念願の
「さあどうぞ、狭いですけど自由にしてください」
「ありがとうございます」
「お邪魔しますー」
オザダとジェイマーが勧められるままに家に向かう……ところを後ろから目いっぱい引っぱって止める。
振り返った二人に耳を寄こせと手招きして、我が家の注意事項を迅速に伝える。
「メルシアとロロックの話題は絶対にしちゃ駄目だからな!」
「そんなにー?」
ジェイマーが訝しむ。
「軽く考えないでくれ。ほんとに危険だから。頼む」
「んー、了解」
「わかった」
「ありがとう、あ、あと俺は5歳だからそれもな」
「はいはーい」
行方不明騒ぎのせいで全員が食事をとり損ねていたため、エマルダが短時間で出来る料理をこしらえる。
「ごめんなさいね、もっとちゃんとしたものをお出ししたいんだけど」
出来上がった順に食卓に並ぶ久しぶりの母の手料理の匂いに空腹感が倍増する。
「いやいや、スゲー美味いっスよ」
ジェイマーが野菜と兎の炒め物を掻き込む。
「ルイスの料理が美味いのはお母さま譲りなんスね~」
「そう? あ、じゃあ、朝の残りだけどエッグパイも有るの。良かったら食べて」
「やった、俺好きなんスよ!」
場の雰囲気を読むことに長けた男が頼もしい。
ジェイマーがエマルダの相手をしてくれているおかげで、今日はもう何も喋らなくても良さそうだ。
「貴方も遠慮しないでね」
「ぁっ?! あ、ありがとうございます…美味しくいただいて、ます」
オザダがびくつきながらなんとか受け答え出来たが…やっぱり少し怪しまれている。
「ありがとう。…あなた、もう少しスープ入れましょうか。ルイスは?」
「ああ、お願い」
「僕は大丈夫」
気付いたらオザダが俺の方を見ていた。
「……? どうかした?」
コッソリと聞いてみる。
「…お母さん綺麗な人だな」
「……」
こっそりと返された。
「おかあさん、綺麗だって」
調理台に向かっているエマルダの背中にはっきり伝える。
「!」
びっくりしたオザダが持っていたパイをスープの中に落とした。
「あらあら、そんなお世辞言わなくても大丈夫よー」
「あっ、いえ、あの…本当に思っただけで………」
「そりゃそうさ。エマルダほど素敵な奥さんはいないよ」
アレクシスは得意げに笑った。『人の妻に何を!』とはならないんだな。エマルダがこの程度の台詞に靡く性格なら焦るだろうけど。
夜は更け、心配していたようなピリつく時間も無いまま就寝時間となった。
客人の二人は二階の客室で休んでもらい、俺は自室で布団をかぶっている。…が、眠れない。
向こうの部屋ではエマルダの苛立ちが復活していたのだ。
「いい歳してまだあの浮気相手と繋がってるなんて」
「ロロック様は退魔団で一緒だったんだし、なにかそっちの話なんじゃないか?」
「そんなわけないじゃない! 二人のあの雰囲気感じなかったの? 嫌だわ、本当に恥ずかしい。そう思うでしょ?!」
「ん? うん、まぁ、そうだな…」
「明日何を言い出すのかしら。どうせ碌な事じゃないのよ」
「まぁ……そうかぁ、そうだなぁ、うん」
「シェマさんは団を抜けて正解よね。あんな人と一緒に旅してたって良い事なんかあるはずないもの。今までも面倒ごとを散々押し付けられてたに決まってるわ。その分この村で幸せになって欲しいわよね」
「うん、俺もそう思うよ」
「困ったのはルイスよ。やっぱりあの人から離した方が良いんじゃないかしら。さっきだって無理やり連れまわされて…かわいそうよ。」
「それもなぁ、そうだよなぁ」
「そうよね、うん、決めたわ。あの人が何の用かは知らないけど、ルイスは別の人にお願いするって言うわ。良いわよね?」
「……ん? ああ。当然だよ」
「そうと決まったら何だか一気に疲れが出たわ。もう寝ましょう。先に行くわね」
「ああ、おやすみ」
階段を上る軽い足音。そして、
「ふぅ~……」
という長い溜息。途中から飽きてきて内容を聞いていなかったっぽいアレクシスだが、最後までよく頑張った。褒めてあげたい。
ガチャ。
ん? 玄関を開ける音? アレクシスか?
