ストレス発散砲
「買い出しに出たのは良いけどさ、何を買えば良いんだろうな?」
アデギウスが道の両側の店を一軒ずつ睨みながら進んでいく。
「装備は? 昨日へこんでただろ?」
「これなぁ…防御力は結構上の方なんだぜ。あの犬たちの牙が特別強かっただけで今までの戦闘では問題なかったんだ。色も気に入ってるしあんまり焦って買い替えたくは無いなぁ」
確かにあまり見かけない色の鎧だし、アデギウスに似合っているので無理して替えなくてもいい気はする。
「じゃあ武器は? アデギウスが使うのは槍? それとも剣?」
戦闘以外は収納しているようなのでアデギウスの武器はまだ目にしていなかった。
「俺は剣でも槍でもないよ」
「違うの? 何?」
「これさ」
と取り出されたのは……
「ブーメラン?」
「…ブーメラン?」
俺が聞いた筈なのに、すかさずアデギウスから聞き返された。
「違うの?」
見た目は大きめなブーメランなんだけどな。
「これは『旋回式飛行ナイフ』っていうんだ」
ああ、名前が違うだけかな。
「それって上手く投げるとこぅ…手元に戻ってくるでしょ?」
「そうそう! 鋭い刃がここについてて、投げるのも掴むのもコツが要るんだけどな、結構重量感あるから斬りつけるのと同時に打撃ダメージも入れられるんだ。知ってるのか?」
「別の所で似た形のを見たことがあって。刃がついてるのは初めて見たけど」
「そうなのか、俺だけのオリジナルだと思ってたのに……」
アデギウスがちょっとがっかりしてしまった。なんか悪いことをしたかな……。
「魔物に当たった後もちゃんと戻ってくるのか?」
「ああ、自己回帰の効果が付いてるから何処に飛ばしても必ず戻ってくるぞ」
そりゃあ投げたい放題だな。
「アデギウスの身に付けているものはどれも珍しいデザインだねぇ。僕もこういう武器が欲しいなぁ」
カラビウがブーメランを物珍しそうに眺めている。
「カラビウは武器を持ったらどこに飛ばすか分からないからやめた方が良いよ」
「ぐぅっ!!」
被害者の忠告は胸に響いたようだ。
「武器が無い分魔法書は揃えないとだよな。足りそうなのか?」
「うーん、そうだねぇ……メルシア様から譲り受けた攻撃魔法の書はかなりあるけど、回復魔法の本は少ないんだ。姫様からは役割をきっちり分けるから回復系には手を出さないようにって言われたんだけど……本当に要らないのかなぁ……」
「言いつけを守らなかったらササの怒りが凄そうだ」
「また蹴られるんじゃない?」
「それはそれで……。……。ひとまず魔法書店を見ても良いかな?」
村や町には魔法書店が一つ……多くても二つだけど、王都の『魔法使いへの道』には十店舗以上の店がある。
「全部違うのか?」
店先に商品を出して客を呼び込むような形態ではないので、外観だけではよくわからない。
「大きいところは色んなものを一通り揃えているけど、小さいところはレベルで分かれているかな。市民も日常使いする発火や出水の初級書専門とか、学生の練習課題用の学校指定店とか。中にはSSランク者以外は入店すらお断りっていうところもあるんだよ」
「へぇ……」
説明を受けている間にもほとんどの店に客の出入りがある。これだけ同業者が店を構えていられるのは消費者数がそれに見合っているからなんだろう。
「あれ……おまえ、カラビウ?」
一軒の魔法書店から退魔師のパーティーが出てきたところだった。そのうちの一人がカラビウに声を掛けたのだ。
「っ……」
男達を見たカラビウの顔が強張る。
「なに? お前まだ魔法使いやろうとしてんの? やめとけよ、また人に迷惑かけるぞ」
「退魔師やめて役人になるとか言ってなかったか? あ、もしかして試験落ちたか?」
「つーかあんたらコイツの仲間? お、可愛い女の子までいるじゃん。ねーねー、コイツがどんなヤツか知ってるわけ? まともに魔法も使いこなせねー木偶の坊だぜ?」
ケラケラと人を馬鹿にするような笑い声をあげる男達。
今のところ絡まれたキンは無表情だが、このままだと敵だと判断しかねない。
ここで溶けだしでもしたら更に厄介だぞ……。
どうすればこの場が納まるかと考えているとアデギウスが不快さに顔をしかめながら一歩カラビウの前に出た。
「あのさ、俺らこのあと依頼が入ってて急いでるんだ。再会を喜ぶのが終わったらさっさとそこ退いてくんない?」
「はぁ? なにお前、生意気じゃね? 依頼とか言って、どうせただの食糧調達とかだろ?」
