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銀の竜金の竜

「何か言ったか?」

 一緒に俺の横でセシルの出現を見ていたマグマが急に俺の方を向いて言った。

「言ってない言ってない」

 …言ってないよな? 心の声が漏れたか?

「セシル、みんなと仲良くするんだぞ」

「ガァウ」

 セシルはひと声返事をして、マグマの方を見た。

 自分より大きなセシルにビクつくこともなく、いつもと変わらないマグマが話しかける。

「よう、お前も晩飯食うか?」

「ガゥ?」

「食えるさ。食ったらもっと強くなれるぜ!」

「……」

 …あ。これ、もしかして新入りを良くない道に引っ張り込んでる図か?

「コラちょっと待て! むやみに勧めるな!」

「ガゥガゥ!」

 銀色の頭と尾が揺れる。これは…喜んでいる…。

「こいつも食いたいって!」

「……バカ」

「急にどうしたんだセシル」

「ごめん、うちのバカが飯を食うかって聞いたもんで、セシルが食べる気になっている」

「え? 食べるって…?」

 アデギウスがキンとのやり取りに集中している間にマグマの食事は終わっていて、こいつがカモの丸焼きを丸呑みしているのにも気づいてなかったんだろう。

「俺の明日の分上げても良いだろ?」

「ご主人の許可がないのに勝手な事したら駄目に決まってるだろ。…アデギウス、とりあえず一回こいつとセシルに『駄目だ』って言ってもらって良い?」

 俺の方の言葉しか分からないアデギウスは、キョトンとした顔をしている。

「えーと、『駄目だ』?」

「ガウ!」

 セシルが間髪入れず吠えた。

「『何で?』って聞いてる」

「…普通は食べないからだよ。マリーさんだって食わなかったろ? お前が特別ヘンなの。他の子を巻き込むな」

「ガウガウ」

「『アデギウスの為にもっと強くなりたいんだ』って言ってる」

「えー? 本当に言ってるか? お前、自分の都合の良いように通訳嘘ついてない?」

「ついてねーよ! 俺は嘘つかない!」

「ホントに言ってたとしても駄目! お腹壊したら大変だろ!」

「大丈夫だよ! なあ?」

「ガァ!」

「ほら!」

 そんな言い合いをしていると、勢いよくテラス戸が開き、更に部屋の方からバタバタと人が出てくる音がした。会話を中断してそちらに目を向けると、ジェイマーとフィリーアがぴったりくっついて……壁を作っている?

「二人でなにしてるの?」

「いやー、セシルが出てきたのが見えたからさー、もっと近くで見ようかと思って…な?」

「そうなの! 凄く綺麗な色ね!」

「あ、うん。ありがとう…」

 その割に二人はその場から進もうとはしない。

 …そういえばセシルを挟んで向こう側にいたはずのキンが見当たらな………いた。

 溶けて地面に金溜まりが出来ていて、その表面がもぞもぞ動いてる。

 二人でそれをアデギウスから見えないように隠しているんだ。

 ……いつまで引っ張る気だ? 今が驚かせるタイミングとしては一番良かったんじゃないのか?

「ところでなんの話をしてたんだ?」

 ジェイマーがアデギウスの注意をそらすために話を振る。

「ルイスが言うにはセシルが何かを食べたがってるって。今まで食べ物に興味ある素振りなんて見せた事ないのに……」

「あー、それは大変だな。なぁフィリーア」

「うん! 良くないよ、マグマみたいになっちゃうもんね」

「マグマみたい…って? どうにかなっちゃうのか?」

 アデギウスが俺に聞いてくる。

「そう! ドラゴンは食べ物を食べるとバカになるんだ。だから与えちゃ駄目なんだよ」

「俺は馬鹿じゃない!」

「食欲馬鹿だろ」

「馬鹿じゃないー! もっと食いたくても我慢してるぞー!」

 翼をバサバサ広げて地団太を踏む。セシルが増えてスペースが狭まった分この行為は迷惑極まる。

「あーもうわかったよ、お前は馬鹿じゃない。俺が悪かったから落ち着け」

「よし、許してやろう」

「あのさ……」

 マグマに許してもらったところでアデギウスがもう一度俺に話しかけてきた。

 真面目な顔で見られるとむきになってたのがちょっと恥ずかしいな。

「会話、してた?」

 ! バレた!

 ……って、この件は隠せって言われてないから良いよな。

「じつは俺、マグマとだけは話が出来るんだ」

「やっぱり? 凄いな! どうやってるんだ?」

 お。ぐいぐい来るか?

