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洞窟

 焼き鳥を食べたあと少し休み、午後は大きな洞窟に連れて行かれた。

 オザダへ『矢のストックがもう無い』と告げたが、『どのみちここは接近戦だから使えないだろう』と言われた。


 ガララはどうするのかと質問すると『一旦撤収だ』と当然のようにガントレットが吸い込んだ。

「……生き物も大丈夫なのか」

「馬はドラゴンより連れて行けない場所が多いから便利が良いんだ」

「ちょっとこいつでもう一回見せてくれないか」

 俺は横に浮いていたマグマを指さす。

 オザダが左のガントレットをマグマに向け、埋め込まれた青い石をトン、と軽く叩く。石が一瞬黄色く光った。

「取り込めないな。設定されている魔力限界量よりマグマの魔力の方が多いんだ」

「もっとすごい効果が付いたアイテムなら可能になるってこと?」

「これでもこの効果付与はかなりレベルの高いもののはずだ。ドラゴンのように魔力量の多い強い魔物は恐らく無理なんじゃないかな」

 そうか……強いヤツを倒せそうになかった時にこれに入れてしまえば解決出来るかと期待したのだけど。そこまで便利なものは無いか。

「じゃあ、これでもう一回」

 オザダから借りた槍を差し出す。ガントレットがこちらを向き、青い石から同じ色の光が現れ、槍を包んで連れて行った。

「今の槍はここの193番に入れたんだ」

 手首に近い部分には小さな3桁の数字がはめ込まれている。ダイヤルロックのようになっているのだろうか。あ、青かった石が赤に変わっているな。

「これ、もしかして出すときって…」

「入れた番号に数字を合わせて、この石を二回叩く」

「番号忘れたら?」

「そうだな、全部出して確かめるしかないな」

 ……魔力があっても俺には使いこなせそうにない。

「これ、魔力があんまり無かったら人間でもいけるのか?」

「やったことは無いが、人間も大丈夫だと思う。…試すか?」

 使いようを変えれば、命の危険が迫った時にこれに吸い込んでもらえば助かる退避場所にもなるよな……。いや待て。そのまま他のメンバーが全滅したら……。

「……やっぱりいいや」

 後々の事を考えると変な逃げ道を考えない方が良さそうだ。 


 薄暗い中、オザダを先頭にして入っていく。

「ところでここは何が出るんだ?」

「足がたくさんある長い虫だ」

 俺の頭の中に毛が有るのと無いのが浮かんだ。

「……姫が嫌がりそうだな」

「ササの事か? そうだな、彼女は基本的に虫が多い所には寄り付かない」

「フィリーア様が消滅材を持ってたけど、自分では持ってないみたいだったな」

「瓶の形が可愛くないから持ちたくないと言っていた」

「……」

「ここの虫は薬の材料として重宝されている。殺さないで町まで持ち帰ろう」

「了解」

 なるほど、虫なら小さすぎて矢も当たらないからな。

 俺は短剣を一本、利き手に握った。虫獲りなら修行にはならないかな。

「見つけたら瓶か何かに入れて帰るのか?」

「生憎そんな特殊な容器は持っていない。ロープで引っ張っていこうと思っている」

「え?」

 話ながら進んでいると、少し広い空間に出た。そこを中心に何本もの分かれ道が伸びている。

 道は奥の方で別の道と交差しているところもあるようだ。

「移動する音が聞こえれば良いんだが」

 確かに。虫が歩くのに音がしたらそりゃあ見つけやすいもんな。


 どれを進むかオザダが道の一本ずつを眺めて悩んでいると、マグマが右側に伸びる道の一本に反応した。

「こっち、気配がする」

「オザダ、こっちみたい」

 俺が道に入ろうとするとマグマが『待て』と俺を止めた。

「……来るぞ!」

「こいつが来るって言ってるけど」

 呑気に伝達していると僅かに足に振動を感じ始め、何かが迫って来るような音が聞こえ出す。

 まるで、押し寄せる海の波のような…………

「急いで壁側に寄るんだ!」

 オザダが叫び、マグマが俺の服を容赦なく引っ張った。

 勢いで壁に背中を打ち付けられた俺のすぐ横を、黒くて長いものがとてつもないスピードで対角線上の道へ通り過ぎて行った。

「な…に…………虫ってあれのこと?!」

 道の向こうに黒い塊が蠢いているのが見える。ここみたいなスペースがあって、方向転換してるみたいだ。

「今度は食いに来るぞ、気を付けろ」

 オザダが槍を構える。

 またあの音がする。

 触覚を揺らしながら黒い塊が地面を震わせて向かってくる。体はまるで金属の鎧のようにツヤツヤと光っているのに両脇で動き続ける無数の細い足の運びが滑らか過ぎて、そこだけが生き物を主張しているのが異様に見える。

 これはササじゃなくても叫びたくなる。

 迷わず俺の方に進路をとってくる。ああ、可動式の牙か。……えげつないな。

 直ぐに逃げたい衝動を堪え、ギリギリまで迫ってきたところで横の道に体を滑らせる。

 大きく口を広げたまま、俺を喰い損ねた虫は壁に牙を食い込ませた。

「燃やすか?!」

 逆サイドに避けたマグマが叫ぶ。虫の身体が大きすぎてお互いに姿は見えない。

「殺しちゃダメなんだってば!」

「絶妙に弱らせてくれ!」

 オザダが虫の胴体に一突き入れた。

 続いて俺も短剣で切りつけてみる…が、刃が滑ってしまう。表面に傷がうっすら付くくらいだ。

 握りを変えて節の部分を狙って思い切り突きたてたら今度は手ごたえを感じられた。

 しかし剣を抜く前に虫が体を捩り出す。俺の体重と踏ん張りでは太刀打ち出来るはずもなく、されるがままに振り回されてしまう。

 そうしているうちに壁に食い込んでいた牙が外れ、更に虫は大きく暴れる。

 虫に刺している短剣がその度に傷口を広げていく、これはまずいのでは……。

 その時、マグマとオザダが同時に反応した。

「オイ! もう一匹来たぞ!」

「もう一匹来た! ルイス、こっちは任せるぞ!」

「え?! 駄目だけど?!」

 叫んだと同時にすっぽりと剣が抜け、空中に浮く。

 オザダはもう別の虫に向かって走り出している。

「マグマ!」

 虫と目が合った。

 牙がガシガシと開閉し俺を迎え入れる為の準備運動をしている。

 地面に落ちるところを狙って頭が突っ込んでくる。

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