「今日は野牛何頭だ、ん? いい加減ローストの意味覚えたか? 炭になるまで焼くことじゃねーんだぞ?」
「……」
ギリ、とその場の全員に届く大きさでカラビウから歯ぎしりの音が聞こえた。
「……何? なんでお前ごときがイラついて見せてんの? ふざけんなよ、酷い目に遭ったのはこっちなんだからな!」
勇者らしき男がドン、とカラビウの肩口をどついた。
よろけたカラビウをキンが抑える。
「大丈夫か」
アデギウスが声を掛ける。
「……ゃない……」
俯いてボソッと何かを呟くカラビウ。
「ん? どうした?」
「わざとじゃない」
今度は聞き取れた。
そのせいで勇者男の機嫌が悪化する。
「わざとじゃなくたって悪いもんは悪いんだよ! 苦労して手に入れたレアアイテム燃やして! 貴重な建物半壊させて! 地形が変わるほどの集中豪雨呼んで! 全部お前がやったんだろうが!!」
「でも! やりたくてやったんじゃない! 僕が悪いんじゃない!! 僕じゃない僕じゃない僕じゃない僕じゃない僕じゃない僕じゃないっ……」
責め立てられたカラビウが堪りかねて叫び出した。
「おい落ちつ……っ、うわ?! 」
落ち着かせようと腕を掴んだアデギウスが振りほどかれた勢いで吹っ飛び、遠くの店舗らしき建物の外壁に体を打ち付けたせいで外壁のレンガが崩れる。
「だって僕は……僕はっ……!!」
息を荒げ拳を握るカラビウ……これは…もしや良くないやつか?!
「ちょっと、店の前で騒がないでくれよ」
ドアベルを鳴らして男達が出てきた一軒手前の店から店主が顔を出す。
ちらりと見えた店内に、発火の書が平積みされているのが見えた。
「おじさん! 発火の書を一冊ください! 早く!!」
「えっ? あ、ああ……?」
急いで駆け寄って店主の前掛けに代金を突っ込み、本を掴んで手渡す。『早く解錠!』と急かしつつもう一方にも指示を送る。
「マグマ! カラビウを乗せて飛ぶ準備だ!」
「お? おう!」
こちらは素直に聞き入れてカラビウの背後から股の間に低く頭をくぐらせて鞍の位置に来たところで立ち上がる。ぐら、とマグマの上でカラビウが揺れたが、落ちずにとどまっている。
「はいこれで……」
店主が言い終わる前に本を受け取って元の場所に駆け戻る。
「カラビウこれ持って! いい? ギリギリまで我慢して、出来るだけ上に行くんだ。限界だと思ったら、真上に放つんだよ! 真上! 分かった?!」
カラビウの胸元に本を押し付ける。返事がないから聞こえたかどうか分からないけど、伸びてきた手がそれを掴んだので少し離れてマグマに合図を送る。
「おいクソガキ! 人を無視してチョロチョロ何やってんだよ!」
勇者男が苛立った声で俺を威圧してくる。
まったく、粋がってる若者はめんどくさいな。
「騒ぐなよ! あんたら炭になりたいのか!!」
「っ」
マグマの上昇が始まった。
「急げ!」
「ぉぅ」
みるみるうちに赤い竜は遠く小さくなる。
そして空を見上げて何秒も経たないうちに晴れ渡った空に巨大な火の玉が浮かび、消えるともに地上に熱風が吹き渡った。
男達はその光景に完全に言葉を失っていた。
「あんたら、アレを相手に出来るの? 出来るんなら今度は邪魔しないけど」
クソガキの挑発に乗れずに男達は俺から視線を逸らす。
「……チッ、勝手にしろ」
捨て台詞を吐いた勇者男を先頭にして、彼らは元仲間の帰還を待たずにその場から離れて行ってしまった。
「ごめん、なんかカっとなっちゃって」
戻ってきたカラビウがヨロヨロとマグマから降りた。
「ルイス! コイツすげーよ! 俺よりでっかい火の玉吐いた!」
「吐いてない吐いてない。魔法だから」
「おい、大丈夫なのかよお前」
突き飛ばされたアデギウスが戻ってきて、汚れた鎧をキンがハンカチで拭いている。
「うん、なぜか今はすごくスッキリした気分なんだ」
「なんだ今のは……」
見ていた魔法書店の店主が呆然としている。
「カラビウ、発火の書、纏めて買っておいた方が良いんじゃない?」
「そうだね、『早朝発火』、日課にしちゃおうかな」
そうしてカラビウは店主から発火の書50冊を購入し、残りの全ての資金は外壁を破損させてしまった防具店に修理費として渡した。防具屋はその金額を見て目をキラキラさせ、かわりに魔力回復薬を一ダース持たせてくれた。
屋敷に戻った俺たちはロディに軍資金の支出内訳を報告し、カラビウはそれを横で聞いていたササから強めの回し蹴りを頂戴して嬉しそうにしていた。




