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飛行船乗り

「はー、終わっちゃったねー」

「うん、楽しかったな。シェマも嬉しそうだったし」

「ねー」

 外の風を浴びて、二人の涙も止まったようだ。

 スッキリした顔をしている。

「えっと? 今晩ってどうなんだったっけ?」

 ジェイマーがロディに質問する。辺りはもう暗い。

「暫くは新メンバー探しだ。すぐには見つからないだろうから各自家に戻っても良いし、俺の家で良ければ何泊してもらっても構わないよ」

「あ、んじゃあ俺は帰ろうかな。荷物も有るし。ササよろしくー」

「もーまたかよー…。その後はあたしもお家に帰るよー。フィリーアはー?」

「私は…どうしようかなぁ。帰っても一人だし…」

「ササのお家に来るー? フィリーアなら泊めてあげてもいいよー」

「ほんと? だったらお邪魔しちゃおうかな」

「やったー」

「オザダはどうする? 君も故郷に帰るのかい?」

「俺は……時間があるなら退魔に出たい。ガララを走らせたいし」

「だったらオザダ、悪いけど出発は少し待ってくれないか? ルイスを頼みたい」

「構いませんが…いいか?」

 メルシアに頷き、俺に首を傾げる。俺は頭を下げた。

「おねがいします、師匠」

「あっ、おいルイス、師匠は俺だけだろ?!」

「そんな約束してないけど……じゃあオザダは先生でいい?」

「えっ、あ、ああ、俺はなんでも……」

「では、半月後に王都に集合で良いだろうか」

「おっけーっス」

 ロディの提示に全員が頷いた。


「お世話になりましたー、あ、はい、はい、是非また。はいー失礼しますー」

 レプリカの剣を後ろ手に隠しながらジェイマーが家から出てきた。

「じゃあお兄ちゃんを迎えに行こー」

 王都へ帰る団員達は俺の両親への挨拶を終え、広場でまだしぶとく宴会をしている村人の為にオルガンを奏でているササ兄のもとへ向かって行った。

 そのせいで俺の家の扉は開いたまま……中からエマルダがメルシアを睨んでいる。

「…あたしも行ってくる。あんたらは家に入っててくれ」

 そう言い残し、メルシアはさっさと消えた。

 それを見たエマルダが俺たちに家に入るようにと手招きする。

 俺は深いため息を抑えることが出来なかった。

「…何が始まるんだ?」

「これから家族会議なんだ………ドロドロの」

 オザダを残したのは、いわゆる子守役の為だ。

 祖母の異性問題を孫がいる場所で語り合う図は拒否されると踏んでいたんだろう。俺とオザダを別室に追いやることで、先手を打って断らせる理由を一つ取り除いたのだ。


 壁の向こうが気になって仕方がない。

 昨晩あんなに荒ぶっていたエマルダを含んで大人が4人もいるというのに、今日は物音ひとつしないのだ。

 おかげでこちらも気を使って小声になってしまう。

「睨み合ってるかな」

「どうだろう。俺なら人のいない場所を見続ける」

「メルシアが招集かけたのに何で何も喋らないんだろう」

「分からない」

「……」

「……」

 ………。だめだ、いつの間にこんなに俺の野次馬根性は育ってしまったんだろう。

 ベットに腰掛けていた俺は立ち上がってドアに向かう。

「ど、どこに?」

 慌てたオザダが呼び止める。

「トイレトイレ! 漏れちゃうっ」

 俺はわざと大声で答え、同時にドアノブを回す。

 トイレへの廊下へと曲がる前にチラ、と大人たちの様子を確かめる。全員席についていて、アレクシスとエマルダは俯いている……?

 歩を止めた俺にメルシアが気付いた。マズい。ここで呼ばれて関わったが最後。絶対面倒くさい。そう思って急いでトイレに駆け込んだ。


 しかしあの静けさは一体なんなんだ。あの雰囲気、エマルダ側の劣勢に見えたが…あんなに意気込んでいたのに何か起こったのか…。

 あんまり急を要していなかった用を足し、再びダイニング経由で自室に戻ろうとした時だった。

「…偽物でしょ」

「エマルダ、ちゃんと見て」

「あなたたちならこれくらいの物は作れるわよ。こんなもの、信じられないわ!」

 バン!! とエマルダがテーブルを叩いた拍子に一枚の紙がヒラヒラと舞い、俺の足下で落ちた。これは…写真? 白い…ウエディングドレスか。今日の式のものだろうかと拾い上げてよく見ると、写っているのはシェマ達とは別の新郎新婦…見覚えのある…若き日のメルシアと、ロロック…?

