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見学ツアー開始

 建物に一歩踏み込んだところで事件が起こった。

「……お客様? 如何しましたか?」

 建物入口で入館案内をしていた係員が誰かを呼び止めた……と思って振り返ると、キンだった。

 片足を踏み入れたところで止まっている。

 俺はキンの元へ戻り、こっそりと聞いた。

「どうした?」

「足が溶けました」

「!!! 待ってフィリーア! ジェイマー!!」

 慌てて先を行く二人を呼び止める。フィリーア様がそれに気づき、もう先に行ってしまいそうなジェイマーを引っ張って来た。

 俺達は入場列から外れて建物の外へ移動する。

「何事?」

 そわそわしているジェイマーにちょっと苛立ちつつ状況を伝える。

「キンが入れない。変化が解けちゃうみたいだ」

「そっか、そういえばその姿は変化スキルだったわね」

「なんか役に立つアイテムとか無いのか?」

 ジェイマーに急かされてフィリーア様がカバンを開ける…が、すぐに閉める。

「効果無効が掛かってるんだから何を使っても無理よ。…どうしようか、せっかく来たのに見られないのは可哀想よね」

「元の金に戻れば連れて行ってもらえますか? 戻りますか?」

「! 待ってキンちゃん、ここで戻っちゃ駄目よ!」

 溶けかけたキンを止め、フィリーアが人の目がない建物の陰に連れて行く。俺達は人が来ないか辺りを警戒しながら二人を待つ。

 ……。

 ……。長いな。

「お待たせ」

 戻って来たのはフィリーア一人。金塊は抱いてない。

「キンは?」

「ここ」

 見せられた手の平の上には小さな金色の女の子が付いた見学者バッジが乗っていた。よく見ると小さなキンの姿だな。胸元の辺りには小さな魔石が見える。

「もともとキンちゃんの本体って魔石を薄く包む膜みたいな量しかないのね。で、その本体はこの真ん中にいるの。形を作ったあとに中で他の金との結合を解いてあるから、これだと引っかからないで中に入れるわよ。喋れない上に動けないけどね」

「こいつはそれでも良いって?」

「確認したわ。建物内では返事はできないけど、一緒に見て回りたいって」

「そっか」

 フィリーア様が自分の胸元に付けたバッジの上に、重ねてキンのバッジを付けた。丁度人型のキンの時と同じくらいの目の高さになっていた。

「よし解決! さー行こうぜ!」

 入場列に並び直した頃には、俺を笑っていた子供たちの団体はもういなくなっていた。


 入口を入ってすぐの場所で【施設のご案内】という冊子が配られていたので各々が受け取る。

「ご希望の方には案内人が同行可能ですのでご遠慮なくどうぞ」

 冊子をくれた人の後ろに【案内ボランティア詰所】と書かれた小部屋があり、ガイドらしき数人が待機していた。

「要る?」

 フィリーア様がジェイマーに確認する。

「俺は展示室が見られればいいんだけど」

 展示室の位置確認に忙しい男は冊子から目を離さない。

「…ルイスくんは?」

「どっちかと言えばいない方が気は楽かな」

「そっか、そうだね」

 俺とキンバッジを見て頷いたフィリーア様が丁重にお断りをしてくれた。

 そんな俺達にジェイマーが繰り返した。

「俺は展示室が見られればいいんだけど」

「…………」

 フィリーア様の目が若干吊り上がったように見えた。

「だったら別行動にしましょうか? 勇者オタクさん」

「お、良いね! そうしようぜ」

 厭味をスルーしつつも即答のジェイマーにフィリーア様がため息をついた。

「はいはい、じゃあ出口手前の休憩所で待ち合わせね」

「了解ッス! んじゃ、お先!」

 ジェイマーは等間隔に床に貼られた【見学ルート】の矢印に沿って足早に進んでいき、すぐに他の見学者たちの中に混ざって見えなくなった。

「展示の事教えなきゃよかったわね」

「俺らはゆっくり見て行こう」

「そうね」


「全部見る?」

「出来れば」

 案内の冊子では、まず4階まで上ってから順に下りてくることをお勧めしている。城を囲んだ円形の王宮は一つの階を回るだけでもかなりの距離を歩くことになるので体力も必要だ。出入りの激しい1階に大人数が留まらないようにまずは上階へ移動させたいのだろう。

 床の矢印に沿って進んだ先には階段の他に見学者専用の昇降サービスがあった。数十人入れる個室のような箱に乗ると担当魔法使いの魔法で4階と1階を行き来出来るというもので、直通なので途中の階へは降りられないそうだ。丁度4階から降りてきた箱から人が出てきたところで、下りた中の半数以上の子供たちは『もう一回!』と階段で4階まで上っていくという不思議なことをして楽しんでいた。

 箱の中が出きったところで俺達を含む何人かが乗り込む。

「扉開きましたら左側が技工士担棟、右側が魔法使い担棟です。各職業の申請窓口となっております……お待たせいたしました。4階です」

 扉が開き、見学者たちは左右それぞれに分かれる。

「私たちはどっちに進もうか」

 技工士か魔法使いか。ここは当然

「技工士の方を見たい」

「お! 良いよー、このエリアは得意だから説明してあげるね」

 フィリーア様の機嫌がちょっと直った気がする。

「キン、はぐれないようにな」

 振り向いて、そこにはキンがいないことを思い出す。

 そういえばマグマもいないんだった。

 俺が一番後ろか。

 ちょっと背中がスースーする気がした。



 見学エリアと業務エリアは透明なガラスで仕切られている。厚さのせいか何かの付与効果か分からないけど、向こうの音は一切聞こえてこないみたいだ。


 カウンターを挟んで来所者と受付担当者がアイテムの受け渡しをしている。

 受付の奥には山積みのアイテムを一つづつ手に取って確認しているらしい人たちがいる。

「技工士担棟の申請窓口は効果付与依頼アイテムの預かり所よ」

「預かり所って?」

「アイテムに付与する魔法効果って色々あるじゃない? その効果は大抵は町の店が依頼を受けて懇意にしている魔法書士や技工士に委託するんだけど、希望の効果が特殊な場合は付けられる人を見つけるのが大変だったりするの。そんな時はこの窓口が便利で、付けて欲しいモノを持ち込んで付けたい効果を届け出ると登録している世界中の魔法書士や技工士に依頼が一斉に届いて、加工出来る人が手を上げるのね。すると預かったそのアイテムの受け渡しをこの部署が代行してくれるの」

「代行? 料金は?」

「申し込むのは無料。完成品の引き渡し時に加工者への代金をここで支払うと送金もここがやってくれるわ。ただし、王宮が危険と判断した効果の場合は申請は受け付けないし、希望の期限までに受け取れるかも分からない。最長一年間の預かり期間内で対応者が現れなかった場合は持ち主にそのまま返却される。送った先で破損紛失した場合は王宮が預かり品の市場での販売価格相当を返金する。また、市場で値の付かない物については返金はしないものとする」

 後半は覚えた文章を思い返しているようだった。技工士の授業はこういうのを勉強するんだろうか。

「だからレアアイテムは預けない方が良いわよ」

「この仕組みが便利なのかがいまいち分からないんだけど」

 欲しくて頼んだのにいつ来るか分からないって、あんまり意味がない気がするし。

「使い方よね。例えばルイスが持ってるその短剣の先端から花を咲かせたいとするわ」

 ……花?

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