純白と涙
「ドラゴンの半分が……入った?」
「ああ、俺の甕の中にドバーッって。それからこいつの喋ってることが聞こえるようになってさ」
「はぁ………。ルイスは色々なことが起こるんだな」
「俺もそう思う。この人生はいつもより問題が多い気がする」
陽の当たる草原にガララでやって来た。馬の上も高くてバランスを保つのが大変だが、オザダの愛馬というだけで信頼出来た。
飛んでいる蜂を追いかけて遊ぶマグマ。小さな火の玉を吐いて当てようとするが、中々仕留められない。
「マグマも空を飛ばないで陸を走ったら危険度が減るよな…なあ、翼切ろうか」
「は?! ふざけんな燃やすぞ!」
「……今は何と言ったんだ?」
「燃やすって」
「っ………」
オザダは『あいつの文句が聞こえたらもう乗れないだろうな……』と草を食んでいるガララを寂しそうに見つめた。
オザダも手伝ってくれたおかげで目的の花はすぐに揃い、家に戻ってからの仕上げも完了した。
広場にはもう人が集まっているらしい。
ジェイマー達も戻って来ていて、『もうみんな会場で待ってるぞ』と呼びに来たジェイマーが俺の部屋の隅っこにレプリカの剣を隠して行った。
メルシアもロディも戻っているらしい。ロロックは、一度山へ戻ることにしたようだ。
「先に行ってて。俺はこれを渡してからにする」
「わかった」
オザダをジェイマーとともに行かせ、ハーリー家の玄関をノックする。
「俺は姉さんの所に行くよ。一人じゃ可哀想だし」
そういってマグマは竜舎に入っていった。
「お、ルイスか」
扉を開けたのはアレクシスだった。
「ほら見ろよルイス。びっくりするだろ? ダリアパパがカッコいいんだ」
「わかってるさ、俺だって同じことを思ってる」
確かに白いタキシードのハーリーはいつもの仕事着姿とは違って見た目も雰囲気もスマートに見える。本人はとても居心地が悪そうだが。
ハーリーの後ろにシェマがいる。メルシアが調達してきた真っ白なビスチェのドレスはシェマによく似合うタイトなシルエットで、長いレースのベールに刺繍されたクリスタルのビーズが室内でもキラキラと輝いている。
「ルイス」
「おめでとうシェマ。凄く綺麗だよ」
「ありがとう」
地面につきそうなベールは後ろでダリアがギュウっと握っている。
フワフワの白いドレスが可愛らしい。
「ダリア、頑張って」
「うん!」
俺に一瞬だけ満面の笑顔を見せ、ダリアは自分の役目を果たそうとすぐに握った手に集中する。
手元しか見てなくて危なっかしいな。
「もうすぐだからルイスも広場に行ってて大丈夫よ…何持ってるの?」
エマルダがダリアの前髪を直しながら俺を見た。
「これ、あった方が良いかと思って」
俺は完成したばかりのブーケを差し出して見せた。
「まあ綺麗ね! そうだったわ、ブーケの準備はすっかり忘れてたわね」
「ダリア、お前とおんなじ名前の花が入ってるぞ」
「え? どれ?」
「ダリアちゃんみたいに可愛いこの花よ」
白のダリアを主役にして、近くで咲いていた見栄えのする花や、うちの庭に咲いていたバラも拝借して混ぜてある。この結婚式に合う花がちょうど咲いている時期だったから思いついたんだ。
「どうしたんだこれ。まさかお前が作ったんじゃないよな?」
「え?」
アレクシスが関心しつつ、素朴な疑問を投げかけてきた。
俺が作ったんだけど……あー…作れたら変なんだったっけ。
えーと……
「ひょっとして、みんなで作ってくれたの? ありがとう…本当に素敵だわ」
感動しているシェマの肩にハーリーが手を添える。
「いい仲間に恵まれたな」
「…ええ」
慌ててエマルダがハンカチでシェマの目元を抑えた。
良かった。掘り下げられないで済んだ。
