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居心地

「…………えー」

「…………えー」

 メルシア離脱の話を聞いた二人は同じタイミングでうな垂れた。

「せっかく頑張って仲間になってもらったのにー」

「シェマに続いてメルシア様までいなくなるなんて……この退魔団はどうなるのよぉ」

「竜騎士はわかんねーけど、魔法使いは代わりが見つかったとしても確実に戦力は落ちるだろ」

「ますますロディが行きたがってた討伐地区が遠のいたんじゃない?」

「暫くは対処可能な範囲で活動するしかないだろう」

『身内がすみません』という立場の俺は、とても気まずい。

 更に、忘れていたけど俺は正式なメンバーではなく『メルシア預かり』でもある。

 メルシアがいなくなるということは、俺の世話を焼く義務もなくなるということだ。

 今後をどうするか。それは俺は俺で考えなくてはいけない事なのだ。


 俺は口を挟まないように少し離れたところでガララを撫でていた。

 顔が元に戻ったキンも俺の傍にいる。飴細工を持ったまま、しゃがんで足元を歩く蟻を見ていた。

「ルイス」

 もっと何か貰えるかと思ってササに張り付いていたマグマがこちらに来た。

「なんでお前だけ離れてるんだ? いつもあいつらと一緒なのに」

 今までと少し違う雰囲気なのをコイツも感じているらしい。

「……大人だけで難しい話してるんだよ。終わるまでお前もこっちで休んどけ」

 マグマは素直に従った。ガララとマグマがくっついて横たわり、それに気付いたキンもガララに背中を預けるようにして座った。俺はそれを眺める場所に腰を下ろした。


 刈り揃えた芝生が心地いい。

 真上を過ぎた太陽が温かい。

 毎日移動や戦いがあって。

 ゆっくり出来ないわけではないけど、せわしなくて。

 そういう日々に慣れていって。

 このメンバーで旅を続けるんだろうな、と思っていたんだけどな。

 一緒に行きたいと頼んだら受け入れてくれるだろうか。

 メルシアが上手く頼んでくれたら残れるだろうか。

 ロロックの名前でなんとかなるだろうか。

 駄目だと言われたらどうしよう。

 ロロックの所で修行させてもらうのか?

 他の退魔団に入れてもらえるのか?

 それともマグマとふたり旅か?

 ここまでの魔物はマグマがいれば大丈夫だけど、この先も平気だと言えるか?

 もしマグマに何かあったら?

 ガキの俺一人で何が出来る?

 また大人たちの駒にされて無駄死にするのか?

 真っ暗な中でどこを撃たれたか分からないまま死ぬのか?

 肺で息を吸うことなく死ぬのか?

 また化け物に喰われるか?

 今度は何で死ぬ?

 毒か刃物か縄か水か火か鈍器か病気か事故か飢えか…………

 なにで死ねばいい?

 どうやって死ねば満足するんだ?

