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再び王都へ

「いらっしゃいませ……ああ、ジェイマー様でしたか」

 魔法書店の扉が開き、出てきた店主は初老の男性だった。

「毎度。儲かってる?」

「相変わらず本は売れませんが転送のご依頼は多いので何とか暇を持て余さずにやっていますよ」

 外から本棚をチラリと見たが、うちとは違って特に珍しい本は並んでいないようだ。

 魔法書士がいない一般的な村の品揃えだとこの程度なのだろうか。

「そっか。ということで俺達も王都まで飛ばして欲しいんだけど」

「王都……ではついにジェイマー様も勇者試験に挑まれるのですかな?」

「も~、おっちゃんもそれかよ……」

「ソリア村最初の勇者になるんでしょう? モタモタしてると村の子供たちに追い越されてしまいますよ。貴方のようになりたいと言ってみんな毎日弓の練習をしているんですから」

「え……そうなの?」

 勇者ではなくてもジェイマーはもう村の英雄として見られてるんだろう。

 それを聞いてジェイマーは幾らかスッキリしたようだ。

「そっか。じゃあそろそろ俺も実力出す時期なのかな」

「そうですよ。私に勇者バッジを見せてくれるお約束、忘れないでくださいね」

「はいはい」


 店主のランクでは一度に全員を送れず転送魔法は二回に分けられた。先にジェイマーと俺とマグマ。数分あとにオザダとキンとガララが白い壁の外に到着する。

「先ずはロディに会わないとだけど…家にいるんかな?」

「取敢えず行ってみよう」

 ジェイマーとオザダが先を歩く。

 門を入った先の風景は、前にアレクシスと来たときとは似ているが少し違う気がする。

「ここってどこに続いてる道?」

「『魔道への道』だ。王宮勤めの家柄は大抵こちら側に屋敷を構えているそうだぞ」

「…ああ、なるほど」

 前回近寄らなかった場所だから見覚えが無くて当然だな。

 大通りを中ほどまで進んだところでジェイマーが振り返った。

「ところでロディの家ってどこ?」

 聞かれたオザダが後退する。

「…………知らん」

「あれ~、マジか」

 それでよく先頭を歩いてたな……。

「どうすっかなー。案内所行ってみるか」

「案内所で個人宅は教えてくれないだろう。警備部の屯所が近くにあったはずだが」

「じゃあそっち行くか。……そうだ、ロディの家名ってなに?」

「…………知らん」

「え~……」

 詰んだか。

 通りの真ん中でどっちに行くかと右往左往する俺達を、道行く人たちが訝し気に見ていく。

 やっぱりこっちは魔法使いっぽい格好の人が多いな。

 仕事中のアレクシスと同じ白い服を着ている人たちもちらほらいる。王宮へ向かう魔法書士のようだ。

 屋敷の従者っぽい人たちもいて、こちらは露店からの帰りらしく大きな布袋を抱えていたり馬車を引いていたりする。

 運よくロディが通りかかってくれればいいのにな……と思っていると、異様な光景が目の前に現れた。

「なぁ、あれ、そうなんじゃないか?」

 数本向こうの横道を突っ切ろうとしているメイド服の女性が一人、二人、三人…………

 全部で10人程がずらずらと同じ方向へ歩いていく。

「どれ? あれ? なんで?」

「だってほら」

 彼女たちは両手に犬と繋がっているリードを何本も握りしめていた。


「ロディ様の……ですか?」

「お名前を仰っていただいても存じ上げません」

「申し訳ないのですが私たちは御犬様の専属ですので」

「生憎ですがロディ様はお出かけになられていますし」

「急に屋敷にいらしていただいても旦那様も奥様もご判断尽きかねるかと」

 呼び止めたメイドたちはロディの屋敷に使えているメイドだったものの、俺達を歓迎してくれそうには無かった。約40匹の犬たちがこちらに吠えまくり、通り過ぎる人々の表情は先ほどよりも明らかに不快感を示していた。

「じゃあロディはいつ頃帰りますかね? 戻ったらすぐに会いたいんですけど」

「さぁ……私共にはなんとも……」

「なら今は屋敷の場所だけ確認させてもらっても良いスか」

「…………まぁ……はい」

 俺達はメイドに嫌がられつつも数歩進んでは振り向き吠える犬たちの後ろをついて行き、ロディの家の前までたどり着いた。正門の横にある従者用の扉を開けてメイドと犬たちはどんどん敷地へ入っていく。最後のメイドがこちらに向かって一礼し、扉を閉めてガチャンと大きな施錠音を鳴らした。

「参ったね」

「……ひとまず離れないか? ご近所さんに迷惑だろう」

 リードから解き放たれた犬たちが格子状の門とフェンスに張り付いて俺達に向かって吠え続け、かなりの騒音となっている。

「あれ? ねぇ、みんなが来てるよ! おーい!」

 どこからか聞き覚えのある声がした。

 見回すと、屋敷の左隣の家の前に大きく手を振る人物がいた。隣の家までがかなり遠いのでよく見えないが、俺にはすぐに分かった。

「フィリーア様!」

「あ、こっち見た。ルイスくーん!」

 駆けだした俺の後をマグマが飛んで追い越していく。

 他の面々の足音もすぐに続いてきた。歩幅が違いすぎてもう追いつかれる。

「ア」

「あ」

 背中を押される衝撃、続いて圧し掛かられた重みに耐えられず地面に倒れ込む衝撃、そして地面に顔をぶつけたキンを間近で目にする衝撃。

「すみません、転んでしまいました」

「か…顔っ、崩れてる!!」

「…………」

 俺の上でキンが日傘を手放した右手で自分の顔を触って確かめる。

「…………大丈夫です。すぐに直ります」

 栗色のカツラは外れて地面に落ち、睫毛は口の端で爽やかな風に揺れていた。

 大事な飴細工は無事だったようで何よりだった。


「ロディの犬があんまり吠えるから強盗でも来たかと思ったよー」

 ササとフィリーア様は丁度ティータイムだったそうで、庭の白いテーブルの上には紅茶の入ったカップとケーキスタンドが置かれていた。

「幼馴染だとは聞いてたけど隣の家だったんだな」

「隣は隣だけどねー、こんなに離れてるからー」

 ササの家の庭からは、植えられている木々のせいでロディ家は見えない。

 オザダとフィリーア様は家の中でキンの修復に手を貸している。

「なぁ、ロディがどこに出かけてるか聞いてるか?」

「竜騎士の採用テストに行くって言ってたわねー。何処に行くかまでは聞かなかったよー」

「そうか……追いかけるより待ってたほうが良いかもなぁ」

「ジェイマーが真面目な顔してるー。なにかあったのー?」

 椅子に掛けたササは茶色いケーキを一つ手掴みで取り、大人しくお座りして口を開けているマグマの舌の上にそれを載せた。

「フィリーアが来たら説明する。あ、あとこれ、うちの村の焼き菓子」

「わーありがとー」

 ササは受け取った紙袋の中を確認して、もう一度封をすると背中と背もたれの間に隠してしまった。

 全員が揃って紅茶を淹れなおしてティータイムが再開しても、その菓子がテーブルに並ぶことは無かった。

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