預かり
「技工士って大抵『カッコいい武器を作りたい』とか『見た目が強そうな防具をデザインして優秀な退魔師に着て欲しい』とか『不老不死の薬を作りたい』とかっていう夢を持ってその道に入るのよね。けど『綺麗な花を武器から生やしたい』って思ったことのある人は少ないわ。もしかしたら技術として簡単なのかもしれないけど、やったことがある人がどこにいるか…存在するかどうかも分からない。そういう時はここに申し込むと、依頼を見て『だったら挑戦してみようか』って動いてくれる人もいたりするの」
俺の表情がピンと来ていないように見えたのか、フィリーア様が『短剣から花は例えばの話しよ』と念を押した。
「ここの一番の目的は地方技術者の仕事の確保と技能向上。既存の生活用品なんかをもうちょっとだけ便利良くしたいとか、ちょっと変わった効果の付いた物が欲しいとか、技術者からすればそういう依頼を受けることが自分の発想を豊かにするきっかけになったりするのよ」
「フィリーアも依頼を受けた事あるの?」
「何件かはあるわよ。でも旅に出る時に登録は取り消したわ。登録した作業場でしか依頼品の受け渡しは出来ないからね」
膨大な量の預かり品のエリアを過ぎると、職員が平台の上に一つの武器を乗せて魔法書を開いているところに来た。
「アレが技術者へ依頼品送るところ。で、こっちが……」
隣の平台の前にも職員が立っているが、こちらは台の上に何も乗っていない。
が、次第に台の真ん中に光が集まりだした。
「戻ってくるところ」
光は次第に強く大きくなる。一際大きく強く光り弾けて消えたあとに残ったのは、一つの…………
「片手鍋?」
「片手鍋ね。何を付けたのかしら?」
職員は鍋を手にして脇の作業台へ移動し、チェックを始めた。側を眺め、柄の接続部を確認し、内側に手を滑らせる。一通り見てから、あらかじめ準備していた水を注ぐ。
そして、鍋を持ったまま暫く動かずにじっと見つめる。
「…なにも起きないみたいだ」
「そうね」
俺達が飽き始めたのと同時に職員が再び動き出した。
鍋中の水を捨て、代わりに白い液体を注ぐ。
「なんだろう。牛乳かな」
「そうね」
「あ」
注がれてから1分も経っただろうか、鍋から湯気が立ち始めた。
職員はもう片方の手にカップを持ち、そこへ鍋を傾ける。白い液体がカップへ流れ、白い湯気が上がる。
鍋を置き、カップを口に近づける職員。触れた液体が熱かったのか一度離して唇を撫でる。
湯気をフーフーと吹き飛ばしてからもう一度試し、今度は深く頷いて一式片付けだした。
「依頼者はホットミルクが好きな人?」
「どこかのお店のメニューだったりとかね」
発送と入荷のエリアに職員がいなくなってしまったので俺達は移動することにした。
次の棟へ続く廊下を歩く。外周側を向いて休憩用の長いすがいくつも設置されていて、大きな窓から見える景色は絵画の様だけど、俺達は来たばかりなのでそのまま通り過ぎる。
「さっきのどうだった? アイデア次第では自分に技術が無くても面白い物が作れると思わない?」
「確かにね。けど俺にはあの鍋すら使えないからなー」
「そっかー、それがあるんだもんね……あ、じゃあ前に頼まれてた武器も効果付けなくていいんだよね?相談しようねって言ってたきりだったもんね。先にどっち作ろうか。なるべく軽い方が良いよね?」
「あ……うん、でも」
「ん?」
「あと少しで俺は抜けるかもしれないからさ」
「なんで?」
フィリーア様が不思議そうにしている。
あれ? 心配してくれてたんじゃないのか?
「なんで……って、メルシアがいるからロディの団で俺の面倒を見てもらえてるわけだし」
「ロディが損得勘定でルイスを受け入れたってこと?……まぁそうか、それはあるよね」
やっぱりそうなのか。
「…ルイスはまだロディとあんまり話せてないんだっけ?」
「そうだな、殆どないな」
「うん、だからそんなこと考えちゃうんだね」
頭にフィリーア様の手が乗った。そして何回か撫でててっぺんで止まる。
じんわりと手のひらから温かさが伝わってくる。
「……フィリーア様?」
「あ! もう、何回目?」
ペシッ、と髪の毛だけを叩いてその手は離れて行った。
「もしかして心の中でまだ『様』付けてるとかじゃないでしょうね? やめてよホントもぅ」
「…でも……そんなに嫌なのか?」
「イヤよ。私なんてまだまだ実力不足だし本当に作りたい物にも全然手が届かないし……そう呼ばれるくらいの私になったときは喜んで受け入れるけど、今はただからかわれてるみたいに聞こえちゃう」
技術職のプライドが見える。
けど俺の崇拝する気持ちが……
気付かれなければこのままでも……
……いや、やはり本人の意思を尊重するべきか。
「……わかったよ。もう心の中でも呼び捨てにするよ」
これで最後にします。ありがとうフィリーア様。
そしてこれからよろしく、フィリーア。
「そうよ、それで良いの。これからも仲間なんだから」
「…それは…」
「これからも一緒に行けるよ。ロディは誰かを追い出したりしないから心配しないで」
「……うん」
俺は頷いたものの、その言葉をそのまま信じることは出来なかった。
俺の中のロディは『金持ちで常に体裁を気にしていて一人で寝られない御坊ちゃま勇者』。
そんなロディの目には俺なんか『面倒事』にしか見えないと思うんだけど……。
「さ、次は騎士担棟だよ」
「【警備・警護申請受付所】……」
さっきの技工士担棟の職員がどうだとかいうわけじゃないんだけど……
「随分雰囲気違うね」
「職業柄ね。やっぱりシェマやオザダみたいな真面目な人が多いわよ」
来所者へのお辞儀を見ただけでもわかる。ここの人たちは訓練が行き届いている。
「ここで受け付けるのは各所への警備隊の派遣申請、貴重品輸送の警護とかかしら。退魔組合へも似たような依頼はくるけどそっちは完全に魔物だと確定しているものだけで、こっちは被害の原因調査とか賊とかの悪い人間を捕えるのがメイン。騎士だけで動くこともあるけど、場合によっては各職業に召集をかけて対応に当たったりもするわね」
受付窓口は見えるが、その先にある打合せブースのエリアには曇りガラスが使われていて見えないようになっていた。
「大事な情報とか見られちゃ駄目だもんね」
確かに。
見るものが無い為ほどんどの見学者達の歩く速さが先程のアイテム預かり所の前より格段に速くなる。
俺達が来る前からガラスに張り付いて受付の女性騎士や書類を取りまとめている男性騎士の姿にキャーキャー盛り上がっているグループがいた。その中から『今日は出待ちしてあの人にプレゼント渡すんだ』という会話が聞こえてきた。ファンが付いているとは。というかまだ午前中だぞ。何時間居据わる気なんだろう。
「騎士は人気があるんだな」
「イメージ良いもんね。……オザダで想像しちゃだめよ?」
「もうしちゃったよ」
「もう、可哀想でしょ」
俺達もまぁまぁ盛り上がりながら次の棟へ向かった。