「…じゃあ僕、先に行くね」
広場にはオルガンが一台運び込まれていて、見たことがない人が軽やかな曲を弾いていた。
「ロディが連れてきたの」
「ササのお兄ちゃんなんだよー」
「えっ、そうなの?」
そういえば首元や袖の辺りがヒラヒラしている。
広場入口でメルシアが合図を送ると、ササ兄が曲調をガラリと変えて一気に厳かな雰囲気に包まれる。
ゆっくり歩く新郎に手を取られて姿を見せた新婦の姿に一同が息を呑んだのを感じた。
神父が太陽と大地の神へ感謝の言葉を連ね、神の代理として二人の結婚を喜び、励まし、参列者とともに幸福を祈る。
式は淡々と進み、神父の仕事が終わってステージから降りる。
それと同時に列席者たちの前に料理が並べられて……と言っても自分たちで運ぶのだが。
昨日仕留めた野牛はステーキ、獅子は煮込みとなって村人たちが珍しがって喜び、村で取れた野菜や卵は絶品のキッシュとして提供され、退魔団がこぞってそれに群がった。
そしてジェイマー達が持ってきたケーキで子供たちははしゃぎ、ロディが差し入れた樽のワインとササ兄の演奏に大人たちが躍った。
昼に始まった結婚式は夕日が沈みかけるまで続いた。
「さすがに食べ過ぎたかも」
フィリーア様がお腹をポンポンと叩いた。
「シェマー、おつかれー」
「ええ、みんなもお疲れ様。本当に今日は幸せだったわ」
退魔団の全員がシェマの部屋に集まっていた。
「良い村に嫁げて良かったな」
「食べ物美味いし人も朗らかだしなー」
「君が抜けることに反対してすまなかったね。今は祝福の言葉しか思い浮かばないよ」
「ありがとうございます…」
シェマが微笑み、涙がこぼれる。
………。
ふと会話が途切れると、誰も何も言えなくなる。
別れの時間だ。
メルシアがシェマを抱いた。
「お前なら大丈夫だ」
「ありがとうございます」
ササがシェマに抱きついた。
「元気でねー」
「ササも」
フィリーア様がシェマの両手をとり、自分の胸元に抱く。
「これからも友達だよね」
「当然よ」
ジェイマーが手の平を見せる。シェマがパチンと叩く。
「お前とのコンビ、気に入ってたぜ」
「私もよ」
オザダが右手を差し出す。シェマが両手でしっかり握る。
「……」
「無理しないでね」
ロディが前に立つ。シェマが頭を下げる。
「もし幸せに暮らしていないと聞きつけたら迎えに来るよ」
「どうぞ。あり得ませんけど」
二人は笑って握手を交わした。
「ほら、お前もだ」
「え」
遠巻きに見ていた俺の事をメルシアが引っ張る。
「い、いいよ俺は……」
みんなの別れを邪魔してはいけないと小声で拒否する。
「ルイス」
やり取りがシェマに気付かれて名前を呼ばれてしまった。
仕方なくシェマの元に行く。
「俺はいいでしょ。ご近所さんになるんだし」
「それはそれ」
そう言って俺を抱き寄せた。
「頑張って」
「シェマも」
「……では行こうか」
俺達が離れたのを見計らってロディが退室を促す。
「あんたはここで。キリがないからね」
「……はい」
メルシアが外まで見送ろうとするシェマを部屋の中へ留める。
名残惜しさを堪えながらお互いに手を振り合い、俺たちは部屋を後にした。
部屋を出たところに、すでに着替え終わったハーリーとダリアが立っていた。
「お待たせ、ダリア」
「……うん」
大人たちが泣いているので部屋に入りたくても入れなかったんだろう。
「色々準備してもらってありがとうございました」
ハーリーがメルシアに握手を求める。メルシアはそれを無視してハーリーの首に腕を回し、背中を2回叩いた。
「あの子をよろしくな」
「もちろんです」
ハーリーもメルシアの背中をポンポンと叩いた。




