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王都内転送禁止

「人員補充も済んだことだし、そろそろ退魔に出ようかと思う」

 今朝の一件についての謝罪を済ませたロディが今後についての提案を始めた。

「連携の確認に丁度良さそうな仕事がないか組合で見てくるつもりだけど、行先に希望がある人がいたらあらかじめ教えてもらえないか?」

「珍しいー。いつもは勝手に決めちゃうのにー」

「暫く別行動だったからな。何か対応が必要なものを抱えているなら聞いておきたいんだ」

 その言葉を聞いて、それならばと手を上げたのが3人いた。

 最初はアデギウス。

「あの家具の脚だけど、工場に持って行って見てもらった方がいいと思う。素人目だけど珍しい木を使ってるように見えたんだ。作るなら材料調達してこいって言われるかもしれないんだけど」

 次にフィリーア。

「ルイスくんの装備とか、他にもいろいろアイテムを作りたいんだけど材料が足りなそうなの。鉱山を何か所か回れると助かるわ」

 そして、キン。

「海を見に行きます」

「そうそう、みんなで行こうって昨日約束したんだもんな。今度はのんびりしような」

 ジェイマーが補足し、キンが頷く。

「うむ…」

 それらを聞いて、ロディが考える姿勢をとる。

「距離的に一番遠いのは海だな。緊急でも無さそうだし、そこへ向かうまでに他の事を済ませられればいいだろうか。家具の件は俺の私用で申し訳ないが…アデギウス、御親類はどちらに工場を?」

「チット山のふもとにあるチルチットっていう小さい村なんだ。因みにあまりおススメはしないけどチット山は色んな鉱物が採れるよ」

「あ、知ってる! チット山で採れる天然石って大きくて色も綺麗なものが多いのよね。行ってみたいわ」

 フィリーアの目がキラキラし始める。それに反してアデギウスは渋い顔をした。

「ただ転送できるのはチルチットの村までだし、チット山には魔物は連れて入れないから移動は不便だよ。充満している瘴気の影響を受けて錯乱状態になって人を襲うらしいから、俺もまだ入ったことが無いんだ。生息してる魔物も気の荒いのが多いって聞くよ」

「山に入るとなればドラゴンも馬も使えない、か……」

 ロディが俺の方をちらりと見る。が、特別何を言うでもなく話をまとめる素振りをした。

「じゃあチルチット方面へ向かうことにして、道すがらに対応出来そうな依頼を探してくるよ」

「あ、じゃあ俺も一緒に組合について行っていい?」

 そう引き止めた俺を見たロディが凄く嬉しそうに『もちろん!』と答えた。

「やはり一夜を共にしたことで距離がぐっと縮まった気がするよね!」

「…ちょっと聞こえが悪いからその言い回しやめて?」

「ねーねー、組合に行くならコイツも連れてってやってー? なんか学校に忘れ物だってー」

 ドン、とササに突き出されたカラビウが申し訳なさそうにしている。

「ごめんなさい…全部引き上げてきた筈だったんだけどバッジだけ見当たらなくて」

「身分証無くすとかアホだよねー」

 退魔師それぞれが身に着けているはずのピンバッジ。名前や職業のほか、ランク試験の合格データなどが入っているやつだ。紛失したらやっぱり大変な事になるんだろうな。ついつい俺も勇者バッジがちゃんとあるかウエストポーチの中に手を入れて確認してしまった。

