休日
5人での歓迎会は楽しかった。もしそれが送別会を兼ねていたとしても。
ジェイマーが俺が前世で会った時のロロック達の事を聞きたがったので教えたり、今の俺の力ならどのランクまで取れるか、という話をした。
マグマはついて来たいと騒いだが、ガララもキンも留守番だからと言い聞かせて置いてきた。
アイツが傍にいなかったせいか、飛行の仕方や戦い方が上手くなって来ていることをつい自慢げに話してしまい、みんなにニヤニヤされた。
オザダが別の前世の時の知り合いかもしれないという話はちゃんと本人に許可を取ってから披露した。世界観が違いすぎて、3人にはあまりうまく伝わらなかった。
今後の団の事については誰も触れなかった。
「留守番のお礼」
ほぼ一日放って置かれて拗ねているマグマの前に大きなロースト肉の塊を置いた。
今日行った店の看板メニューで、本来は切り分けて提供されるものを無理言って丸ごと譲って貰ったものだ。
「……」
マグマが珍しく肉に飛びつかず、俺の顔を覗き込む。
「なんだ? どうした?」
「……いじめられなかったか?」
「なんだよそれ。あの人達がそんなことするわけないだろ」
コイツには俺がそういう風に見えてたのか?
…もしかしたらみんなにも様子が変だと感づかれていたのだろうか。
「大丈夫だから、食え」
赤い頭をペチペチはたくように撫でる。
マグマは嫌がる素振りをしながらも安心したようで思い切り肉にかぶりついた。
庭で朝食のパンや前に獲った魔物をマグマに食べさせていると、玄関から人が入ってきた。
家の中から従者が数名出てきて迎える。
「おかえりなさいませ」
「お疲れ様でした」
羽織っていたものや荷物を従者へ渡す中、男性がこちらに気付いた。
「客人か?」
「ササ様のお仲間だそうです」
「…あの子もかい?」
「そうお伺いしております」
「ふむ…」
そのやりとりが聞こえてきたので、俺は残りの食べ物全部をマグマの口の中に詰め込んで男性の元へ駆けた。
「おはようございます。お邪魔しています」
「おはよう。私はササの父のルウルと言います。君の名前は?」
「ルイスです」
「ルイス君。ササがお世話になっているそうだね」
「いいえ。お世話になっているのは僕の方です」
とても温和そうな人だな。それに品が良い。
「まだ小さいのに礼儀正しいんだね。ササとは大違いだ」
ルウルはジェントルに笑うが、一緒に笑っていいものか判断が付かない。
「パパー?」
家の中からササが顔を出した。
「ただいま、ササ」
「おかえりー。ルイス君と話してたのー?」
「可愛らしい仲間がいるんだね。ちゃんとサポートしてあげるんだよ」
「わかってるよー」
そう言ってササはドアを大きく開き、父を迎え入れた。従者もぞろぞろと撤収した。
「よぅルイス、暇だしどこか見に行くか?」
庭に面した部屋からテラス戸を開けて、ジェイマーが声をかけて来た。
「行きたい」
答えながら庭に戻る。
アレクシスと来たときはグレイスの所と買い物に回るのとで一日終わってしまったからな。
「どこ行きたい?」
「そうだなー…王宮の中って見れる?」
「そんなとこ見たいのか? まぁ良いけど」
「俺は?」
マグマが寄ってきた。
「ドラゴン入れるかな?」
「フツーにダメだろ」
「むーーー」
ジェイマーの腿の辺りに頭突きして戻っていく。
「ギャウギャウ」
今度はドラゴン姿のキンがやって来た。
「なんだ?」
「キンも行きたいのか?」
「ギャウ」
頷いてみるみる人の形に変わっていく。
「行くなら頭付けなさい。あと光らないように」
そう言われた頭の無いキンが頭を求めて俺達の横をすり抜けて家の中に入っていく。
きっと気持ちの中では返事したんだろうけど、何せ口が付いていなかった。
キンが向かった先の部屋から何かが落ちる音とともにジェントルな叫喚が聞こえた。
戻ってきたキンの頭は一部陥没し、大事にしていた飴細工は蝶の羽が捥げてしまっていた。
『また買ってあげるから』とジェイマーに諭されて、飴は庭の蟻たちへ提供することになった。
