地を這うドラゴン
オザダが落ち着くまで、まぁまぁの時間がかかりそうだ。
マグマは川から魚を採って戻って来た。焚火に周りに石を積んで網を乗せ、勝手に夕食の準備を進めている。
俺はどうすれば良いんだろう。勝手に返事をするわけにもいかないし。
金の魔物は地面に座った態勢からピクリとも動かない。
「疲れない? 足崩したら?」
「崩す………」
「うわっ、そうじゃないそうじゃない!」
魔物の足元がドロドロと溶け出すのを慌てて止めた。
「疲れません。大丈夫です」
魔物の姿はすぐに元に戻った。
「なぁ、魚食うか?」
マグマが魔物の前に焼けた魚を置いた。
「……食べません」
「そっか!」
要らない、と言われたのにマグマは嬉しそうに魚を引き戻して自分の前に移動させる。
自分の取り分が減らないことがそんなに嬉しいのか…。
「俺は食うぞ」
「いいぞ、でもこれは俺のだ」
と、網に乗っていた一番大きい魚をさっさと口の中に入れてしまった。
そんなマグマを魔物は黙って見ている。
「あのさ、どうするか考えるから食べ終わるまでもう少し待ってもらえる?」
「わかりました。大丈夫です」
魔物がそう言ってくれたので俺はオザダに水筒を渡す。
「オザダ、まず落ち着こう。ほら、水飲んで…魚も美味しそうに焼けてるから食べよう」
「……ああ、ありがとう……」
金ピカの魔物は夕日を反射しながら俺達の食事が終わるのをじっと待っていた。
それを見てオザダが『健気だ』と言ってまた泣いた。
「連れて行きたい」
言うと思ったよ。
「大丈夫なの? ロディとかに聞かなくて」
「俺が後から許可を取る」
「珍しい魔物なんだろ? 大変じゃないか?」
「何かあったら俺が責任を取る」
オザダがまるで捨てられた犬や猫を見つけて飼いたがる子供のようにまっすぐに見つめてくる。
「もし人間に危害を加えたりしたら?」
「そんなことはしません」
この問いかけには魔物が即座に否定した。そしてオザダが魔物座ったままの正面に立ち、告げる。
「俺はお前を信じる。もし何かあったら俺がお前を処分する」
「わかりました」
魔物は頷いた。そして、差し出されたオザダの手を握った。
「今日はこのままここで休みたいなぁ」
という俺のボヤキをオザダが受け入れてくれた。
やっぱり雨に濡れるのと溺れるのとでは疲労感が全然違う。
「テントを張るから少し待っていてくれ」
「ボク手伝います」
魔物はオザダの後ろをついていく。指示を聞いて設営を手伝う魔物は、光っていなければ本当に人間みたいに見える。
「役に立つ魔物が手に入ったなぁ……」
俺はぼんやりとその様子を眺めた。
「俺は魚を採ってきたぞ。今日役に立ってないのはルイスだけだな」
マグマはそう言って俺達が残した魚の骨をバリバリと食べた。
…言い返せないんじゃない。疲れてるから言い返さないだけなんだぞ。
「おい、ここを持っていてくれ」
「はい」
「おい、これをこう結べるか」
「はい、出来ます」
「おい、そこの杭を取ってくれ」
「はい。ここに打ちますか? ボク出来ます」
…………。
「……なあ、名前はあるのか?」
魔物がペグを握りこぶしで土に打ち込みながら俺の方を向いた。
「ありません。誰にも呼ばれたことがありません」
「オザダ、付けてあげたら? ずっと『おい』だと可哀想だ」
「……そうだな……。」
オザダの手が止まる。じっと魔物を見つめて考える。
「キン」
「……キン?」
「…変か?」
「…変じゃないよ」
ただ、センスが俺と同じレベルなだけだよ。
「お前をキンと呼んで良いか?」
「はい、ボクはキンです。ありがとうございます」
キンはすんなりキンを受け入れた。
「キンは自分の事をボクって言うんだな。女の子じゃないの?」
「ボクに性別はありません。鉱物なので」
そう言われればそうか。
「パームは女の子ですが自分の事を『ボク』と言っていました。ボクは今パームを真似ているので『ボク』です」
テントの準備が出来た。
「キンも中で休むか?」
オザダが魔物に聞いた。
「ボクは寝ません。鉱物なので」
「じゃあ俺と見張りだな!」
マグマが仲間が出来たと喜んだ。
「…………」
しかしキンは返事をしない。
「大丈夫だぜ、どんな敵が来ても俺が一人で倒してやるよ! 俺強いから!」
「…………」
やっぱりキンが反応しない。
マグマもそれに気付いて不思議そうにしている。
今まで俺達との会話はずっとスムーズだったのに。
もしかしてさっき食われかけたのを根に持ってマグマを無視しているのか…?
