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蝗害

「二人にとってもドラゴンは信仰対象なんですか?」

「うちは無宗派だよ。確かにドラゴンは尊い存在だけど、僕たちは彼らをもっと深く愛したいからね」

「私たちはドラゴンに縋って生きる事よりもドラゴンと一緒に生きていることが大事なの」

「今の世界がどうとか生活がどうとか、そういうところとドラゴンを一緒に考えたくないんだ。ドラゴンはドラゴン。その存在そのものが美しくて愛おしいんだよ」

「……はぁ、そうなんですね」

 自分で質問しておいて、後半ちょっと興味なくなってしまった。

「だから、私たちがルイスとマグマちゃんを使って一儲けしようとか仕組みを知るために閉じ込めて実験しようとか、そういう事は無いから安心して」

「…はい、ありがとうございます」

 ……例え話なのに実験っていう言葉が出ること自体、ちょっと不安なんだけど。

 でも信仰問題か……聞いておいて良かったかもしれない。


「で、羨ましい話はこの辺にして、作り直しの竜具の件だけどね」

 マルズが話題を変えて手元のメモを確認する。

「材料は多めに仕入れたからすぐ作成に取り掛かれるんだけど、マグマ君の成長スピードがこの後も想定を超えることを考えると、ある程度調整が出来るようにする必要があるかなと思うんだ」

「すみません……」

「謝ることではないよ。ドラゴンがすくすくと成長することは喜ばしいことだからね。ということで、あらかじめ鞍を大きめに作って、下に敷くクッション材で調節出来るようにしたいと思います。幸い意思疎通には困らないことが分かったし、都度マグマ君に使い心地を確認していただければ宜しいかと」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「承知しました」

 マルズはニッコリと微笑んだ。

「いつ頃来ればいいでしょうか?」

 オザダも何やら手帳のようなものを広げた。これからの行動予定でも書いてあるのだろうか。

「仕上がり予定日は変更なしの三日後で大丈夫ですよ」

 その言葉にオザダは少し驚いた顔を見せ、手帳を閉じた。

「感謝します」

「いえいえ」

「マグマちゃんは今日はこれから何処へ行くの?」

 リキューがしゃがんでマグマに話しかける。しゃがんでしまうと、もうマグマは見上げる大きさだ。

「何処?」

 マグマが俺を見る。

「…何処?」

 俺がオザダを見る。

 オザダが遠くの空を見る。

「バッタ狩りだ」



 町の北からぐるりと沼を越え、南西の草原までやって来た。

 武器屋に寄って昨日使い果たした矢を補充したり昼食をとってから町を出たせいもあって、辺りはもう薄暗くなってきてしまった。目的のバッタとの対戦は明日に持ち越すことにした。

「久しぶりの外だ」

「そうだな」

 俺たちは適当な場所にテントを広げ、今夜の寝場所を作る。

「マグマ一人の警護は初めてだな。大丈夫か?」

「当然だろ! 任せろ!」

 マグマが石組みしたかまどに集めてきた枝を投入し、点火する。

 炎の周りが温かい灯りに包まれる。

 網を乗せ、町で買ってきた鹿肉を炙った。

「虫退治が続くね? 好きなの?」

「そういうわけでもないんだが、うちの団が避けがちな相手はこういう時じゃないと対処出来ないから」

「ササ案件か」

「それもあるし、こういう討伐対象が移動するものは依頼として上がって来ないものも多いんだ」

「報酬が無いってこと?」

「そうだ。今回は買取もない。でも放っておけば確実に農作物に被害が出る」

 奉仕か。

「うちの家も農家だったから害虫に苦労しているのを見て育った。だから作物の害になる魔物がいれば、出来るだけ対処したいと思う」

「そうか」

 俺が山で暮らしていた時もモグラに畑を壊されたことが何度もあったな。ルイスが獲って食っていたけど、その時ルイスが更に畑を踏み荒らすもんだから被害が倍以上になって散々だった。

