親睦会
「お、おおおおお俺、ゼ、ジェ、ジェイマーって言いますぅっ!!」
玄関扉を開けた向こうに自分の名前も言えないほど興奮しているジェイマーが見えた。
フィリーアは口元を覆って声を詰まらせ、一緒にいたササは…いつも通りだな。
かなり離れた位置にオザダも戻って来ているが、近づけないようだ。そんなオザダに構わずマグマはグングン近付いて来る。
「ササちゃんのお仲間さん?」
二人の男性のうち長い髪を後ろに緩く三編みにしている一人は、柔らかな声でササに話しかけた。
「そうだよー」
もう一人の体格のいい男性はササの腰の辺りを両手で掴んでそのまま上に持ち上げた。ササは嫌がりもせず持ち上げられている。
「何処かに出掛けてたのか? ロディがいないようだが?」
「後から来るよー。それより何でいるのー?」
「グレイスから連絡を受けてな。ロロックとメルシアが呼んでるって言うからここで集まることになったんだ」
「お邪魔しても良いかな?」
「良いよー。もう開いてるー」
浮いたまま玄関を指差したササ。それを目で追った二人が振り向いた。
「おやルウル、いたのかい」
三編みの男性はその声に相応しくふんわりと微笑んだ。
「いらっしゃいませワフさん、御三方は既にいらっしゃってますよ」
「ありがとう……おや、こんにちは」
「こんにちは」
ルウルの奥に俺がいたことに気付いて俺にも笑みを向けてくる。
この人が技工士で作家のワフか…。
「ササちゃんの弟くん……なわけはないか、もしかしてササちゃんの…?」
「違いますとも!」
これにはルウルが慌てて否定した。
「やめてください、メルシアさんのお孫さんですよ」
「ルイスです」
「あ、じゃあ君が斧が刺さったっていう…? ごめんね、大丈夫だった? 傷は残らなかった?」
名前を聞いてワフは目を大きくさせて俺を観察し始めた。何でこの人が謝るんだ?
「だ、大丈夫です」
服の隙間から中を覗こうとしてくるのには黙ってされてはいられずに俺は部屋へ走って逃げた。この場合、盾にするのに一番適しているのは………キン!
「ルイス、どうしましたか?」
「何でもないよ、俺のことは気にするな。ここに立っていて」
キンをドアの方に押しやり、俺はテラス戸の近くまで退避した。
「! うわ、なんだ?!」
案の定、部屋に入ってきたワフが声を上げた。
「おお? 人形か? ルウルの趣味も変わったなぁ」
もう一人の客人、ジェイコフも同時にかかってくれた。
「人形ではありません。ボクはキンです」
これで暫くはキンが二人の興味を引いてくれるだろう。
ゆっくりとテラス戸を開けて庭へ抜ける。オザダがガララを木に繋いでいるところだった。マグマもそこにいた。
「ようマグマ」
「ルイス! 生きてるか!」
「なんだそれ、生きてるよ。オザダありがとう、コイツの面倒見てくれて」
ガララを撫でながらオザダが返事をする。
「構わない。それより動けるようになって良かったな。マグマもお前を心配してずっと食欲が無かったんだ」
「そうなのか?」
よく見るとマグマの首輪には魔力が貯まっていなかった。
そうか…食い物も食えなくなるほど俺を……
「腹減った!」
…せっかくちょっと感動したのに。
「今日は何を倒してきたんだ?」
「んーと、ひょろひょろって長いやつ」
体を揺らして表現しようとしている…尻尾が波打ってる。
「また蛇? 持ち帰ったの?」
「60匹くらいかな。今日は焼いたら美味い種類の方だ。出すか?」
「コイツの取り分だけ出してもらえる? マグマ、お前自分で焼いて食えるよな?」
「おう!」
俺がオザダから受け取ったヘビを上に放り投げ、マグマがそれに向かって下から火を吹く。空中で蛇が炙られながら舞う。頃合いを見計らって火を止めると大口を開けたところに蛇が食われるために飛び込んでいく。
そうしてるうちに家の中ではジェイマーが念願のサイン本を完成させて歓喜に騒ぎ過ぎてメルシアに怒られたり、フィリーアが監視タイムだった時に暇つぶしに作り方を教えた老眼鏡がしっかり完成しててそれを受け取ったジェイコフが予想以上の喜びようで握られた手をブンブン振り回されて戸惑っていたり、それぞれで親交が深まっていっているようだ。
「オザダもいつかは自分からああいう所に入っていく子になるのかな」
「……」
チラチラ部屋の中を気にしているのに一人では入って行けないオザダはガララにブラッシングを始めていた。
「これ食わせ終わったら一緒に戻ろう」
「すまん」
「あ、嫌味じゃないぞ。お前が社交的になっちゃったらこういう逃げ場が無くなっちゃって困るなぁ、って思っただけなんだ」
「逃げ場?」
「あんまり覚えてないとはいえオザダも前世の記憶持ちだろ? やっぱり親近感わくし…それに安心感もあるし。なんか気が休まるんだよな」
好きな物が似ている、というのは心を許す時の条件順位でかなり上位だと思う。
「俺の方だけかもだけど」
最後の蛇をゴクリとマグマが飲み込む。
それを合図にオザダが手にしていたブラシを片付けた。
「………俺…は……」
そう呟いたのが聞こえたけど、本人が口に出したことに気付いていないようなので触れない事にしよう。
「そろそろ入ろうか」
「…ああ」
間もなくしてロディがやってきた。
「すみません、遅くなりました…」
大分疲弊しているように見える。
「遅いー。みんなご飯待ってたんだよー」
それほど待っているようには見えなかったが、ワフの手土産のムースパフェに早くたどり着きたいササは内心ソワソワしていたようだ。足早にロディの脇を通って部屋を出て行く。従者を呼び止めたのか、食事の用意をするようにと指示する声が聞こえてきた。
「すみませんでした、次の入団候補者と中々連絡が取れなくて」
ロディはロロック退魔団のメンバーに順に簡単な挨拶を済ませていく。
初対面ではないようだな。
最後にメルシアの前に来た。
ロディの表情が一瞬で険しくなる。
「良さそうな竜騎士はいたかい?」
「全くいませんよ。そのうえ貴女も団を抜けたがっていると聞きましたが」
「『抜けたがっている』じゃなくて『抜ける』だ。そっちの補充も頼むよ」
「困ります」
「そうか、頑張ってくれ」
「…………」
「メルシア、言い方が少し冷た過ぎないか」
ロロックが心配して声をかけた。
しかしメルシアは正す気は無さそうだ。
「あたしがあんたらの団に入るとき、約束したのを忘れてはいないだろうね」
「それは……覚えていますけれど」
「ルウル、お前もだ」
「あ! はい、ええ。勿論です」
振られたルウルが慌てて返事をする。
「団が安定したらいつ抜けてもいい、そういう約束だった筈だ」
「しかし今はシェマが居なくなって戦力に不安がある状態です! 貴女までいなくなったら…」
「ササがいる」
「え……」
ロディが言葉を詰まらせる。
「あの子に攻撃魔法を使わせればいい」
「メルシアさん……それは…………」
「おまたせー。みんな席についてー」
食事の載ったカートを自ら押して戻ってきたササに、全員の視線が集まった。
ルウルとロディが一瞬顔を見合わせ、すぐに逸した。
「……んー?」