「あんたが信じられなくても事実だ。あんたはあたしとロロックの子だよ」

「嘘!!」

「嘘じゃない」

「パパはそんなこと一度も言ったこと無かったわ!」

 写真をよく見ると…見慣れた男性が二人を祝っているようだ。今もダイニングの食器棚の上には、幼少期のエマルダと一緒にこの男性が写っている写真が立てかけてある。

「ルイス」

 アレクシスが俺に気付き部屋に戻れと追い払う手ぶりをしている。

 俺はその手に写真を預け、急いで部屋に入る。扉を、少しだけ開けたままにして。

「文句は後から幾らでも聞くから。今はまず聞いて」

「俺が話す。軽率だったのは俺なんだから」

「ロロック……分かったよ。お願い」

「ブラウンとは旅の途中で出会った」

 ロロックが静かに語り出した。


 —————

 —————————

 —————


 俺たちは魔物の発生数が多くなっていた列島の対応の為に飛行船を貸し切った。そこで働いていたのがブラウンだった。彼は船長の片腕として経験を積んでいて、休憩時間に酒を飲みかわす度に『近いうちに独立したいんだ』と語っていた。結婚したばかりの相手が本土で待っている、もうすぐ子供が生まれるのだ、と。

 俺は彼を羨ましく思っていた。飛行中は会えずとも、陸に戻れば愛する家族が待っている家があることを。メルシアはその当時も退魔の仕事に誇りを持っていて、俺と結婚したとしても家で待っている毎日なんて御免だ、と常に言っていたしね。


 島の魔物の討伐を続けて数か月した頃、メルシアのお腹が大きくなってきていることに気づいた。そこで新しい命が授かったことを知ったんだ。俺は嬉しかった。すぐに旅を中断することも考えたがまだ仕事は途中だったし、大丈夫だという彼女の言葉に俺は甘えてしまった。でも彼女はずっと一人で悩んでいたようだった。自分が団から抜ければ戦力はガタ落ちする、今は抜けられない、と。今思い返すと随分無理を押して戦いに向かっていたんだと思うよ。

 ……写真は、その頃に船の中で撮ったものだ。降りた島でグレイス達がドレスを買ってきて、着ないともったいないからと強引に着せられたのにメルシアはとても美しくて。空の上での結婚式は楽しかったよ。ブラウンも自分の事のように喜んでくれていた。


 それから少したある日、別の飛空艇が知らせを持ってきた。ある町が魔物の襲撃に遭って潰された、と。その町はブラウンの家族が待つ町だった。俺たちも船長も、誰も町へ向かうことに否定的な者はいなかった。町は……知らせの通り壊滅状態だった。先に入っていた国の部隊と、ごく僅かに生き残った町人とで遺体を教会の跡地へ安置している最中だった。ブラウンが教会の敷地になかなか入ることが出来なかったのを見ているだけで、とても辛かった。


 葬儀を行い、埋葬して、国からの派遣者たちと協力して破壊された町の復興を進めていく中で、メルシアが体調を崩した。身重の身体で魔物の偵察に出たり、転送魔法を多用して物資や人手を輸送していたのが負担になったんだと思う。彼女は寝込み、お腹の子どもも心配された。俺たちが王都へ戻ろうかと話しているとき、ちょうど偵察部隊によって魔物が発見された。この町を襲った奴だった。メルシアは倒してきて欲しいと俺に言ったが、俺はメルシアを優先したかった。すぐに魔物が他の集落に向かって移動しているという追加連絡が入り、ブラウンが自分が『彼女に付いているから魔物を止めて来て欲しい』と泣いた。俺は断れなかった。


 退魔団は魔物討伐に向かい、集落は半壊させてしまったが被害者は出ずに済んだ。

 町に戻ってきた時、俺を出迎えてくれたメルシアは女の赤ちゃんを抱いていた。

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