まぶしい黄色
「弓って退魔以外になんの役に立つんだ?」
「これはジェイマーに説明してもらいたいところなんだけどね」
いないからよろしく。
「弓使いがランクを上げて能力を伸ばしていくと他よりも育つのは洞察力、機敏さ、器用さ、捕捉力、それから…天候を予測する風読みとか」
「風読み…」
弓使い担棟では食料安全確保支援申請というものを受け付けているようだ。
「これから天候がどうなるか…作物に及ぼす影響を予測して事前に準備したり、船に乗って漁に同行したりもするの。海が荒れると巨大魚が暴れるからその対応ね。…嵐の時にしか現れない巨大魚、美味しいのよね」
戦う天気予報士、みたいなこと?
「普段は農地を狙う魔物や人間とかの対応が多いらしいけど。普通に異常発生の魔物討伐とか食料難の地域用に狩猟のヘルプとかにも行くそうよ」
オザダとやったバッタ討伐みたいなやつかな。移動する魔物の討伐は組合の依頼に出にくいって言ってたっけ。退魔師の受注を待つよりこっちに届け出たほうが対応が早いということなんだろうな。
誰もいない受付に年配の夫婦らしき二人がやってきた。職員が迎えると、夫婦は重そうな布包みをカウンターへ乗せた。
包の結び目を解くと、様々な大きさの柑橘類が色鮮やかに現れた。
夫婦は何度も頭を下げていて、感謝を伝えているらしい。
職員は受け取れない、という身振りを見せているが、夫婦は持ち帰ろうとしない。
「貰ってあげればいいのに」
「王宮職員は清廉潔白であれ、よ。少なくともこうやって見られてる場所で何かを受け取るわけには行かないわ。王宮が動いてくれるのは貢物次第、なんて思われたら大変だものね」
奥からスーッと年配の職員が出てきて夫婦に声をかけた。その職員は話をしながら、こちらの見学者エリアを見せるような仕草をした。夫婦はそれに促されてこちらを見て頷き、職員へ更に深くお辞儀をする。
受付職員がパタパタと奥まで走り、フロアを出ていく。他の職員もそれぞれ何か作業を始めた。
「なんだろうね?」
フィリーアが首を傾げたタイミングで、その受付職員が見学エリアに姿を現した。
「見学者の皆様、ただいまソリア村の農家様からのご厚意で差し入れをいただきました。今からジュースにして御配りしたいと思いますので、お時間がある方はどうぞこちらの休憩スペースでお待ちください」
その声が届いた範囲の見学者達が一斉にガラスの向こうの夫婦に一礼した。
「美味しかったねー」
「ソリアブランドをこんなところで味わえるなんてラッキーだったな」
同じ順路で回っている見学者達の話題が一気にソリア村になり、どこの店が美味いとか、どの農家から取り寄せた果物が感動的だったとか…行ったことが無かったら今すぐにでも行きたくなるくらいの褒めちぎられかただった。
「やっぱりソリアって有名なんだな。ノエリが継ぐころには大都市になってるんじゃないか?」
冗談半分に言った俺の言葉に、フィリーアが真面目な顔をした。
「土地は広げてもあんまり発展はしないで欲しいな。美味しい食べ物が取れなくなったら意味がないもの」
魔法使い担棟には魔法問題相談窓口が設置されている。
「魔法問題…許可が下りてない魔法とかの事?」
「そうね。認可のない魔法書の所持、使用、販売とかの情報提供を受けて調査するところね。他には魔法に関するトラブルについても相談を受け付けているわよ。隣の家の植木が成長促進の魔法のせいで土地の境界線を越えて根っこが伸びてきて家が浮いた、とかね。魔法や魔法アイテムが原因のトラブルは当事者の他にも本を書いた担当者も呼び出されて検証をするらしいわ。あんまり関わらないで生きていきたい場所ね」
「アイテムに魔法効果付ける時って魔法書を使うんだろ? 技工士のフィリーアには関係ないんじゃないの?」
「私も書くわよ。技工士が書く方のは【効果の書】っていうんだけどね、技術書だから魔法書とはちょっと違うんだ」
