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お招き

「ロディ…ごめん、いろいろ迷惑かけてて」

「うん? 迷惑とは何の事だ?」

 心当たりがない、という顔をされてしまい、いま俺の方もおんなじような顔をしていると思う。

「今のこの騒ぎとかメルシアの事とか…俺を団に置いてくれてることとか」

「う~ん……」

 ロディが腕を組んだ。そんなに悩ませることは言っていないと思うが。

「オザダとフィリーアから聞いたが、ドラゴンが暴走したのはアデギウスが君の制止を聞かなかったからなんだろう? メルシアさんは…抜けられたのは正直痛手だったけど、それは君のせいじゃないしね」

「でも俺を受け入れたのはメルシアがいたからだろう?」

「確かに、メルシアさんがいなかったら君とは出会ってなかったかもしれないな。けど『君だけ残って迷惑だ』なんてことは思っていないぞ。そもそも俺は最初君の話を聞いたときから興味があったんだ。これからやっと一緒に行動できそうだからとても楽しみなんだよ」

「……俺、別に興味湧かれるほどのことはなにも無いよ?」

 すると、ロディは俺の返答が不服だったらしくグイっと一歩迫ってきた。

「何を言ってるんだい。魔力が使えないっていうすごくレアな境遇が【ある】じゃないか。困難の中で君がこの先どうやって活路を見出していくのか、それとも志半ばで果ててしまうのか。それを俺は是非見届けたいんだよ!」

「は、はぁ……」

「旅をしていて思うのはねルイス、人間って括ればそんなに種類が無いんだなってことなんだよ」

 今度は一歩離れて空を見ながら語り出した。

「助けを求めないと生きていけない人、自分の能力の範囲内で生活をする人、人を助けることが出来る人……俺はね、『助けて』と頼まれたら必ず助けられる勇者になりたいんだ。そして、そのためには強くなりたいし、強い仲間が欲しいと思うんだ」

「うん」

「それなのに君はどうだい? まだ子供で非力で助けが必要なはずなのに、その辺の魔物とならある程度戦えるみたいだし、記憶が残り続けてるから生きるための知恵や知識も豊富なんだろう? それにドラゴンとも会話が出来たり、死にかけたときに翼が生えたり? と意味が分からない事も起こす。まったく謎だらけじゃないか。ますます気にならない筈がないだろう」

「うん、まぁそうなのかな…………」

 こうやって改めて言われるとやっぱり特殊なんだなと思わされる……んだけど、そもそも魔法がある世界だからかなぁ……俺だけ突出してるようには感じないんだよな。

「ということで、俺は君への興味だけでこれからも同行してくれることを嬉しく思っているからね。あまり気を遣わずにやりたいようにやってくれ」

「…………わかった。ありがとう」

 実際のところ、それほど理解はしていないんだけど。

 要するに『こいつ連れてたら何か起きて面白そうだな』的なこと?

「そうだ! 親睦を深めるためにも今晩は俺の家に泊まりに来ないか?」

 …………。

 …………え。



 広い。

 ササの屋敷の庭から見てはいたけど、外観がデカい屋敷は中に入ってもデカい。

「うわー、すごい家だなァ……」

 呟いたのは俺じゃない。

 アデギウスだ。

 ようやく落ち着いてセシルから身を剥がしたところで『丁度いいから君もおいで』と俺と一緒に引っ張ってこられた。

「せっかくだからカラビウも連れてくれば良かったかな。そういえば彼とササを見かけなかった気がするが」

「夕食後にメルシアから大量の魔法書が届いたみたいだったよ。二人で仕分けるって言って部屋に籠ってからは俺も見てないな」

「そうか、忙しいなら邪魔は出来ないな」

 玄関ホールを進んでいると、奥から従者らしき男性が現れた。

 ……なんだろう、仕えている相手への顔つきでは無いような…………。

「……ロディ様でしたか。本日もお戻りで…………」

「ああ、彼らを俺の部屋へ招待したんだ。食事は済ませてあるし、特に頼むことは無いよ」

「…承知しました。それでは失礼致します」

 そう言うと男は礼もせずサッサと引っ込んでしまった。

「さぁ、行こうか」

 ロディは気にする様子もなくホールの中心に置かれた幅の広い階段を上っていく。中ほどで左右に分かれるところを右に進み、上りきった廊下を左に。そして一番奥の部屋へ通された。

「デカ!」

 叫んだのは俺だ。とんでもない存在感のベッドが目に飛び込んできたせいだ。

 一体何人用なんだコレ…………。

「あれ? この部屋って…………。」

 とキョロキョロし始めたのはアデギウスだ。

「元々は俺の母の部屋だったんだ」

「ああ、そうなんだね。装飾品に女性が好きそうな曲線が多いなって思ったんだ」

 言われてみると確かに家具や額縁などに丸みを帯びたものが多い。

「アデギウスはこういうものに詳しいのか?」

「そういうわけじゃないんだ。親戚に家具職人がいて、小さいときに製作所へ行って造ってるところを見てたってだけで」

「そうなのか……あ、だったらちょっとこれを見てもらえるか?」

 ロディが部屋の奥へ手招きする。

 それは滑らかな曲線の脚に支えられた年代物の化粧台だった。よく見るとその脚には花模様が彫られていて……そのうちの一本が………。

「この部屋で鰐とか獅子とか飼ってる?」

 アデギウスがそう聞きたくなる気持ちがわかるくらい、ボロボロだった。

「…犬だよ。噛み癖のある子がいてヤられてしまったんだ」

 ロディが隣の部屋と繋がっているドアのノブに手を掛けた。

 あ。向こう側からドアを引っ掻く音が聞こえてきた。

 吠えてるのも鼻を鳴らしてるのもいる。

「二人とも犬は平気?」

「え? ああ、好きだよ」

 何も知らないアデギウスが答えた。

 ちょっとだけ知ってる俺はどう返事するべきか戸惑った。

「ルイスは苦手なのか?」

「そうなのか?」

「あ、いや、…全部だったら心構えをと思って……念のため避難しても良いかな?」

 俺は目ぼしい場所を見つけて指さした。

「ああ良いよ、でもそこまでしなくても大丈夫だとは思うけどな」

 俺は許しをもらえたのでジャンプしても犬が上がれなさそうなハイテーブルの上に乗らせてもらった。ロディは笑ったけど万が一という事もあるしな。

「では……」

 ガチャ、とノブを回しただけで、こちらに開くドアを多分ロディはまだ引いていなかった。

 ガリガリガリガリ、と爪が床で滑る音がして、ドン、ドン、とドアに何度も衝撃が加わる。隙間からいろんな前足が出たり入ったりを繰り返し、徐々にドアが開いていく。

「……犬、だよね? 本当に大丈夫なのか?」

 アデギウスが不安になったのかロディに確認する。しかしそれに対しての返答はなく、

「今日はお客さんがいるから少しだけ興奮してるみたいだな」

 ロディが笑って一気にドアを開けた。

 牙をむき出しにした犬の群れが吠えながら部屋になだれ込んでくる。

 驚いて逃げたアデギウスは標的となり、逃亡先のベッド上で犬たちが飽きるまでもみくちゃにされた。

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