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少女との話

 全身に暖かい風を受けて目を覚ました。

「…お前か」

 風の出どころはマグマだった。こいつも無事だったか…。

「ルイス!」

「マグマ、ブレスを止めないで続けてくれ」

 オザダが俺に飛びつきそうなマグマを制し、代わりに俺を覗き込む。

「オザダ…」

「痛む所は無いか?」

「大丈夫…川は越えた?」

「ああ…越えたは越えたが……」

 オザダが目を逸らした……のではなく、そちらにいたものを見やった。

 離れた場所に、その子は膝を折って座っていた。

 水の中で見たのは見間違いではなかった。

 今見ているその子も確かに輝いている。

 そう、全身が金色の少女なのだ。


「ごめんなさい」


 距離がありすぎて少女の声はかろうじてこちらに届く。

 俺は上半身だけ起こし、もっとよく見ようと目を凝らしたが日光の反射で細かい部分がどうなっているのか見えない。背中を支えてくれているオザダに聞いてみる。

「あの子って…なにもの?」

「…人化した魔物、だと思う。おそらく【金】の」

「魔物って…喋ってるけど……あ、また俺だけ聞こえてる?」

「いや、困ったことに今回は俺にも何を言ってるか分かるんだ。…それでな」

 困った顔のオザダが少女に向けて叫んだ。

「こっちに来てもう一度要望を聞かせてくれ」

 すると少女は立ち上がり、スタスタと足早に俺たちの方へ近づき再び正座する。そして地面へ両手をつき、オザダと俺を交互に見ながらはっきりと言った。

「仲間に入れてください」


 俺の濡れた服と髪の毛は乾き、もう次の村へ向かえるんだけど。

「世界を見てまわりたいんです。お願いします」

 俺達を川に引きずり込んだ魔物が仲間になりたがっているとなると…容易には村に近づけない。

 さてどうするか。

 安全策は、この魔物の言うことを無視して倒してしまうことだけど…。

「人間に悪さをしようとは思っていません。だから、お願いします」

 こんなに切実に訴えられてしまうと、敵意を持つのが難しくなってしまう。

 見た目も女の子だしな。

 ピカピカだけど。

「何で俺たちに目をつけたのか理由を聞かせて欲しいんだけど」

「目…?」

 少女の姿の魔物は自分の目を指差した。

 あんまり綺麗に人の言葉を喋るから大丈夫かと思ったけど、難しい言い回しは得意じゃないみたいだ。

 知能はマグマのちょっと上くらいか?

「その目じゃなくて、どうして俺達の仲間になりたいと思ったのか教えてくれる?」

「それは、ちょうどだったから。ボクが山の上から川を転がってきて、あの辺でちょっと強い水流に乗って浮いたときにちょうどあの子の足がバタバタしてるのが見えたから」

 マグマ…お前が言うことを聞いて空を飛んでればこんな面倒くさいことにならなかったんだぞ。…なにやってるんだマグマ。少女の後ろで口をパクパクと…

 ! 食おうとしてるのか!

「運命のままに、あなた達と一緒に行きたい。出会いは偶然を装った必然なんですから」

 あ、足の指に食いついた…けどすぐに放した。そりゃそうだろ。相手は鉱物だぞ。

「ボクはどうしてもパームの思いを継ぎたいんです」

 おい、ちょっと来い。

「出来ることは何でもします。ボクは頑張ります」

 目が合っただろ? そうだ、お前だよマグマ。

「ルイス」

「っ! はい!」

「気になるのは分かるが、今はこちらに集中しないか」

「あ、はい……すみません……」

 俺が諭されるのを見て、マグマがどこかに飛んで行った。

 なんかちょっと笑ってたか? 気に入らんな。

 あいつ、この金ピカを食えないとわかって何か食い物探しに行ったな。

「お前が旅に出たい理由を聞いても良いか?」

 状況を受け入れがたいせいかどうも気が散ってしまう俺に変わってオザダが進める。

 人間の形はしていても人間ではないからか、オザダの人見知りスキルは発動していないらしい。

「はい。理由を聞いて欲しいです」

 魔物はスラスラと経緯を語り出した。


「ボクは川の上流にある廃鉱に転がっている石の中に入っている金でした。まだ採掘が盛んだったころは近くに小さな集落がありました。パームは鉱山で働く父親と二人暮らしの女の子でした。鉱山は危ない所なので子どもは来てはいけません。パームはこっそり父親の後をついてきては見つかって怒られていましたが、掘り進める洞窟の入口でいつも父親の仕事が終わるのをボクを積んで遊びながら待っていました。ある日パームの父が洞窟の天井が崩れて下敷きになって死にました。パームは父親が変わり果てた姿で洞窟から引っ張り出されるのを見ていました。その日からパームは知り合いの家で暮らすことになりましたが、あの子はいつもボクの所にやってきました。父親はもういないのに洞窟の方を見ていました。その日は雨が降っていました。パームはずぶ濡れになりながらもいつものようにやって来てボクに言いました。『パパは雨の匂いが好きなんだよ。遠くの世界の匂いがするから、って。ボクも遠くの世界に行ってみたい。パパが好きな遠くの世界のホントの匂いを嗅いでみたい』と言いました。ボクの横の土に小枝で山や川や海の絵を描きました。雨が溝に溜まって土が崩れても描き続けました。そうしていると大人たちが土や石で塞いでしまった洞窟の奥で音がしました。ボクには聞こえませんでしたがパームには聞こえました。あの子は僕を掴んで穴を塞いでいる土を掘り出そうとしました。土に混ざった石に手をぶつけて血が出ても雨が冷たくて体が震えても土を掻き出そうとしました。大きな岩の間に少しだけ隙間があるのを見つけました。隙間は狭くて中に入りきることは出来ません。パームは頭と手をを突っ込んでもっと土を掘りました。パームは頑張って掘りましたが今度は掘っても掘っても土ばかりでした。『パパ』と泣きながら掘りましたが、パパはいません。また音がしました。今度はボクにも聞こえました。とても近くです。上からでした。また天井が崩れたのです。たくさんの土と大きな石がパームの上に積もりました。頭に石が当たって、身動きが取れなくなって、息が出来なくなって、パームもそこで死にました。パパと同じ場所で死にました。ボクはパームが洞窟から引きずり出されたとき、洞窟の中に残されました。何年もその中にいました。その間にボクはいろいろ考えました。パームの事を忘れたくないと思いました。パームがパパと行きたがっていた遠くの世界に行ってみたいと思いました。パームの代わりにたくさん生きたいと思いました。考えているうちにボクは動けるようになりました。だから洞窟に残っているボクと同じ金を集めて取り込んで大きくなりました。ボクは山の事しか知りません。だからどうすれば良いのかを誰かに聞こうと思いましたが集落にはもう誰も住んでいません。ボクはパームの描いた絵を思い出しました。山から川が流れていて、海に続いていました。ボクは川を探しました。そして川の中に入りました。ボクは重くて沈みました。だからパームの形を思い出しました。水の中を歩きました。水が多い時はちょっと早く歩けました。もっと多い時は転がりながら流されました。そうしてここまで来ました。あなた達を見つけました。あなた達は魔物を連れています。ボクも魔物です。だから連れて行って欲しいです。遠い世界にボクも一緒に行きたいです」


 魔物は淡々と過去の話をした。

 その風貌と口調に感情は見えないのに、とても強い気持ちは見えた。

 そして、隣で目頭を押さえているオザダはむせび泣く寸前だ。

「……こういうの弱いだろ」 

「っ…………」

 案の定『今話しかけるな』と手で遮られた。

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