「ん?」
「魔法使いが使うのは【付加の書】と【魔法書】。技工士が使うのは【付加の書】と【効果の書】なの。付けちゃえばどっちがどっちで付けたかなんてわかんないんだけどね」
お。ちょっと難しい話な気がする。このまま続けてもらっても大丈夫だろうか、俺。
「魔法書って魔法書士にしか書けないものだから【付加の書】だけは魔法書店で買うんだけど、効果の書は技工士のスキル甕があれば書けるから自分で書くのよ。魔法書二冊同時発動よりも魔力が少なくても色々作れるの」
フィリーアがカバンの中から本を一冊取り出した。
「まだ書いてる途中のものだけど、こんな感じ」
受け取って中を見てみる。細かい字で効果内容や発動条件、対象範囲や除外項目、他に色んな計算式や図面まで書かれている。
製本された仕様書って感じだ。
「魔法書みたいに魔力が入ってないのはわかる?」
「わからないけど書込みが凄いな」
「この辺は魔法書そのままをはめてるんだけど、こっちとは発動の条件が違うからここで分けてて、こっちの魔法はこっちからの影響を受けるんだけど、別の条件だと両方が同時に効果を出すようにしたいからまたここで合流するの……」
頁をめくって指で図をなぞりながら解説してくれるんだけど、全然分からない。
全然分からないという顔をしているのが分かったフィリーアはパタンと本を閉じた。
「興味が湧いたらいつでも教えてあげる。今はこの建物の中の事に集中しましょう」
「そうだな。取り敢えずここはもういいかな」
魔法は最重要課題ではあるけど立ち向かうにはまだまだ先にやらなければならないことが多い。だから覚えるのは後で良いだろう…と思っていたけど。
魔法加工は『魔法』って付いてるだけあってやっぱり魔力は必要なんだよなぁ。
しかも………技術書か。魔力が要らないなら勉強すれば俺にも書けるか?
……書けるか?
技工士、面白そうだけど結構大変な職業っぽいな。
一つ下の階へ下りる階段。壁には王城と王宮の建設時の経過写真が飾られている。ただ、下の階から始まっているものらしく、下りていく毎に建物が低くなっていくのであまり感動は無い。推奨ルートが上階スタートなんだから逆にすれば良いのにな。
「3階は食堂エリアと、学校の生徒の住居エリア。住居エリアは公開されていないからあんまり見られるところはないかも」
「展示室がこの階みたいだ」
冊子を見てその方向に指を差す。フィリーアが俺の見ている冊子を覗き込んで確認する。
「あ、ほんとだ。きっとまだジェイマーがいるわよ」
「えー? 結構時間経ってるぞ?」
展示室へ向かって歩きながら食堂の雰囲気を確認する。
広い空間に数えきれないほどのテーブルと椅子。
その殆どの席が制服姿の子どもたちと王宮職員で埋まっていた。
よく見ると制服を来ていない人も混ざっているようだ。
「一番混む時間以外は一般の人も利用できるのよ。後で何か食べて行こうか」
「良いね。オススメは?」
「強いて言うならたまご料理かな。契約農家から毎日届く卵が美味しいの。オムレツとかエッグタルトとか」
そう言われると皿の上の黄色率が高い。
あ、あの人が食べてるロールパンに挟んでるあるのも黄色いな。たまごサンドか、あれも美味そうだな。
こっちの皿も黄色いな。オムレツか?
……………なんだ、黄色い魚か。
それにこっちはコーンフライ……。
「なんか黄色い料理多くない?」
「気付いた? メニューの写真を見ると殆ど黄色か紫色の料理なんだよ」
こんな所で国の色を押してくるのか……
「因みに紫色の料理って?」
「スープとかリゾットとか。見た目は激しいけど普通に美味しく食べられるよ」
リゾット…米か、米食いたいな……
あ、だったら
「オムライスもある?」
「…おむらいす??」
なんでそういう大事な物が開発されてないんだこの世界は!




