集合場所
「久しぶりだね、ルウル」
「メルシアさん! ご無沙汰しています…ああ、お二人もご一緒でしたか!」
塀に近づいていったルウルの声が高くなる。
ここからは誰なのか見えないが、想像はついた。
「こんにちはルウル」
「すまないね、大勢で」
「いえいえ、どうぞどうぞ」
ルウル自ら門を開けて客人を迎え入れる。
思った通りの三人が思った通りの順番でぞろぞろと入ってきた。
「死にかけたって?」
「大丈夫なの?」
「大変だったね」
椅子に座ったままの俺の周りを祖父母とその友人が取り囲む。
「みんなルウルさんと知り合い?」
「ああ、ルウルはあたしの弟子だからね」
……そういう繋がりか…。だったら変な言い訳は通用しないか。
「ついでにあんたの両親の元上司だよ」
……おっと、だったらあんまり余計な事は言わない方が良いのか?
「あの、もしかしてルイス君は……」
「あたしとロロックの孫だ」
「! ではエマルダとアレクシスの? …そうでしたか、すみません何も知らずに」
「謝る事じゃないさ。こっちこそ悪いね、あんたの娘にはこれから苦労を掛けるよ」
「は? はぁ、そうなのですか…? あの娘で役に立つなら幾らでも使ってください」
ルウルは何のことやらという表情をしながらも快諾の意思を示した。
「ガイの事をこれまで通りみんなにサポートしてもらうように数で押そうという話になったんだ」
「ルイスだよ、おじーちゃん」
俺は小声で訂正した。
「…………、ああ、そうだった。ルイスの事をね」
ロロックは未だに俺をガイと呼ぶ。ドラゴンの方のルイスと生活してくれていたから、この人にとってはルイスはあっちのルイスなんだろう。
「あら~、折角なら私も『ルイス君』じゃなくて『ガイ』って呼びたいわ」
グレイスの声が大きい。
「ダメ」
俺は小声で拒否するが、グレイスは知った事かとトーンを落とさない。
「良いじゃない、私たちしかいないんだから」
ルウルからの視線が痛い。
「ガイのドラゴンはまた深紅の子なんですってね。…今はいないのかしら?」
「俺も会いたいな。この前は少し遠目から見ただけだったからね。あれからまた成長してルイスに似てきたんじゃないかな、楽しみだよ」
「ガイ、他の奴らはいないのかい?」
メルシアまでもが前の名前で呼び始めた。
「…………」
「どうした、ガイ」
「もう違う名前で呼ばれても返事しない。特にあんたら二人! 孫の名前を間違うなんてありえないんだから気を付けろよ!」
「……すまない、気を付けるよ」
ロロックは見てわかるほど肩を落とした。
「怒らないで、ルイス君」
「大人げないな」
女性陣にはあまり刺さらなかったみたいだ。まぁ、最初から俺の反応を見たかっただけの様だったし、頭が回る人たちだからヘマはしないだろう。
「…ササとジェイマーとフィリーアで北の山にロディを捜しに行ってる。オザダはマグマを連れてちょっとその辺を流してくるって」
「どちらも今日の夕方には戻る筈です。…あの、差し支えなければ私にも少しご説明いただけませんか?」
メルシアの顔色を窺いながらも、会話の違和感を聞き流せなかったルウルが踏み込んだ。
「……聞きたいのかい?」
言葉に無駄な圧をかけるのは何のためなんだろうな。師匠の威厳、的な?
ルウルはその言葉を重く受け止めたようで、ただでさえ良い姿勢を更に正して頭を下げた。
「…はい、是非お願いします」
そこまで大変な話じゃないと思うが…。
「それでは中へ…」
「そうだルウル」
「はい! なんでしょうか」
家の中へ招くルウルをメルシアが止める。
「あとで他の二人も来ることになってるんだけど問題ないよね?」
「もちろんですとも! しかし、ああ! 勤務日なのが悔やまれる………」
「別にあんたに会いに来るんじゃないよ」
「……失礼しました。夕食は皆さんのお好きな物を準備致しますね」
「あら、私の好きな物も覚えてるのかしら?」
「当然ですグレイス様。蒸しより焼き、ですよね。早速新鮮な卵とミルクを調達に行かせますよ」
「さすがルウルね!」
「いやいやまだまだですよ」
紳士ルウルを先に見ているので突然の下っ端感に慣れないが、三人は普通に受け入れている。
上下関係というのは年月が経っても変わらないものなのかもしれないな。
俺の経緯についてはグレイスとメルシアとでルウルへ伝えられた。
「あたし達の孫だけど、昔の知り合いなんだ」
「魔法が使えない可哀想な子なの。優しくしてあげてね」
「飼ってるドラゴンはロロックのドラゴンでもあるから丁重にな」
「アレクシスとエマルダには内緒ね。びっくりしちゃうから」
「……こんなもんか?」
「そうね、こんなところね」
……大雑把過ぎないか?
しかしルウルは
「なるほど、そうでしたか」
と頷いた。…これで納得できるのか?
「当然のことだけど、この子に何かあったら承知しないからね。今みたいな変な騒ぎも勘弁して欲しい」
「わかりました。今回の件は私がどうにかしますのでご安心を」
先程まで問い詰められていたところをメルシアの一言で無罪が確定したことには素直に感謝だ。
「それにしてもあの特殊なガラス壁が割れるなんてね」
グレイスがフルーツティーの香りを吸い込んで満足気な一息をついてから事故についての疑問をルウルに投げかけた。
「戦士クラスの生徒さんなんでしょう? 普通ならそこまでの魔力は持っていない筈よね」
「騒ぎを起こした彼は今は王宮職の試験に向けて学校へ入っている所ですが、もともとは魔法使いとしてAランクまで取っている人間でして」
「それにしたってフロアの管理者のランクがA以下っていうことはないでしょう?」
「はい…SSでした。そのために事故の原因が別にあるのではないかという話が出てしまったのです」
「ふぅん……ねえ、ルイス君はその人のことは見てた?」
「ああ、戦士に向かないことは俺にでもすぐに分かった」
「彼は今の所謹慎を言い渡されて自室に待機しています。原因が管理者か設備のトラブルかそれともその生徒か…少なくとも指導者の指示を守らずに危険行為に及んだ事で、今後彼には何らかの処分があると思います」
処分…退学とかだろうか。そしたらもう王宮に勤めることは叶わなくなるかもしれない。故意ではなかったろうし、少し可哀想だな。
部屋の扉がノックされ、従者の一人が室内に一礼し、ルウルへ来客を伝える。ルウルが出迎えようと部屋を出たところで外から叫び声が聞こえた。




