進軍
「ササ!」
「あー、パパ仕事終わりー?」
集合場所は騎士担棟向かいの広場。
みんなで待機しているとルウルとワフがやって来た。
「ああ、お前たちも参加するんだって? …大丈夫なのかい、ルイス君」
「まぁ…団長の決断なので」
「大丈夫! 全員で彼を守りますよ!」
ロディが断言した。
これから行くのは俺を守るっていう仕事じゃないはずなんだけど……。
「パパも行くー?」
「残念ながら明日も勤務があるから行けないよ」
「僕は勝手について行こうかなと思って。特殊な素材のおこぼれを期待して」
「ナイトメアからの素材! そこまで考えて無かったです!」
地面に座り込んでアイテムを作成中のフィリーアがワフに希望を見つけた喜びを伝える。
「討伐例がないから何ともだけどね、体毛に鬣に蹄…普通の馬とは色合いも違うだろうし」
「尻尾の毛とかも取れますかね?!」
「良いね、弓毛に使ったら面白そうだ」
「お二人さん、そもそもナイトメアってのは実体があるかどうかも分かっとらんのですが?」
「ジェイマー君は若いのに夢のないことを言うんだね。ロロックみたいだ」
「お、光栄です!」
そんな緊張感のない会話をしていると、大勢の足音がこちらに向かってくるのが聞こえだした。
道の向こう側から見えてきたのは列を揃えた騎馬隊、竜騎士隊、魔導士の集団、そして戦士の塊。
「そろそろだな。……ササ、くれぐれも気を付けて」
「はあいー行ってきますー」
ルウルがその場を離れ、俺たち退魔師も軍の列に押しやられる形で後方に移動させられる。
入ってくる討伐軍はざっと見ただけでも300人以上はいるだろうか。
王宮騎士は王都内を警備巡回しているから見たことがないわけじゃないけど、こんなに数が揃うとやはり圧倒される。白地に紫と黄色を取り入れた装備で統一されていて、いかにも国を背負っている感じがして頼もしい。
要請を受けて手を上げた俺たち退魔師が40人ほどに300人以上の国の討伐隊。
……馬の魔物3体にここまでの数が必要なのか。
全員が広場に入り切り、王城側を見る形で待機させられる。そしてドラゴンの背丈を越える高さの演台が素早く設置され、そこへ一人の男が立った。
「これより西地区アジェラータ湖に出現したナイトメア討伐の為、まずは目的地の二つ手前のイド村へ移動する」
良く通る声が広場中に響く。
「私が今回の軍を任されている騎士団団長ジョセフだ。補佐には戦士部退魔班長のレック、更に今回は後方からジェイコフ様にご指示をいただきながらの戦いとなる。臆することはない。皆十分に日頃の訓練の成果を発揮してもらいたい」
騎士団長はまだ若そうだが、トップに立つだけあって堂々としている。どれくらい強いんだろう。
「皆理解しているとは思うが、ナイトメアの強力な精神攻撃は個人では対応しがたいものである。重要なのは連携とスピードだ。対戦までに各班で個々の役割をしっかりと把握しておくように。以上!」
檀上から騎士団長が下りると、入れ代わりで一人の魔法使いが上ってくる。それを合図に魔法使いの集団が散らばり、討伐軍全体を取り囲みだした。
「それでは一斉転送に入ります。もし関係者以外が混じっていましたら至急魔法使いの輪の外へ出てください。転送はこのエリア内の地面に接触していることを条件に行います。浮遊魔法は解いてください。ドラゴンは着陸させてください。転送完了まで飛び跳ねる等の行為はやめてください。全員魔法書準備!」
一斉に魔法書を開く音がする。
「5秒後開始です。5…4…3…2…」
足元が光り出す。
「1…」
一瞬の暗闇。
そして平原。
ぐるりと見まわすと、小さな集落が見えた。
「…………無事完了です。ご協力ありがとうございます」
演台ごと転送してきた魔法使いのトップらしき人が一礼して壇から下りた。
「緊急避難に備えて第20班はこの村に待機! 対象を発見した場合は直ちに前線へ報告!」
「はい!」
第20班らしきメンバー20人ほどが集団から抜けていく。
「班ってなにー?ササたちはー?」
ササがコソっとロディに質問した。
「俺たちは俺たちだけで動く許可をもらってる。何班かは……聞いてないな」
「19班だ。ちゃんと会議で伝えただろうが」
気付くとすぐそばにジェイコフが来ていた。
「他の退魔師たちは王宮隊の班に組み込んだんだがお前らの団長は我儘でな、団員のみでの行動を主張しやがった」
「それ相応の働きはしますので」
「そうじゃなきゃ困る。それよりお前も来たのかワフ」
「うん、楽しそうだからね。高みの見物も君一人じゃつまらないでしょ?」
「まあな」
「1から3班は湖に向かって直進、11班までは右、19班までは左へ間隔を取りながら湖を囲みに行く」
騎士団長の声が聞こえると、班ごとに兵士たちが広がっていく。
俺たちも進行方向の左側へと移動する。
「ジェイコフ様は俺らと一緒で良いんすか?」
「中央には騎士団長、右翼には戦士部長が付いてるしな」
「進軍開始!」
「はやっ」
まだ広がりきれていないのに既に軍が進みだしてしまった。
ドラゴンが羽ばたき、馬軽快に駆ける。戦士は魔法使いとともに浮遊移動をするようだ。
「うちもあんな感じで良いのか? ジェイコフ様、乗りますか?」
セシルの上でアデギウスが誘うが、ジェイコフは首を横に振った。
「すまんが竜は得意じゃない。ササ、頼めるか」
「はーい」
本を広げたササをジェイコフが後ろから持ち上げる。
そのまま二人は地面から足が離れ、前方へ進みだした。
ロディが残りのメンバーを振り分ける。
「オザダは俺を、アデギウスはジェイマーとキンを乗せてくれ。ルイスはフィリーアを頼む」
「分かった」
「了解」
「ちょっと僕はー?」
「おっと……」
ワフが寂しそうに叫んで、進行しかけた一同が止まる。
「失礼しました。ええと……カラビウ、に任せるのはちょっと不安だなぁ」
「なんと!! 正解! 自分一人で精いっぱい!」
「キンに減って貰えばこっちまだ乗れるっすよー」
セシルの上のジェイマーが手を振る。
「はっ?」
「そうだな、それで行こうか。キン、最小限になって残りはジェイマーに預けてくれ」
それだけ言って返事を待たずにオザダにガララを走らせる。
「はっ?」
「分かりました。小さくなります」
数秒遅れてキンが返事をする。
「はっ?」
アデギウスとジェイマーに挟まれて座っていたキンがドロドロと溶けていき、小さく分かれた方だけがスルスルと移動してアデギウスの鎧の肩当に人型になって張り付いた。
残りはジェイマーがさっさと収納する。
「はっ? 何? キンさん? え? ちっちゃ……」
「ごめんねアデギウス君、ちょっと前詰めてもらえる? あとギュって摑まるけど気にしないでねー」
キンのいた位置にワフが挟まり、アデギウスの胴にガッチリ抱き着いた。
「はい出発ー」
「カラビウ、参ります!」
「ルイスくん、こっちも行こう」
あんなにドッキリのネタばらしを楽しみにしていたはずなのに誰も何の反応もフォローもしてあげないとは……もう完全に打ち解けている証拠……なんだろうか。