「学校エリアを探してもらって、無ければ再発行か? 幾らか日数がかかるんじゃなかっただろうか、経験者さん」

 ロディの言葉がチクリと刺さったのはフィリーアだった。

「う、うん、そうだね、3日くらいかかったかなぁー…その節は大変ご迷惑をお掛けしました……」

「新しいバッジが届いたと同時に紛失した方が見つかるなんてことが無ければいいけど。…じゃあとりあえず行こうか」



 数日ぶりに訪れた王宮は相変わらず大きい。

 見学ツアーが休止中のせいか、周辺の道を見回してみても一般市民の往来は少ないようだ。

「まずはカラビウの落とし物から片付けよう。総合窓口で良いか? それとも戦士担棟窓口?」

「ひとまずは戦士棟に…ハァ」

 屋敷からもう何回目だか分からないほどカラビウのため息を聞かされている。

「そんなに行きたくないのか?」

「めちゃくちゃ気が重いよ…みんな僕の事を人殺しだと思ってる場所だもん」

「生きてるってば」

「その話は解決したんだろう? だったら君が殺人犯じゃないことは王宮内全員に知れ渡っている筈だ」

「そうかなぁ…」

「俺が一緒に歩いてることが一番の証拠だろ? なんなら『僕はカラビウに殺されてません』って書いた紙でも体に貼って歩こうか?」

「良いの?!」

「嫌だよ! 励ましただけだから真に受けないでよ!」

「ハァ…」

 とまたウザったいため息を聞かされつつ戦士担棟の窓口に到着した俺たちだったが、人垣に阻まれてすぐに入ることは出来なかった。

「何だろう…怪我人?」

 入口前の地面に大勢の大柄な男たちが座り込んでいて、彼らの体の至るところが血に染まっていた。バタバタと医務官が駆けつけて怪我の程度を確認しつつ処置しているようだ。

「失礼、何かあったんですか?」

 ロディが様子を見ていた男に声を掛けた。

「いやぁ、突然緊急転送でドサーっとこの人たちが飛んできてね、巻き込まれた歩行者が怪我をして先に病院へ運ばれて行ったんだよ。まったく…怪我してるとは言え一体どこから飛んできたんだか」

「王宮の中に走って入っていった魔法使い、すごい顔してたねぇ。どこかで何かあったんだろうかねぇ」

 そばにいた老婆が男たちを見て心配そうに言った。


 次々と怪我人が運ばれていき、王宮職員が『問題ありませんのでご心配なく』と集まった人たちを解散させる。

「さぁ、皆さんも…」

「いえ、俺たちはこちらに用があるので」

 職員を躱し建物に入ろうとしたとき。

「ロディか、良いところにいたな」

 職員用出入口から呼び止めてきたのはジェイコフだった。

「ジェイコフさん、さっきの騒ぎは?」

「ああ、ちょっと「出て」な。おい、この辺の色が付いた所はさっさと片してくれ。それと…なんだったかな、あの、病院の偉いヤツ」

「ミリエット様ですか?」

「そうそう! あの姉さんに『担当者が詳しく話を聞きに後から行くから全員逃げないように病室に閉じ込めておいてくれ』って頼んでおけ」

「はい、わかりました」

「騎士担棟には連絡は行ってるんだったか?」

「はい、すぐに会議室に各責任者を集めるという話でした」

「そうか、わかった。俺は組合からすぐに動けるヤツを見繕って連れていく。先に進軍の許可取りを進めるように言っておいてくれ」

「はい」

 ジェイコフの指示を受けて部下らしき職員たちがきびきびと動きだす。それを確認してからジェイコフがもう一度ロディの方に向き直る。

「お前のところはこのあと時間あるか?」

「彼のバッジを見つけた後で組合に顔を出そうと思っていたのですが…緊急に人手が必要ですか?」

「まぁな。ところでそのお兄ちゃんは?」

「はいぃ! カラビウと申しますぅ!」

 ひょろ長いカラビウが姿勢を正して更に長くなった。

「ああ、あの事故を起こしたヤツか。学校辞めちまったんだって?」

「は、はい…すみませんでした、王宮の皆様には大変なご迷惑をっ…」

 足に頭が付きそうなくらい深々と頭を下げるカラビウの背中に、大きな手が一発気合を入れるようにバチンと振り下ろされた。

 よろけたカラビウが後ろに転びそうになり、慌てて俺が支える。

「やっちまったことは気にするな。詫びたい気持ちがあるならお前の出来ることで国の役に立ってくれ」

「は、はいっ!」

「で、バッジだってか? なあ! すまんが戦士クラスに在籍していたカラビウが退去時にバッジを紛失したようだ。至急で確認してもらってくれ! 俺たちは移動するから見つけたら上の階へ頼む!」

「わかりました」

 声を掛けられた窓口カウンターの担当者が頷いた。

「じゃあ行こうか」

 ジェイコフがズンズンと俺たちの前を歩いていく。

「まったく、探している時には出てこないくせに今更かよってな……」

 周りに聞こえるくらい大きな声で苛立ちの混じった独り言を吐き出しながら。

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