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見限り

 マルズとリキューに別れを告げて、俺たちは町を後にした。

 今日から王都ハルクデリウムへ向かいながらの修行だ。……と気持ちを新たにしてる暇もなく、

「ヒャッホー!」

 バカな声を上げているのはマグマだ。まったく、何がそんなに楽しいんだか分からない。

 俺を乗せて町を出た瞬間からアホみたいなスピードで荒野をぶっ飛ばしている。今も。

 気づいてたさ。リキューの前では猫を被っていたことはな。

 それでももうちょっと学習してると思ってたよ。俺の指示でブレスを出せたり、一人でお使いも出来るようになった。会話が出来るようになって、俺の気持ちも理解してくれてると思ってたのに。

 必死に振り絞って出した声も風の音でバカには届かない。

 俺はただただ全身に力を込めて耐えるだけだ。


「……、…*~*だっ!」

 地上からオザダの叫ぶ声が聞こえてきた。今まで聞いたことのなかったガララの荒い息遣いも。

 助かった。追いついてきてくれた。

「西に向かってくれ! 西だ!」

「えっ?」

 急ブレーキをかけたマグマが振り返る。

「! んぎぎぎっぎぎ…っ……」

 当然、遠心力で俺の身体は空中に投げ出される。両手で握っていた鞍の前輪がかろうじて俺の命を繋ぎとめてくれた。振られた身体が鞍にぶつかり、マグマの横腹に俺の膝が入った。

 そこでやっとマグマが俺の状態に気付き、高度を下げた。

「大丈夫か?!」

 オザダが駆け寄る。俺は地面に膝から崩れ落ちる。大地の感触に感謝した。

 そんな俺にマグマは、あっけらかんと

「なぁ、西ってどっち?」

 ……………。

 だめだろこれ………。

「もう乗らない。無理」

「ええっ?!」

「ルイス……」

「何回言えばいいんだよ! お前ひとりで飛んでるんじゃないんだぞ! 俺は落ちたら死ぬの!

 死ぬわけにはいかないの! 死んだらもう一回なんだよ! またやり直しなんだよ! 今度またこの世界に生まれるかどうかもわかんないんだぞ! そしたらいつまで………いつまで生きなきゃいけないかまた…………」

 また…最初からなんて………

「ごめん。もうあんな飛び方しないから」

「信用できない」

「ルイス! 本当だから!」

「…………オザダ、悪いけどガララに乗せて」

「ああ…でも……」

「いいから。はやく行こう」

 強引にガララに乗せてもらい、走り出す。

 マグマが並行して何度も謝ってきたが無視を繰り返した。

 しばらく放っておくと、何も言わずにただついてくるようになった。


 草原を抜け、森への細い道へ入る。木の枝が道の両脇から伸び出してきていて俺は大丈夫だけどオザダの顔には何度もぶつかってしまう。道の状態も良くないこともあって仕方なくガララを一度回収して徒歩で進むことにした。

「随分荒れた道だな…普通の人もこんなところを通るのか?」

 けもの道は幅が狭く、小石や木の根があって歩きにくい。行商の馬車などは通れそうもなかった。

「本当はもっと手前に広めの道があったんだが…その……」

 オザダがとても申し訳なさそうにしている。

「どっかのバカが道も知らないのに暴走したせいだよな。ごめんな迷惑かけて」

「あ、いや、俺は大丈夫だ……おそらくこちらの方が近道だし」

 チラチラと後ろの様子を気にするオザダ。

 マグマが俺たちから少し遅れて俯きながら最後尾を歩いている。

「許してやったらどうだ? とても反省しているぞ」

 オザダが後ろに聞こえないように小声で俺に伝える。

「そしたらまた付け上がるだけだ」

 俺はわざと聞こえるように大声で言った。

「…………」

 マグマは何も言い返してこない。

「だが…ルイス……」

 俺はただ前を見て道なりに進む。


 森から続く山への坂道に差し掛かった頃から雨が降ってきた。最初は気にならない程度の小降りだったがどんどん雨脚が強くなってきて、避難する場所を探しているうちにずぶ濡れになってしまった。

 少し様子を見ようとオザダが提案したが、もうすぐ止むだろう、と俺はそのまま進むことを推した。


 山肌には、足の幅の分だけ土を削ったような申し訳程度の道しかなくなった。踏み外せば崖下、木で視界が塞がれていてどこまで落ちていくのかは実際に落ちてみないとわからない。

 オザダが前を行き、崩れる危険が無いかを確認しつつゆっくりと上っていく。

「足もと、滑らないように気をつけろ」

「わかってる…………」

 手を添えている山肌を雨水が流れ、それが小川のように坂道を流れていく。

 マグマは俺の後ろで浮きながらついてきているようだ。

 視界に入らないようにしているから分からないが。

 ガラガラッ、と前方で音がした。

 見るとオザダの足元の道が大きく崩れ落ちていた。

 その先も所々道が欠けているようだ。上からは雨水に流されてカラカラと小石が転がり落ちて来ている。

「ルイス、お前はマグマに乗って上まで行け」

「オザダは?!」

「俺は自力で登れる」

 そう言って両手に槍を取り出し、山の壁に突き刺した。

「俺も……」

「駄目だ! お前の力では途中で落ちるぞ!」

「っ……」

 強い口調に俺は仕方なくマグマのいる方を振り返った。

 マグマはもう乗りやすいようにこちらに体を寄せていた。

「…………」

 前輪のグリップを握る。雨に濡れて少し滑る。

 座面も滑りやすくなっている。先に腹を乗せるようにしてから、ゆっくり跨った。

「いいぞ、上がれ」

 俺はそれだけ告げる。マグマはゆっくりと上昇していく。

 それを見てオザダも登り始めた。

 槍を出しては刺し、足場にして一段上がって回収、また一本出して刺して上がって…を繰り返している。


 マグマが山の上に静かに降りた。

 俺も無言でマグマから離れる。

 オザダは中腹辺りを登っている。

 まだ雨が強い。

「大丈夫かー?」

 声をかけると俺の方を見上げてオザダが答える。

「問題ない。どこか雨を凌げる場所で待っていてくれ」

 大きな雨粒を顔に浴びて辛そうだ。ごめん。

 あまり邪魔をしないようにしなくては。

「わかった。気をつけて」

 と、オザダから目を放したその時。

「うわ」

 俺のすぐそばの土の中から巨大なミミズが這い出てきた。

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