「えーと、ちゃんと話すと長くなるんだよね……」

「あ、もしかしてそういう事?!」

 パン! と手を叩いたアデギウス。 彼の背後にいたオザダとガララが、手の動きが見えていなかったせいで突然の破裂音にビックリしてビクンと跳ねた。

「だったら、えーと……」

 アデギウスが腰に付けている小さなカバンに手を入れてゴソゴソさぐり出した。

「あの、そういう事って……」

 訊き終わる前に何かを掴んだらしく、一気に引き上げる。カバンからはそれよりも何倍も大きなカツオみたいな魚が出てきた。

「……よしセシル、口を開けるんだ!」

 セシルはアデギウスの指示を受けて大きく口を開けた。

「ちょ、ダメだよ!」

 俺は慌ててアデギウスを止めようと前に踏み出したが、それを察知したセシルがグイっと体制をこちら側に寄せてきて進路を塞がれた。銀色の山のせいで何も見えなくなる。

「どんどん食え」

 何度もセシルが魚を飲み込む音が聞こえてくる。

「ちょっと! そっち側の誰か、早く止めろよ?!」

「あー、ごめん。俺らまだ動けないわー」

 まだキンを隠してるのか。

 って、そんなことにかまけている場合か?!

「ほーら、まだまだあるぞー」

「オザダ!」

「ヒィーン!!ヒィィーーン!!」

「すまん! ガララが怯えていて手が離せない」

 さっきの破裂音か!

「もうっ、誰かいないのか?!」

 その時。

「ギャオオウ」

 ドラゴンが吠えた声が聞こえた。

 近くのマグマからではない。

 セシルでもなかった。

 ……ということは。

「…ややこしいなぁ」

 急いでセシルの背後を回り込み、ジェイマー達の方へ急ぐ。

 案の定、前方にあるはずだった金溜まりが無くなっていた。

「な、なんだこれ?!」

 アデギウスが叫び声を上げる。

「ギャオオウ」

 多分キンがセシルに向かってもう一度吠えた。

 セシルが少し間をおいて吠え返す。

「ガウガウ、ガァウ!」

「ギャアァ」

「マグマ、これどういう会話?」

「『キンです。よろしくお願いします。』、『キンです。よろしくお願いします。』、『何その姿! ブっ飛んでるね!』、『キンは飛べません』だよ」

 なんだ、ただ挨拶を交わしているだけか。

 走るスピードを緩めたその時、会話がまだ続くことに気づいた。

「ガアガゥ、グルルルル!」

「ギャ」

「ガオオオオ!!!」

「『じゃあ俺が空に連れてってやる、今凄く飛びたい気分なんだ』」

 …………ん?

「『ありがとうございます。』」

 ……おい。

「『行くぞ、しっかりつかまれ』」

「ま、待て待て待て!」

 やっとセシルの顔の位置にたどり着くと、その額の辺りをよじ登っていく金色の竜が目に飛び込んできた。

「ストップ! 止めて! アデギウス、セシルを止めて! 師匠も見てないで手を貸して!」

「なに焦ってるんだ?」

 ドラゴン達がじゃれてるだけだろ、とジェイマーが笑った。

「セシルが飛びたがってる! 覚えてるだろ、マグマが暴走したときの事!」

 上がってた口角がみるみるうちに下がって来る。

「……。フィリーア、あの鎖持ってるか」

「えっ、今?」

「急げ、どこまで飛んでいくか分かんねーぞ!」

 そう言って自分のアイテム倉庫から大きな投網を取り出してセシルの上空に放り投げた。

 …が、気付いたセシルが赤黒い火を放ち、一瞬で燃やされてしまった。

「アデギウス、ダメだってば! もう食い物を出すな!」

 俺が腕にぶら下がって止めようとしてもアデギウスは夢中で魚やら果物やらをカバンから出してはセシルの口に投げ込んでいく。

「どれくらいで喋れるようになるんだ? もっとか?」

「違うってば!! …マグマ!」

 俺は力ずくで止めるのは無理だと諦め、マグマを呼ぶ。そして首元に手を伸ばした。

「お前の鎖を貸せ!」

 しかしそれをジェイマーに止められる。

「ダメだルイス! もしもの為にマグマの魔力は取っておいた方が良い!」

 そんな。だったらどうすれば…。

「フィリーア!」

「うぇ…ま、待ってよぉ。急かされると見つけらんない……もうっ!」

 カバンの中をガチャガチャ探していたフィリーアだったが、やけになったのか両手で高く持ち上げたカバンを口を開けたままひっくり返した。

「全部!!」

 そう叫ぶと雪崩のような轟音を立てながらカバンの口から大量のアイテムが放出された。

 ためらうことなくフィリーアがその山の中に潜っていく。

「っ、っ~~~っ」

 ガチャガチャとアイテムを掻き分ける音とともに言葉として聞き取れない声が山中から漏れてくる。

 しかし、鎖の発見を待たずにセシルが翼を大きく広げた。

「まずい!」

 ジェイマーが近くに落ちていたロープを投げ、翼の根元に巻き付けた。

「ルイス、鎖を受け取ったら追っかけてこい!」

「ジェイマー?!」

 バサッ、と大きな羽ばたきで巻き起こった風に飛ばされそうになる。

 なんとか堪えて風が納まった時にはもう、銀色の竜は遥か上空だった。

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