「心配事が減るのは良いことだ」

「ああ」


 翌朝支度をしてテントを出るとマグマがバッタを捕まえて食っていた。

「それ何匹目?」

「23」

 偉いな、うちのコは10以上の数も数えられるようになったよ。

「このままお前が全部食ったら解決なんじゃないか?」

 テントの周りに数十匹のバッタが見えた。これで全部ではないはずだけど…。

「無理無理。あんなにいっぱいは無理」

「お前でも無理ってどういうことだよ」

「すげー来るから無理」

「どれくらい? 百? 千? 万?」

「…………すげーいっぱい」

 うちのコは二桁を数えるのが限界なのかな。

「ガララを近くの木に繋いでくる。ここで待っててくれ」

 オザダがテントを倉庫へ回収し、ガララを連れて少し離れたところに見える一本の木に向かった。

「美味いのかそれ」

 食べ続けるマグマに聞いてみる。見てるだけで喉がイガイガする。

「プチプチする」

「……そうか」

 俺は草原に腰を下ろした。今日はとてもいい天気だ。周りに若干虫が多いこと以外は最高だ。下は若草色、上は青空。座ったまま後ろに手をつき、空を見上げる。太陽の光が眩しくて目を閉じる。暖かくて気持ちがいい。このまま草の上に倒れ込んでもうひと寝したいくらいだ。

 耳を澄ますと、遠くでパチパチと音がしている。

 羽音のような音も聞こえ始めた。

 そろそろか。

 そう思って目を開けると、美しかった青空があっという間に茶色いバッタの大群によって埋め尽くされていくところだった。

「こ、これ酷すぎないか?!」

 立ち上がると全身にバチバチとバッタがぶつかって来る。口を開けていたら入ってきそうで、俺はバッタの進行方向と同じほうを向いた。

 これは酷い。こんな数をどうやって倒すんだ。

「ルイス! お前は好きにしていてくれ。駆除は俺がやる」

 戻ってきたオザダが太い槍を群れに向けると、槍の先から竜巻が発生し、バッタ達をどんどん巻き込んでいく。上空に巻き上げられて抵抗できない虫たちの元へ、後を追うように稲光が竜巻を伝って昇って行った。

「怖………ちょっと離れるか。マグマ、お前も好きにやってて良いぞ」

 数は圧倒的だが肉体にはダメージを受けないし、好きにして良いと言われたので討伐よりも修行を念頭に置く。

 俺はオザダの攻撃の邪魔にならなそうな位置まで移動する。マグマもついてきた。

「遊んでてもいいんだぞ?」

「一緒にいる」

 そう言ったまま口を開けているマグマ。どんどんバッタがその中に飛び込んでいく。

 このまま食い続けたら何枚か新しく翅が生えそうだ。


 俺は顔の横を飛ぶ一匹を捕まえて観察した。マグマに大人しく食われるくらいの虫なので、魔石は小さくて矢で射る練習は無理だ。手のひらに乗せてみたが、なにか攻撃をしてくる素振りもない。特殊な攻撃もないのだろうか。短剣で翅を切ってみる。すると途端に手の上に他のバッタが降り立ってきて、バッタの塊が出来上がった。思わず俺はそれを手から振り落とした。しばらくするとバッタは再び散り散りに飛び立ったが、俺が翅を切り落としたヤツまでいなくなっていた。

「どこに行った…?」

「食った」

 見ていたマグマがそう言った。

「お前なぁ…いつの間にだよもう」

「違う、あいつらが弱ったヤツを寄って集って食ったんだ」

 共食いか。少しでも弱った個体は栄養補給の食材になるわけだ。

「で、食った奴らは強くなる、ってか?」

「違う。卵を産むんだ。ほら」

 足元にいた一匹が飛び立った。するとその場所に空いた穴からワラワラと何匹ものバッタが顔を出し、順に飛び立っていく。

「成虫が出てきた! しかも何匹も!!」

「すぐ孵るもんだろ。普通だ」

 普通じゃない!

 こいつらめ、だからこんなに増えるのか!

「オザダのほうは大丈夫なのか?! あんなに一気に始末しても更に増えたら大変だぞ!」

 このことを早く知らせてやらないと、もっと面倒なことになるじゃないか。

 しかしマグマは冷静だ。

「あれは即死させてるから平気だ。死んヤツはもう魔力が抜けてるから食わない」

「…なんで知ってるんだお前」

「前におんなじヤツ食ってたら姐さんが教えてくれたんだ」

 マリーが……。さすが400年生きてる竜は知識も豊富なんだな。

 試しにまた一匹捕まえて半分コしてみる。

 すると今度は一匹も寄ってこない。

「瞬殺しろってか……飛んでるのを斬るのも射るのも難しいのに………」

 むしろ踏み潰すとか握り潰すとかのほうが簡単だ。

「燃やすか?」

「うーん、それが一番手っ取り早そうだよなぁ」

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