 まだ村の人たちの生死もはっきりしていないのに潰してしまうんだな。

 もし生きていたら、その人はどこへ帰るんだろう。

 せっかく命を繋ぎとめたのに、思い出の品物も見慣れた景色も何も無くなってしまって。

 国の方針なら仕方ないと諦めるのだろうか。

「あれってね」

 虹の橋の横を通り過ぎて村を抜けたあと、フィリーアが話を続けてきた。

「雨で流して、虹でカバーするのね。で、落ち着いたら修復するの」

「修復?」

「建物も内装も、全部おんなじに組み直すのよ。魔法使いの魔法と技工士のアイテムと戦士の力で。元通りのそのまんまに」

「なにそれ凄いね!」

 なんて無情な国なんだと思ったけど、そうではないみたいだ。

 俺はグイ、首だけ振り返る。フィリーアがどうしたのかと心配したけど、ただもう一度虹の橋を見たかっただけだ。

 通り過ぎてから見た七色の橋は、さっきより何倍も綺麗に見えた。


 横一列に進んできた討伐軍だったが、湖の水面が夕日に光るのが見えたのを合図に中心の3つの班が速度をガクンと落とし、両脇の班も調整していく。

「俺たちはどの辺まで行くんだろう」

「湖は広いからこの数じゃ取り囲むところまでは想定してないと思うわ。多分橋の……あ、ほら。前が止まるわ」

 何度か振り返りながらロディが指示を出し、ガララのスピードが緩んでいく。

 そして歩を止めて俺たちの到着を待っていたのはちょうど島側の吊り橋の主塔が立っている横の位置だった。


「見えるか? 燃やされた後だ」

 オザダが何の付属物もない主塔を指す。

 白い石で出来ているらしい柱の中心辺りに黒く焦げたような跡が見えた。

「黒炎ね。ナイトメアの吐き出す炎の色よ」

「陸地側はその跡が残らないように人の手で落とさせている。賢いと褒めるべきか……」

 後続も次々と到着する。

「もー、なんでこの時間に来るのー? もう日が落ちて見えなくなっちゃうよー」

「夜のうちに体勢を整えて、朝には一斉に島に入る予定だ」

「ナイトメアは暗闇に現れないっていう噂は本当なんでしょうかねー?」

「スキルの発動は目を合わせることらしいからなー。真っ暗闇だとこっちに見てもらえないから出てこないんじゃないのかねぇ?」

「そうすると危険なのは、今みたいな暗くなりかけの時間帯と夜明けか」

「ボクが見張りをします」

「俺も!」

「ギャウ!」

「そんな時便利なのが僕の開発したアイテムだったりするんだなー。ね?」

 セシルから降りてきたワフが、ロディに視線を送る。

「その通り。各班にこれが支給されてるよ。さあうちも準備しよう」

 ロディが取り出したのはロール状に巻かれた黒い布。

 ロールを広げていくと内側に布が折りたたまれていて、それを広げるとまだ中に何回か折られている。

「凄く大きいですね。それに広げきった布はこんなに薄いのに全然透けないみたい。これは何ですか?」

 フィリーアが手にした布の手触りで材料を確認しようとしたが分からなかったみたいだ。

「これはね、【闇夜の烏】の染料を使って染めた待機テントだよ」

「【闇夜の烏】?!」

「羽根を煮出すといつまでも真っ黒な染料が取れるんだ。しかも烏の特徴がそのままだから、その布越しだと生命反応も魔力反応もシャットアウト! 隠密行動とかピンチの時の隠れ蓑に使ってね」

「いつどこを飛んでるかも分かってない魔物なのによく捕獲できたっスね?」

「うん、烏の出そうな辺りに山を買ってね、全域に好きそうな餌とか罠とかしかけまくってやっと一羽だけ捕まえられたんだよ」

 素材の為に山を買うとは。さすが一流技工士兼一流作家だな。

 広げた布の中心部分をセシルが空から吊り、内側では天井の高さを調整しながら支えとなる丸太の柱を真ん中と周囲に立てていく。

 地面と布の裾に隙間が出来ないように微調整して、大人数用の簡易テントの完成だ。

「出来ました。早めに入ってしまいましょう」

 ロディが設置中の敵襲を警戒して見張っていたジェイコフとジェイマーを中に呼び込む。

「他の班も問題なく張れたようだぞ」

「そう? 良かった」

「ドラゴンも馬も入れてまだ余裕がある大きさだもんな。……これ、買ったら幾らくらいするんだろう」

 アデギウスが呟いた。

「欲しいのかい? 知り合い価格で安くしておくよ……こんなもんかな」

 ワフがアデギウスの手の平に指で数字らしきものを書いた。

「!!! えっと、つ……次の機会に……」

「アハハハ、是非ご検討を」

 それから俺たちは夜明けに戦いを控えているとは思えないくらいゆったりとした時間を過ごした。

 そして今晩のロディの就寝場所は『ドラゴン2頭のすき間』に決まった。

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