出かける直前まで、キンは飴の花に群がる蟻たちをじっと見ていた。
王宮見学には俺とジェイマーとキンに加え、フィリーア様も同行することになった。
「懐かしいなぁ。王宮の中に入るのって社会科見学以来だわ」
「俺もかもなー。全然覚えてないわー」
連れて行く、と言った本人が一番行く気がない。王宮に向かって歩いていても、他に何か興味をそそるものが無いか物色している。
「じゃあ国から褒賞を受けた歴代勇者の展示をしてるっていう部屋はまだ見てないんだ?」
「なにそれ! そんなのあるのか」
「肖像画とか使用された武器とかが展示されてるらしいわよ」
「まじか! おい、急ぐぞ」
途端に元気になったジェイマーが俺の手首を掴んで引っ張った。
急な事だったので足がついて行かず躓きそうになる。
「危なっかしいなぁ、ほれ」
グイっと引き寄せられたかと思うと俺の身体はジェイマーの肩の上だった。
更には、もう片方の肩の上にキンまで乗せた。空中で無表情のキンと目が合う。
「ジェイマー、恥ずかしい」
「気にすんなって。この方が早く着く」
機嫌の良いジェイマーに担がれたまま進み、日陰になっている広場でやっと降ろしてもらえた。
どうも周りがざわざわしている。……いや、クスクス聞こえる?
振り返るとそこは王宮の見学者受付所前で、受付を待つ子供たちの団体がこちらを見て笑っていた。
「来たくなかったんじゃない?」
「まだ小っちゃいもん、仕方ないよ」
「俺も行きたくないなー」
「そんなこと言ってると先生に担がれちゃうよ」
俺はジェイマーを睨み上げた。
こんなの聞こえたら本当の子供なら恥ずかしくて泣いてるところだぞ。
しかしジェイマーは受付の待ちの人の数を数えるのに忙しくてそんな会話は耳に入っていない様だった。
フィリーア様が俺の手を握った。もう片方にはキンの手が握られていた。
「あそこが早そうだ。」
ジェイマーが6つある窓口の一番短い列に向かって歩きだしたのでついて行く。
団体の子供たちは引率者からの諸注意を聞くためその場に座らされていた。あの子たちと見学場所がぶつからないと良いな……。
「一般見学4人でお願いします」
「はい、4名様ですね。代表者様の身分証明をこちらへお願いします」
受付カウンターの上に小さな機械のような物が置かれている。これも魔法効果が付いたアイテムなんだろう。
ジェイマーはその上に懐から取り出したピンバッジを乗せた。
「弓使いSSランクのジェイマー様ですね、ありがとうございます。それではこちらをどうぞ。建物内見て回られる際は皆様この見学者バッジを必ず付けてください」
出てきたのは革で作られた大きなバッジ。『見学中』と書かれている。
「バッジを付けていなければ不審者とみなされ警報魔法と威嚇魔法が発動しますのでご注意下さい。また、お帰りの際は出口専用通路にてバッジの返却をお願い致します」
「建物内は常に国に関わる様々な業務を行っております。決められたエリア外への立ち入りはご遠慮ください。守られない場合は強制退場、または投獄の措置となる場合がありますのでご注意ください」
「警備魔法によってあらゆる魔法、スキル、武器効果は無効化されております。緊急を要する回復魔法等での人命救助が必要な際にはお近くの係員へ御申出ください。ご不明点はありませんか?」
「…………」
「ご不明点なければ諸注意は以上となります」
「! ああ、はい。どうも」
バッジを付けるのに一生懸命だったジェイマーが慌てて返事をした。
決められた文言をスラスラと並べて一仕事終えた窓口のお姉さんはその無表情のまま
「それではいってらっしゃいませ」
と一礼した。国のど真ん中はこんな感じかもな、相当な人数捌かなきゃならないんだろうし…と納得していたその時。建物内に入ろうとその場を離れるその瞬間。
「いってらっしゃーい」
と声がした。なんと、振り返るとお姉さんが俺に向かってにこやかに手を振ってくれている。
甘く見ていた。
この人はちゃんと分かってる人だった。
俺は敗北の意味を込めてお姉さんに手を振り返した。