モヤモヤしていても仕方ないので聞いてみるか。
「キン?」
「はい」
「マグマの事が嫌いか?」
「いいえ」
キンは即答した。
「だったらなんでマグマの言ったことに返事しないんだ?」
マグマを見つめる。
「何を言っているかわかりませんでした」
「…………そうか」
それはマグマの言うことがバカだから理解できないってことか?
そりゃあこいつはバカさ。初めよりはだいぶマシになったけど、キンほど流暢には喋れないよ。
でもさ……こいつだって頑張って生きてるんだよ!
……と熱くなるほどではない。実際現在進行形でバカなのは本当だし。
「理解するべきでしたら変わります」
キンはマグマを見つめたまま、周りをゆっくりぐるぐる回りだした。
「何をしているんだ?」
近くに繋いでいたガララの様子を見に行っていたオザダが戻ってきた。
「さぁ………変わるって言ってたけど…」
突然のキンの行動にビクつくマグマが面白い。リキューと出会った時もだったけど、こいつはグイグイ来られるのが弱いみたいだ。
何周かしてキンはマグマの正面でやっと止まった。
「人間は人間の言葉しか聞き取れません」
そう言うとキンは頭のてっぺんから順にドロドロと溶けていく。地面に溶けたチーズが落ちてるみたいになって、そこからまたグネグネと突起物が生えてくる。長い…尻尾…パンパンの胴体…首から頭…。
「おおお!」
マグマが目を輝かせて声を上げた。
地面に溜まっていたドロドロが再び形を成す。
背中から長い二本の骨が伸び、そこから薄い膜が広がって翼となっていく。
キンはみるみるうちに黄金に輝くドラゴンになった。
「なんと……」
「すげー!」
「ギャウ」
……あ。
「キン」
「ギャウ」
なるほど……。
「すげーなお前! 俺にそっくりだ!」
「ガウガウ、ガー」
「へー!」
「マグマ、今キンはなんて言ったか分かるか?」
「え? 『よく観察したからだ』って」
「ルイス、今何の会話をしているんだ?」
「えっと、マグマが自分にそっくりだって言って、キンが何か言ったからマグマに何て言ったのか聞いたら、観察したからだって言った、ってマグマが言ったんだ。」
……この伝言ゲームは面倒くさいな。あと、マグマが分かってることが俺に分からないというのがちょっとモヤっとする。
「火も出せる? やってみてくれよ! こういうやつ!」
マグマが小さな火の玉を一つ吐いてキンに見せる。
「ガウ、ガウガウガウ。ギャアァ」
マグマの体勢を真似てキンが口を開ける。
吐いたのは、金色のドロッとした…たぶん金。
何度か試してみるものの炎は出ず、金色の吐しゃ物がまき散らされるだけだった。
「……技は真似できないみたいだなぁ」
「キン、お前は飛べるのか?」
オザダがそう尋ねるとキンはひと声マグマに向かって鳴き、それを受けてマグマは翼を一度バサッと動かしてから浮かんで見せる。
キンもそれを真似て翼を動かす。何度か試してみるものの、浮く気配はない。こちらもダメなようだ。元々重量もありそうだしな。
「……わかった、もう大丈夫だ」
オザダが止める。少し残念そうだ。
…あ。
あれか、【神の裁き】か。邪神が神から奪って乗ってたのはこんな感じの色のドラゴンだったもんな。
「夜間のマグマの話し相手にはなるだろう。二人ともよろしく頼む」
「ギャウ」
「おう!」
その夜はマグマとキンの話が盛り上がり、朝まで騒々しかった。
主にマグマが。




