食の村ソリア
少し前まで俺の定位置だった馬上、オザダの懐に座るキンはそのままではあまりに重くてガララが耐え切れないので、全体の8割ほどを切り離してオザダの倉庫へ預けることになった。今は丁度俺と同じくらいの重さだろう。
キンは俺達との意思疎通を優先して少女の姿で行動を共にすることになったのだけど、このままの姿で人の大勢いるところにまで連れて行っても良いものかという懸念が残っていた。
並走しながら話し合う。
「金色の女の子も金色のドラゴンも、町に入ると目を惹くと思う」
「………そうだな」
「キンは今の姿に拘るか?」
「ボクの旅はパームの旅です。でもそれが困るならどうすれば困らないですか?」
「一番手っ取り早いのは金塊として持ち歩くことだけど、それじゃただの輸送だからなぁ。…例えば、オザダの武器や防具に形を変えるとかは?」
「できます。よく観察すれば変われます。でもあまり大きいと材料が足りません」
質量を減らしたせいで中は空洞が多いらしく、さっきガララに乗る時にはぶつけた腕がちょっとへこんだ。すぐに元に戻ったが、大きいものになるほど強度は弱くなりそうだ。
「できるらしいよオザダ。町の中だけ鎧とか槍に部品としてくっついてもらえば?」
と提案してみるが、キンと見つめ合ったままオザダは考え込んでしまった。
光の反射を抑えるためにシーツをフード付きマントのように頭から被っているキン。
顔だけ出している状態だと、金の仮面を付けてる人みたいに見えなくもない。
そういう装備だ、と言い張ればそれもアリかもしれないけど、もし賊に狙われたら奪われるのは仮面だけじゃなく全身だ。戦闘向きではないキンが抵抗できるとは思えない。
「金色……パーム……旅………」
オザダは出来るだけキンの望みを叶えてあげたいんだろう。
けど、そもそも金色な時点で目立つからなぁ……。
「…もういっそ別の色塗っちゃう?」
「! それは良い考えだ!」
オザダが急に大声を上げ、ガララが僅かに走りを乱したがすぐ持ち直した。
「すまんガララ」
ガララは気にするなと言うように軽やかな足取りで走り続けた。
ソリア村。村と言うには賑わい過ぎている気がする。
聞いていたとおり村に入ったすぐの所から飲食店がずらりと建ち並び、その入り口に向かって人々が行列を作っている。カフェもレストランも、満席のテラス席の客たちは見るからに上機嫌だ。
ただ、俺たちは今そこに構っている場合ではない。
あ、フルーツパーラーがある……エマルダを連れてきたら喜びそうだな。
「まずはジェイマーの家に行こう」
オザダが俺の視線がどこに向いているかに気付いて若干不機嫌そうだ。
わかってるよ、マグマじゃないんだから。
店の正面が向いている大通りを避け、村人の生活道路をこっそりと進んでいく。こちらは静かで殆ど人が歩いていない。
「農業を仕事にしている元々の住人たちは村の奥のエリアだ」
「住み分け? 分断?」
「特に仲が悪いわけではないだろう。移住希望者の要望を受けて新しく土地を広げた区域に料理店がこぞって越してきただけらしいし。…ジェイマーのところは果樹園を持っているからもっと奥の方だ」
舗装された道が終わり、細い土の道に変わる。ガララの速度が少し上がったので、マグマもその横をついていく。
小麦畑の上を滑るように飛行していると正面に見える山の方から何かが飛んでくるのが見えた。虫か?
「マグマ」
「見えてるぜ。どうする?」
「飛んでるだけだろ。避けていこう」
マグマは飛来物の軌道から外れるよう、僅かに右へ動く。
すると、向かってくるそれも同じだけ角度を変えてくる。
ん?こっちを狙ってるのか。
「来るぞ、焼くか?!」
「ああ!」
だいぶ良くなったとは言え、まだ乗竜中に武器を持てるまでにはなっていない。
マグマに任せた方が確実だ。
「あ、ちょっと待っ……」
オザダが制止の声を上げるより一歩早くマグマの火の玉が迫ってきた飛来物を捉えた。
焼けていくのは……虫じゃなくて木の矢みたいだな。何か付けてあるが……焼け落ちたので何かは分からない。
「焼いちゃ駄目だめなやつだった?」
「……いや、大丈夫だろう。きっとまた来る」
オザダがそう推理したとおり、程なくしてまた矢が向かってきた。
「今度は付いてる玉を取ってみろ」
「玉?」
確かに矢には糸で吊るされた小さな玉が付いていた。カラフルな水玉模様だ。
「…師匠か」
俺はようやく気が付いた。
一気にどうでもよくなってしまったが、でもまぁ折角だから付き合ってやろうか。
矢は俺の頭上までの距離を一定の間隔保つように調整しながら飛んできていて、放っておいても当たらないようになっているみたいだ。どういう効果の組み合わせなんだろう。
どうにか鞍の前輪から片手を離す。
矢は手を伸ばしてギリギリ指先が触れる高さで止まり、俺に取られるのを待っている。
もっと言えば、マグマは飛び続けているわけだから、それに合わせて後退しているのだ。
「揺れるなよマグマ」
全身に力を込めたまま目いっぱい手を伸ばす。
小さな玉を掌に握って引き寄せると、矢が強く抵抗して二つを繋いでいた糸が切れた。
すると仕事を終えたその矢はぐるりと進行方向を元来た山へ変えてすごい勢いで飛んで行った…途中で次の矢とすれ違って。
「また来た!」
俺は玉をひとまずウエストポーチに入れ、また空中に手を伸ばす。そしてそれを取るとまた次の矢が飛んでくる。
そんな繰り返しを何度かして俺のポーチがパンパンになった頃にやっと襲撃はおさまり、山の斜面に沿って綺麗な列に植えられている桃の木が見えてきた。そして、桃園からすこし離れたところに建っている大きな家の屋根の上で手を振る師匠も確認出来た。
「あれがジェイマーの家なのか、デカいな」
「この村の村長の家だからな」
へぇ……ジェイマーは村長の息子なのか。
引き継ぐ勉強とかしないで退魔に出歩いてて大丈夫なんだろうか。
「おつー…………ん?」
家の前でジェイマーが待っていた。そして、早速見かけないものがガララの上に乗っていることに反応する。
「こちらの眩しいお嬢さんはどちら様スか?」
ジェイマーがキンに笑顔で手を振った。
「はじめましてボクはキンです。よろしくおね…………」
「キン!」
「うわぉ! 何事?!」
キンは一人でオザダの補助を待たずにガララから降りようとして失敗し、顔と腕と足と腰をぐしゃぐしゃに変形させてジェイマーを驚かせた。




