口止めの魔法
「違うんですか? あの庭にいる女の子のことですよね? そういえば彼女は夕食は一緒じゃないんですね?」
真面目に聞いてくるアデギウスに誰がどう答えるのがベストなのか、メンバー内で無言で視線を交わし合う。
要するに、ちゃんと教えてあげるのが良いのか、歓迎ドッキリで盛り上がるかの協議だ。
当然、多数決で決まったのは後者。ジェイマーが楽しそうに語り出す。
「そうそう、あの子、オザダの連れだからね、手ぇ出したらダメだよ?」
「なっ…………んぐぅ!」
フィリーアがオザダの口に水分少な目のパンを突っ込んだ。
「んー? んんーっ?」
同時に俺の向いに座ってた下僕がギュッと閉じられた自分の唇を引っ張り始める。
「っ?! んん??」
そしてロディはフォークを口に挟んだまま抜けなくなったらしく、ササを戸惑いの目で見る。
二人に挟まれているアデギウスが両側が突然呻きだしたことに驚いている。
「ジェイマーが話してるところだからー、みんな静かに聞こうねー」
そういうササの両手がテーブルの下だ。
一体何の魔法だ? 沈黙魔法か?
二人…とパンをもごもごさせているオザダから注意を戻すためジェイマーが話を続けた。
「いいかいアデギウスくん? オザダは口下手だから俺が代わりに伝えるけど、これはうちの団ではとても大事なことだからしっかり覚えて欲しい」
いまから深刻な話をする雰囲気を醸し出す。
「彼女、訳あって凄く食が細いうえに人前で食べ物を口に出来ないんだ。あまり感情の起伏がない子だけど、そのことを話題に出すと気にされてるって凄く気にするから言わないで欲しい。それから、人からじろじろ見られるのも苦手だから適度に距離を保ってもらいたい。あとはー……たまに不思議なことを言うかもしれないけど、気にしないでくれていいから」
アデギウスは真面目な顔でジェイマーの話を聞き、真面目な顔でオザダを見た。
「……わかりました、深くは聞きませんのでご安心を。後でご挨拶だけさせてもらいますね」
オザダはフィリーアがもう一つパンを突っ込む準備をしているのが視界に入ったのか、無言で頷いた。
「じゃーつぎー、あんたの番だよー。……いらないこと喋ったら一生口開かないようにするからねー?」
「……っぷはぁ! ……」
下僕の口が開くようになった。
「ほらほらー、さっさと自己紹介だけするー」
「は、はいっ」
ササの鋭い眼差しに目をパチパチさせる。
「僕はカラビウと申します。先日まで戦士の勉強をしていましたが本日より再び魔法使いに戻りました。それより前には退魔師団オール、チームコロコム、魔導士集団エリオブルー、最強退魔団蓮華会に在籍しておりました。現在ランクはA。趣味は植物鑑賞、特技は魔法。ご主人様の為に頑張ります! よろしくお願いします!」
「……随分所属を変えているんだな。なにか理由が?」
いつの間にかロディの魔法も解けていたみたいだ。
「毎回僕の魔法が変だからって言われてましたけど……。弱い魔物に必要以上に強い威力の魔法を飛ばしてしまって辺り一面焼け野原にして国から怒られたりとか強い魔物に対面したときに強力な魔法が急に出せなくなって命からがら逃げることになったりとか。でもそれって僕のせいじゃなくて魔法書の欠陥ですよね。魔法の強弱は魔法書の中身で決まるんですから」
「それは不可思議な話だな。魔法書店や王宮に問い合わせてみたのか?」
「どちらに見せても『どこも異常がない』って言われました。こういう不祥事は隠したいんでしょうね。……そういう意味では僕、不運を引き寄せてしまう性質なのかもしれません」
「そうか……それは大変な目に遭ったね。俺のところは途中で追い出すようなことはしないから安心してくれ」