 何回も死んできた。

 ちょっとした事で人は死ぬ。

 俺は、また死………


「ルイスくん!」


 耳元で叫ばれて俺の体と心臓はとび跳ねた。

「もー、座って寝てたの?」

「フィリーア、様…?」

「『様』はやめてって言ったでしょ。暗くなってきたから家の中に入ろう?」

 フィリーア様が屈んで俺に手を差し伸べてくれている。俺はすぐにその手を握る事が出来なかった。

「どうしたの? 具合悪い?」

 フィリーア様が膝をついて伸ばした手を俺の背中にまわしてさすってくれる。寒くはなかったはずなのに、首の後から背中までが冷え切っていた事に気付いた。

「ちょっと、変な夢に入ってて」

 深く息を吸って、吐き出す。少し軽くなった。

「大丈夫?」

「うん、ありがとう」

 手は借りないで立ち上がれた。

 もうティーセットは片づけられていて、フィリーア様以外の団員の姿も無かった。

「…みんなとの話し合いは?」

「んー、まぁ、結局はトップの判断だから今の時点で決められることはないよね、って事だったよ」

「そう…」

「さ、もうすぐ夕食だから行きましょう。キンちゃんも」

 そう呼びかけられたキンは首を振った。

「ボクはここでみんなと一緒に見張りをします。魔物ですから」

「え、そうなの? でも知らない人が見たら女の子が外に立ってるみたいに見えるし…」

「では上だけ保管してください。残りはドラゴンになって待機します」

 キンは口に少しへたってきた飴細工を咥え、両手で顔の両側を挟む。そしてそのまま上に持ち上げた。首が細く伸びていき、ついには体と頭がプチッと分かれた。

「キッ、キンちゃん?!」

 フィリーア様が呼びかけるけど返事はない。もう口がある方には魔石の力が通っていないんだ。

「キン、俺が持つよ」

 声を聞いて両手で持った頭が俺の方へ下りてくる。それをしっかり受け取った。あんまり重くない。

 しかし顔を合わせるのにはひるんでしまい、向こうを向くようにくるっと持ち直した。

「………」

 フィリーア様が苦い顔をした。

 頭を預けたキンは体を溶かし、衣服から抜け出る。かなり材料を少なくして出来上がったのは半分くらいのサイズのマグマだった。金ぴかだが夜の間だけだし大丈夫だろう。

「…すごいわね」

「ギャウ」


「ルイスくん寝てたよー」

「お疲れかー? …ってオイ! こえーよ!」

 ジェイマーが椅子に掛けたまま振り返り、飛びあがった。

「なにそれー? キンちゃんー?」

「顔だけ預かってきた」

 俺はジェイマーの隣の席のテーブルの上に、ジェイマーの方に向けてそれを置いた。

「…オイ……これはオザダのもんだろ?」

「俺の事は気にするな。ルイス、お前の席はこっちだ」

 大きな長テーブルの向い側にいるオザダが俺を呼ぶ。ぐるっと回ってそちらに行くと、椅子の座面の上に厚みのあるクッションが置かれていた。

「上げるよ?」

 フィリーア様が俺を後ろから持ちあげて座らせてくれる。

 高めのテーブルに丁度いい座高になった。

「平気?」

「ありがとう」

 頷く俺を確認してから自分の席へ戻る。

 俺の向いに座り、目が合ってニッコリと笑ってくれた。

「じゃあ難しーことは持越しってことでー、ごはん食べよー」

 ササがそう言うと同時に従者によって料理が運ばれてきた。


 縁に花の絵柄が入った皿に綺麗に盛り付けられた料理は見た目も味も素晴らしい。

 …のに、他のみんなの手はあまり動いていないようだ。

「……やっぱりおみやげ食べすぎたー」

 …おみやげ……

「あのナスにチーズが乗ってるのが美味しかったわ。特にチーズ」

「牛のカツレツをサンドしたパンも美味かったろ?」

「ササはー、メロンタルトー」

「………オザダは?…」

「うん?」

「オザダは何食ったの」

「俺はポテトパイや他のを……どうした?」

「みんなで食っちゃったのか」

「あ……え? ああ……その……」

「どうした?」

「ルイスが……」

「俺、何にも食ってない…」

「えー、声かけたよー?」

「じゃああの時もう寝てたのかな?」

「すまん、気が付かなかった」

「怒るなよマグマじゃあるまいし。また村に食いに来れば良いじゃん。なんなら明日行くか?」

「いいねー、あのタルト、ササ毎日でも食べたいー」

「だったらルイスくんが一番行きたいお店に行こうよ。改めての歓迎会!」

 歓迎会?

「ああ、良いんじゃん? シェマの事があったりでちゃんとやってなかったもんな」

「ロディが欠けているが」

「あの人は別にいいよー。いても雰囲気乱すだけー」

「じゃあ決まり! 明日、楽しみだね!」

 フィリーア様が楽しそうに笑った。

 つられて俺も笑ってしまった。

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