伝説の勇者の伝説の盾
「ほらね、まだいる」
フィリーアが得意げだ。
「あ、何これかわいい〜」
展示室の入り口前に長テーブルが置かれ、その上に小物が並んでいる。ただ勇者の名前を形どったブローチのような誰が欲しがるか分からないようなものや、武器の形をした金属製のアクセサリー、顔での判別は難しそうだがそれぞれの勇者の装備を纏ったぬいぐるみ等手の込んだものもある。学校の生徒たちが作った物らしく、収益は学校教材の一部に使用されると書いてあった。
「ちょっとここを見たいわ」
「じゃあ先に入ってるよ」
俺は先に展示室の中へ入ることにした。
フロアの所々に防具一式着せられたマネキンがポーズを決めている。
傍に設置されたガラスのディスプレイケースの中には国王からの感謝状やメダル等がずらりと並び、ケースの上では人の動きを感知して流れる解説音声のスピーカーが働いていた。
チラチラと一通り眺めながら、部屋の奥で立ち止まっている仲間のもとへ進む。
壁に掛けられた丸い盾を食い入る様に見つめているジェイマーは、数名配置されている係員からの警戒の視線に全く動じていない。
そして俺が来たことにも気付いているはずなのに、まったくこちらを見ない。
そこまで真剣に見つめている場所には何があるのかと、横に立って視線の先を確認する。
何の変哲もない白い盾のように見えるが……いや、何かちょっと………
「穴……?」
よく見ないと分からないほどとても小さな、針で刺したような穴が無数に開いている。そういう材質で作られているようだ。
「知ってるか?【ろ過の盾】って言うんだぜこれ」
「ろ過」
過酷な旅先で泥水を飲み水に生まれ変わらせる便利アイテムか?
「魔物の攻撃を受けると付属物だけを吸収して無力化する特殊盾なんだ。これを通った魔力はそのまま穴を抜け出て大気に溶ける仕組みになってる」
「凄いじゃないか。これで攻撃を受け続けてたら相手がスタミナ切れを起こして勝てるってことだろ」
皆がこれを装備してれば世界が浄化されて魔物が消えていくんじゃないか?
なんでみんな使っていないんだろう。消費魔力が多すぎるんだろうか。
「ところがこれが物理攻撃相手だとめちゃくちゃ耐久性が低くて、Bランクの魔物の体当たりを数回受けただけで壊れるっていう割と有名な使い捨て防具なんだ」
盾が消耗品なのか…まぁ、穴開いてるしな。
「そんな物をなんで師匠はそんなに熱い眼差しで見てるんだ?」
俺の問いにジェイマーは盾の上の位置に展示されているロロックの肖像画を指差した。
「ロロック退魔団がSランク以上限定の討伐対象の魔物との戦いに勝った時に使っていた盾がこれなんだ。団員全てへの遠距離攻撃はこれで庇いつつ、近距離の物理攻撃は全て身を躱してダメージを受けなかったっていう話だぜ。凄くないか?」
「へぇ……凄いな」
その話が本当ならな。まぁ確かに表面には傷一つ見当たらないが。
「ロロック様は本当は弓の扱いも達者で、素早さや相手の攻撃を見切る能力は弓の技術を身に付ける時に
培ったんだ」
だからジェイマーは弓を始めたんだろうか。
「弓だと盾の装備は難しいな」
「そうだな………つーか、別にこの盾を装備したいっていう話じゃなくてさ」
「弓の勇者だと盾を展示できないな」
ジェイマーが盾から視線を外し、俺を見た。
「変な事言ったか?」
「……いや」
「お待たせルイスくん」
声に振り向くと、パンパンのカバンを下げたフィリーアだった。
「……あの中から買う物あった?」
そう聞くと蓋をチラリとずらして中を見せてくれる。
何体もの勇者ぬいぐるみがギュウギュウに詰め込まれていた。
「可愛いよね。一人だけ連れて行くのも可哀想だし、全員面倒見ようかなって」
エヘヘと笑っている。本人が良いなら良いか。
「こっちは? 見終わったの?」
「うん、俺はもういいかな。ジェイマーは?」
「俺はもうちょっと居るよ」
「帰る前に食堂でご飯食べていこうって話になってるからあんまり遅くならないでね」
「りょーかい」
展示室から出る時に振り返ってみると、ジェイマーは再び壁の展示物に集中していた。
勇者担棟は3階から下は見学エリアから外れている。1階は組合の求人募集と申し込み、2階は仕事の依頼情報の開示や申し込み、達成報酬を受け取るエリアになっており、凶悪な魔物の情報など子供たちや一般人には衝撃が強い内容のものも扱っているのでルートには含まれていないのだそうだ。
3階は大会議室となっていて、緊急時には王様をはじめ主要幹部が集まる場所になっているとの事。その向こうの学生居住エリアも入れないので、俺達は展示室傍の階段から下りることにした。
「2階の基礎学習用の教室は公開してないけど、実習室とかは度胸を付ける目的もあって見られるようになっているわ。何処かで授業やってないかしら」
勇者担棟側へは壁で塞がっていて行けなくなっているので、戦士担棟から順に見ていく。
ガラスの向こうの広いフロアには数十人の生徒が前方に固り、後方には人数分らしき丸太と斧が準備されている。
「小さい子が多いわね。一年生かしら」
「各職業のクラスって何個もあるのか?」
「だいたい毎年一学年40人くらいを二つに分けてるわね。それが3学年分。クラス替えは無いけどランク試験の結果で飛び級もあるし留年もあるわよ」
よく数えると24人いる。何人かは留年生なのかもしれないな。
「6歳以上なら入学できるけど人数制限があるからNランク試験での成績順で希望者へ入学許可証が渡されるの。だから一年生全員が6歳っていう事はなくて、浪人生もいるし、大人になってからでも入れる。あの人みたいにね」
子どもたちに混ざって何か話している20代くらいの男性は、よく見ると子供たちと同じデザインの制服を着ていた。てっきり先生だと思って見ていた……。
「退魔師になっちゃうとあんまり意味が無いんだけど、王宮職員の試験には『学校卒業』が必須だったりするの。そういう人はNランク試験を受けて入学して、卒業までは最短で1年。実習はクラスごとだけど基礎学習は自分の学年以外のものも受けられるから1年で3年分の知識を詰め込んで、更に採用試験用の勉強もして次の年には王宮職員、ていう人も毎年何人かいるのよ」
ここで試験に関する注意、とフィリーアが人差し指を立てた。
「Nランクを受けるためには公平性を守るための決まりごとがあって、甕の数は初期の二つに制限、しかも自分がバッジを持っていない職種の試験しか受けられない、となっているの。だから……」
…………あ!
「もし一年で一気に全部取っちゃったら……」
「そう! もしその年の合格者の中で下位だった場合、学校に入れないうえに王宮職員への道も消えちゃうのよ。何年か前から一年目に全職種受けるのが流行ってたんだけど、バッジが取れても入学出来ずに進路に迷う子が増えてるって今問題になってるの」
学校に入る前に就職試験に落ちてしまうのか。辛いな。
「あ、ルイス君は大丈夫だったね」
「どういう意味? ……ああ、そういう意味か。本当だな」
もしかしたら俺は王宮職員になるために魔法が使えないのかもしれない。
……だったら最初から魔法が使える優秀仕様にすればいいだけ良いじゃないか。




