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入団決定

「縛るよ」

 空中に光る輪っかがいくつも現れる。

「何もしませんってば~」

「あんたが何もしなくても放っておくとウチの奴らが手ぇ出しそうなのよ」

 飛んできた光の輪は男の手首にするりと填まった…と、次の瞬間

「んぎゃっ」

 男が突然叫び声を上げてその場に座り込んだ。

 見ると後ろ手に固定した光の輪から何本もの細い杭が伸びて地面に突き刺さっていた。

 同じように足も膝と足首を絞められて杭打ちされる。

「動けるかい?」

「こんなの動けるわけないです!」

 身じろぎするが地面に刺さった杭が僅かに揺れるだけで今度は外せないようだ。

 それを見たメルシアが眉をしかめた。

「…グレイス、あんた露出の本持ってる? こいつを見てくれ」

「露出? ええと、まだあったかしら~…っと」

 グレイスが本棚を出現させて探す。……というか、部屋ごと呼び出してるな。テーブルや床に積まれた本まで見える。

「あったわ。でも何を見るの?」

「わからないか? こいつ、魔力の量がおかしい」

 メルシアが細かく震えている杭を指さした。

 ということは、本来なら微々たる動きもしないものなんだろうか。

「あらそうねぇ…甕の数は二つしか見えないのに…変ねぇ…?」

 グレイスが男の横に立つ。目を閉じ、本を開いた。

 露出魔法……。あれだ、目玉が飛んでくるヤツだ。思い出したら体中の産毛がちょっと逆立った。

「ええとー……。……あら?」

「どう? 他にも甕を隠してある?」

「いいえ、数は二つなの。でもこれ…………割れてるわ」

「割れてる?」

 その場にいた全員が驚き、ざわついた。

「どういうことだいグレイス?」

「甕の底にヒビ……いいえ、それだけじゃないわね。小さな穴が空いていて魔力が漏れてる。身体に溜まってるんだわ」

「本当かい? そんな事例は聞いたことがないな」

 今まで口を挟まなかったロロックも興味が湧いたのか近づいてきた。

 伝説の退魔師達に囲まれ、男は身を竦ませながらキョロキョロと目を動かしている。

 これでジェイコフまでこの場にいて凄まれたらどうなっていただろうな。

「自分では知っていたのかな?」

 ワフが優しい口調で問いただす。

「し、知りませんでした……ぼ、僕はどこか変なんでしょうか?」

 不安そうな顔でワフを見上げる男。

「僕のガラスを割ったのはこの力かな……」

「そうだろうね。溜め込んでた魔力が一気に斧に移ったんだろうさ」

「危ないわねぇ……とは言っても初期甕だから交換も出来ないし……甕の破損なんて修復出来るのかしら?」

「どうかな……たった今見つかった症例だからね。もし出来るとしても先の話だと思うよ」

「グレイス、まだそのまま中を見ていてくれ」

 メルシアが指示を出す。

「ええ、いいわよ」

「おい、これを外したら許してやるからやってみな。そしたらもう縛らないから」

「本当ですか?!」

 男はまるで女神にでも出逢ったかのようにメルシアを見つめた。

「ではいきますね! せーのっ!」

 セルフの掛け声に乗って、男が力を込める。

 まず腕を固定していた杭がブチブチと何本か切れ、少なくなったところで残りが土の中から一気に抜けた。そして後ろに纏められていた手首が前方へ戻されるのを防ぎきれない光の輪はまるでゴムのように伸びていき、弾けて消える。自由になった両手で足の拘束も易々と引きちぎり、男は再び立ち上がった。

「出来ました!」

 周りの空気も気にせず男は得意げだ。

「……どう?グレイス。体内の魔力残量は」

「……そうね、かなり減ったけどまだ多いわね。……この子の甕がいつも枯渇してるもんだから取り込む力が鍛えられたのかしら。入って来る速さが普通じゃないわ」

「……あんた、さっき何でもするって言ったね」

「え……?」

 メルシアが男をじっくり見まわし、……鼻で笑った。

「ササ、丁度よかったじゃないか?」

「へっ?」

 急に話を振られたササが素っ頓狂な声を上げる。

 そういえばさっき部屋の方で話していたことがササには伝わっていなかった。

 これは…一番近くにいる俺が言わなきゃいけないのかな……ちょっと怖いんだけど。

「姫、姫、この人、仲間になるみたいだよ」

「……はー?! 何それ冗談でしょ?!」

 ああ、やっぱり怒った……。

「どういうこと?! うちの団に人殺しを入れるの?!」

「死んでない。俺死んでないよ姫」

「皆もイヤでしょ? フィリーア! ねえ!」

 そういえばササと一緒に怒っていたフィリーアが大人しくなっていた。

 ワフとメルシア両方の拘束が効かなかったことに衝撃を受けているようだ。

「えっと……イヤはイヤだよ。…でも…泣いて謝ってるし…ルイスくんが良いなら…戦力としては入ってもらった方が良いのかもって……」

 フィリーアの視線がササと俺と男とメルシアの間をグルグルしている。きっとササの事を気にしているんだろう。

「甘い! こんなの連れて歩いたらまた暴発して被害が出るに決まってるわよ!」

「だからあんたがちゃんと面倒見てやるんだろ」

「嫌よ! 無理! この人何か変だし!」

 ササが上半身全部をブンブンと揺すって拒否の意思を伝える。

「だったらあんたが攻撃魔法を受け持つかい?」

「んぐっ」

 ピタ、と止まったササがゆっくりメルシアを見上げる。

「……魔法使いは組合で探すし!」

「こいつが旅に同行するのはグレイスが見たから確定なんだよ。さっきよりも強力な拘束具でも付けてただ引きずって歩くのかい?」

「そんなぁ! もう縛らないって言ったのに!」

「どうせならこの魔力を有効に使ったほうが荷物にならなくて良いんじゃないかい?」

「…それは……まぁ………でも……えぇー……確定なのー…?」

 すごく嫌そうに男を見るササ。俺の事どうこうじゃなくて、単純にこのタイプが苦手なだけなんじゃないか?


「……あんた、うちで魔法使いやれるの? 半端な気持ちだと死ぬよ? ……怖いなら、今なら逃げても許すから、付いてくるかどうか決めて頂戴」

「はい! 頑張ります!」

 男が即答した。

「えぇー…………」

 ササがあからさまにイヤな顔をした。



「ただいま。竜騎士、決めてきたよ」

 夕飯前に戻って来たロディは男を一人連れてきた。

「どれどれ~」

 部屋に入ろうとするところをグレイスが塞ぐ。

「な、なんですか?! え? 先読みのグレイス様!?」

 狼狽える竜騎士の男。構わずグレイスはじっと男を見つめ、

「うん大丈夫。この人で合ってるわよ」

 と振り返ってニッコリ笑った。

 こちら側はそれを聞いてほっと胸を撫でおろした。

「よし、決まったな。じゃあ帰ろうか」

 とメルシアが椅子から立ち上がった。

「ちょ、待って待って! 俺の事は?! まだ何にも聞いてないんだけど!」

 慌てて引き止めると、後ろ姿のメルシアからチッと舌打ちが聞こえた。どういうことだ!

「仕方ないね……グレイス、あたしが魔力譲渡やるからあんたはルイスの中を見ててくれ」

「え? あー、……ごめんなさい、露出の魔法書はさっき使いきっちゃったから今は無理よ」

「ああ、そうだったな。そういうことだ、すまんなルイス。また今度だ」

 …………。

 …………は?

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