進路面談
「いま魔力が要らないとかっていう話だった?」
「そうだな。そういう話だ」
あー、そういう話かー。
「魔力が無くても出せる技とかあるのかぁ…」
誰か教えてくれても良くないか? 不思議な力はみんな魔力が無いと駄目なんだと思っていた俺が悪いのか?
「知らなかったか。すまない」
「いや、俺が知らなかった事を知らなかったのはオザダのせいじゃないから」
多分メルシアとかグレイスが悪いんだろう。うん、きっとそうだ。
折角そういう話題になったのなら、という事でオザダが職業ランクについて簡単に教えてくれることになった。
実は『認定試験に合格すればランクアップする』くらいしか知らないから助かる。
オザダが昨日預けていた紙とペン、ついでに銀の盾も取り出して地面に敷いた。
表面がツルツルだからって銀の盾を画板替わりか…………。
紙の上から順に一文字ずつ書き込まれていく。
「まずはNランク。試験はそれぞれの専門学校への入学適性診断も兼ねていて、受かる入学許可証と認定バッジが貰える。認定試験は誰でも受けられるから退魔師を目指す一年目は基礎能力を上げるために5つの職種全部のNランク試験を受けて甕を集めるのが最近の主流らしい」
「簡単?」
「そうだな。6歳の子供が受けるものだから」
全部受かればその年だけで甕が5個増えるのか。……俺はどう頑張っても4個だろうけど。
「10月の学校入学の絡みが理由かは知らないが、認定試験は毎年9月に1ヶ月の期間で行われる。期間中になら試験は幾つでも受けられるから優秀な退魔師はそのひと月でどんどんランクを上げて強い魔物を相手に出来るようになる。E、D、Cまで取れば学校の卒業が許可されて、同時に退魔師組合への登録が可能になる。最初からCランクの仲間同士だけで組むパーティーもいないわけじゃないが、大体はどこかのパーティーに入れてもらってそこで力を付けていく」
「新人退魔師を受け入れなきゃいけないほど退魔師は人が少ないのか?」
「『退魔師育成制度』というものがあって、Cランクを受け入れたパーティーには補助金が出る仕組みになっている」
学校を出たばかりの新人が広い世界で生きて行けるようになるまで先輩が育てる制度か。そういう仕組みがないとやっていけないくらい慣れるまでは厳しい世界なんだろうな。
「Bランクからは補助金が出ないこともあって同レベル以上の同職種が既にいる場合などはパーティーから抜けさせられることも増える。そのせいで組合で入団応募リストを見ると、このBランクがとても多い」
「Aは?」
「Aまでいくとまた需要が増える。SランクやSSランクになってしまうと自分で団を仕切るようになって『誰かの下でも良い』という温和な人材は少なくなってしまうというのもあるし、単純にAランク以上が受ける依頼は命を落としかねないものが多くて補充が必要になるというのもある。王宮直属の退魔軍に入れるのもAランクからだ」
Aランクで一人前、か。
「SSランクになるのって大変だった?」
「楽ではなかったが……どちらかというとSランクに上がる時のほうが大変だったかもしれない………。」
「ふぅん?」
どんな試験内容なのか知りたかったが、明らかに話したくない雰囲気を出したので深くは聞かないことにする。
「あとはSSランクで取れる特技甕についてだ。騎士は先ほど見せた『一点』。意識を集中させて魔物の魔石の位置を見る。戦士は『重力無効』。発動中は重さを感じずに動けるので重い武器や鎧を装備する時は便利だろう。そして弓には『抵抗補正』が用意されている。風の流れや天候条件を排除できる技だ。これらは魔力とは別の甕から力を消費するから使いどころを見誤らないようにしなくてはいけない」
「魔法使いと技工士は?」
「二つも通常の甕とは違うが、どちらも魔力系だ。技工士は最高レベルの魔法加工が出来るようになり、魔法使いはブースターで魔法威力が2倍になる。」
魔法使いは完全に諦めてたけど技工士も魔力を必要とするものなのか。
色々便利アイテムを作れそうな技工士、結構興味あるんだけど…後まわしかなぁ…。
「オザダが見た感じだと、俺はどこからランクを上げたら良いと思う? やっぱり騎士?」
「ああ。まだ力は弱いがルイスには既に相棒のマグマがいるからその不足分も補えるだろうし。『一点』があれば魔石への的中率が上がるから他の職種になってもその後が楽になると思うぞ」
「マグマも試験に使えるってこと?」
「使えるというか、使わないと受けられない。試験は『乗馬もしくは乗竜出来るか』から始まる」
乗竜……。マルズさんの竜具が無ければ始まらない話だった……。
「あまり心配しなくてもルイスならひと月あれば殆どの職種でBランクまで取れるんじゃないかと思うぞ。あと三ヶ月あれば体も大きくなるだろうし」
「だと良いけどね」
学校に入れる年齢にすら達していないのにもうBランクの話か。
もし本当に取れるとしても、あんまり悪目立ちしたくないなぁ……。
「試験って皆に見られる?」
「Nランクを受ける子供には保護者が付き添っていることが多いな。それ以上になるとギャラリーは入れなくなる」
他の受験者と試験官くらいってことか。それくらいなら変な噂も立たないかなぁ。
Nランク……アレクシスたちも見に来たりするんだろうか。
翌朝も獅子を相手に槍を振るい、ガララに荷車を付けて積めるだけ積み込んだ。町に戻るために昨日の草原を通ると、昨日の氷は溶けきっていて濡れた草むらの上のバッタの山に大きなトカゲが集まっていた。今度はトカゲの大群駆除を言い出すかと思ったが、オザダはそのまま草原を抜けた。後ろをついてきてるはずのマグマがいなくなってることに気づいたが、少しして追いついてきた。
………大丈夫。マルズはこの程度の成長は見越して造ってくれているはずだ。
町に戻り、まず肉屋に獅子を引き取ってもらう。代わりに猪肉のフライを挟んだパンを買って公園で食べた。町の人々も昼食の時間なのだろう。歩く人々は少なく、レストランからは賑やかな声が漏れている。天気も良いし、のどかな昼下がりだ。
「この後は?」
「そうだな……毒沼に行ってみるか」
でもその前に、とオザダはもう一度肉屋へ戻って同じものをあと四つ購入した。