部屋の窓から外を覗くと、やはりアレクシスが家を出たところだった。
キョロキョロと辺りを警戒する。
今まで気づかなかったがうちの父は不審者なのか?
まさかどこかの家に忍び込むとか…
あ、足がお向かいさんへ向かっている………
これは、まさか……
ああ、アレクシスが………
なんてこと………
………。
次の日の早朝、今度はアレクシスが行方不明だと家の中が一瞬騒がしくなったが、ダリアがマリーとマグマに挟まれて寝ていたアレクシスに驚いて泣き叫び、すぐに解決した。
「私たちは新郎新婦とダリアちゃんの支度に行くから、ルイスはみなさんと一緒にいてね。…あの人が来ても付いて行っちゃだめよ」
まるでメルシアが犯罪者のような扱いだが、ここは当然大人しく頷く。
エマルダ達がハーリー家へ入っていくのを見送って、道の真ん中で昼までの暇な時間について話し合う。ここからの細かいセッティングは村人たちが手分けして行うらしく、人手は足りているのだ。
「俺たちはどーする? 出来れば俺は一回家に戻りたいんだけど」
「えー? あたしに飛べって言ってるのー?」
ジェイマーの要望にササが渋る。
「あ、もしかして昨日言ってた聖剣のレプリカ?」
「そう! 頼むよササ、転送の本一冊俺が買うから」
『お金の問題じゃないんだけどー』と乗り気ではないササ。
「私もジェイマーの家に行ってみたいわ。もっと勇者のグッズありそうじゃない?」
「おう、当然だろ。そうだ、近くに結構有名な菓子店があるからケーキでも買ってきて式に提供しようぜ」
その言葉にササが反応する。
「そういうことなら良いけどー」
さすがジェイマー。人の弱いところをしっかり衝いてくる。
「よっし! オザダもルイスも良いか?」
「俺は……構わないが」
「俺、ちょっとまだやることあるから別行動したいんだけど」
「そうなのか? けどお母さまに俺らと一緒じゃないって知られたらマズくないか?」
ジェイマーとオザダが微妙な顔をする。昨夜の声は客室まで届いていたみたいだ。
ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。
「それなら俺がルイスと残る。それで良いか?」
気を利かせたオザダがすぐに残留を申し出てくれた。
「ありがとうオザダ」
「構わない」
「わかった、じゃあ式までには戻るから」
ササの転送で三人がジェイマーの故郷へ飛び、道の真ん中には俺とオザダだけが残った。
「ようルイス」
さっきまでマリーと一緒に竜舎に寝ていたマグマが寄ってきた。
「……『よう』じゃなくて、『おはよう』と言え」
「なんだよいきなり。今までそんなこと言わなかっただろ?」
「今まで聞こえてなかったから知らないよ。今後は気を付けろ。俺は飼い主だぞ」
「は~? 飼い主? ダチなんだから『対等』だろ?」
「対等だって? どこでそんな言葉覚えたんだ」
「マリー姉さんに決まってるだろ。なあ、姉さん」
「ガゥルル」
「ほら」
ほら、ってか。そっちは聞こえないんだっての。それにしても……マリーもこんな口調なんだろうか。イメージが崩れる………。
「まぁいいや。マグマ、念のためにお前もちょっと来い」
「どこか行くのか? 朝飯か?」
「お前が食えるものがいるかは分からない。草原に花を採りに行く」
「また花かよ。虫くらいは食えるか」
「……すまないルイス、ちょっと良いか」
「あ、やっと?」
今まで黙って俺とマグマを見ていたオザダが口を開いた。もう少し早めに指摘が入ると思ったが、かなり考えたんだろうな。
「今、会話をしていたか?」
「してる気がしてる」
「!! 出来るのか?!」
「なんかな、そうなったんだ」