「ありがとうございます。ロディ様」
朝の出来事に遭遇した面々は『多分原因はコイツだなー』という目でカラビウを見ていたが、ロディは気付くことなく歓迎した。
「ということで今日から仲間なんだから堅苦しい言葉遣いは無しにしよう。年齢も新入りも古株も関係なく、もし意見があればお互い納得するまで話し合おうじゃないか」
「ああ!」
ロディのいかにも勇者らしい爽やかな呼びかけにアデギウスは気持ちのいい返事を返した。
……が。もう一人の方は考え中の様子で、ロディが確認に声を掛ける。
「カラビウ? 俺は何か気になることを言ったかな?」
「違うんだロディ。君の発言はとても素晴らしいと思ったから今から敬語はやめるけど……申し訳ないがご主人様だけは呼び捨てには出来ないんだ」
「さっきから気にはなっていた。『ご主人様』とはササの事だな?」
「そう。これから僕の躾をしてくれるご主人様さ」
なぜかカラビウが嬉しそうだ。そしてササが不機嫌だ。
「気安く名前を呼ぶなと言われたんでね、ご主人様と呼ぶことにしたんだ」
「ササはそれで良いのか」
「良いわけないでしょー! みんなから変な目で見られちゃうじゃないー!」
罵声とか蹴りとか、様になってるから案外すんなり受け入れられそうな気もするけど。
「じゃあ『姫』にしたら? 俺もそう呼ばされてるし」
「『姫』! それは良いね! 良いでしょうか、姫?!」
「……なんかアンタだとやっぱりイヤだけど…もういいよそれでー」
ササはハァとため息をつきながら承諾した。
「こんばんは。キンさん、ですよね」
「はい、キンです。こんばんは」
俺達の食事を終え、いつものように俺はマグマに夕食を食わせ、オザダはガララの手入れをしていた庭にアデギウスがやって来た。
キンの方へ歩み寄ってくるアデギウスだが、ジェイマーの言いつけ通り多めに距離を取って立ち止まった。
「新しく入ったアデギウスと言います。これからよろしく」
「はい。よろしくお願いします。アデギウスさん」
お辞儀をしたアデギウスに、同じ角度で返すキン。
「えっと、オレには全然気を遣わなくて大丈夫だから、何かあったら言ってくれよ」
「何かとは何でしょうか。それにキンは気の遣い方が分かりません」
「え」
キンからの切り替えしに早速戸惑っている。
これはバレるのは時間の問題だろうな。
…あ、家の中からジェイマー達がこっちを観察している。
「えーと、大変だなとか分からないなと思ったことがあったら俺が忙しそうに見えたとしても相談しに来てくれると嬉しいな、っていう意味だよ。……あ、もちろん仲間として! だよ」
最後はオザダを気にして付け加えた台詞だと思うが……キンは言葉の通り受け取っただろうな。
「はい。分からない事はアデギウスさんに聞きます。アデギウスさんは仲間です」
コクリと頷いたキンを見て、アデギウスは満足したようだ。
「キンさんはいつもここにいるの? ドラゴンとか馬とかが好きなのかな?」
「ガララとマグマは仲間です。好き、は分かりません」
「……そう」
打ち解けられるかと思って聞いたんだろうが…キンだからなぁ。
気を取り直すようにアデギウスがキンに向けていた体の角度を俺達の方に変えた。
「……あの、オレのセシルもここに出したらダメかな? ぎゅうぎゅうになっちゃいそうだけど」
「どうせ夜間は動かないし、良いんじゃない? なぁオザダ」
「構わない。こいつらも仲間が増えたほうが喜ぶ」
「ありがとう」
俺達は念のため塀際に寄る。アデギウスが腕のリングを操作すると、光とともに銀色のドラゴンが現れた。マリーよりは小ぶりだがマグマの倍以上はあるので、一気に庭が狭く感じるようになった。
それにしても銀色か…カッコいいな。




