一緒に行こうよ
「なんだよルイス、へばってんのか」
「……」
「な…なんか言えよオイ」
「……」
俺を見ている。
なのに……何で……。
「あいつに…マグマに入ってんのか? だからお前の魔力が足りなくなってそうなってるんだろ?」
このまま閉じてしまうんじゃないかっていうくらい、ゆっくりと瞬きをする。
それは、返事なのか?
「戻せよ! そしたらお前と一緒に行けるんだろ? 元のバカなお前に戻るんだろ?!」
……。
じっと見るなよ。
返事しろよ……。
「俺のこと、待ってたんだろ? 一緒に行きたいんじゃないのかよ…ルイス……」
ガサ……
体の下に敷いている藁が擦れた音がした。
「ルイス……」
頭を起こしたルイスが鼻先を擦り付けてくる。
「そうだろ? いいよ、ルイス。一緒に行こう…………っ?」
撫でてやろうと伸ばした両手が、それに触れられずに行き場を失う。
「おい……?」
俺を拒んだルイスは、俺に向かって口を開いた。
それと同時にルイスの全身が淡く光り……徐々に透けていく。
「おい、何やってるんだ? なあっ…」
喉の奥に光の塊が出来ている。
俺にも分かる。
あれは、ルイスの魔力の塊……。
「ガオォウォオオォオオオオォ!!!」
咆哮と共に光の塊が俺に向かって放たれた。
眩しくて何も見えない。
耐えきれなくて目を閉じて、でもなんとか直ぐに開けたのに。
ルイスの声は消え、ルイスの姿は消え……。
光だけが、俺の中に入ってきた。
駆け巡る。
ルイスを感じる魔力が体中に一気に拡散し、一点に向かって集まる。
蓋が、開いていた。
魔力はまるで滝のように甕に流れ込む。
グレイスの甕が、魔力の海に持ちあげられて浮遊する。
「一緒って、そういう意味じゃないって……。バカ」
そしてまた、ゆっくりと蓋が閉じられた。
「君に力を分けるために今まで頑張っていたんだろう」
膝をついて動けなくなった俺に、ロロックは優しく寄り添ってくれた。
「彼は最後まで自分を通した。彼らしいじゃないか」
「……ああ、そうだな」
結局アイツには敵わない。
「もう行くのかい?」
「ああ、明日は仲間の結婚式があるんだ」
あー…久しぶりに泣いたなぁ。
なんだろうな、そんなにアイツのことを大好きだったとかでもないのにな。
そうだ、アイツが悪いんだ。俺はただそういう雰囲気に持って行かれただけだ。
別に悲しいことなんてないんだ。アイツは俺の中に入ったし、マグマになってるし。
『けどあの時の人生はあの時だけだろう』
ロロックの言葉を思い出した。
気付かないうちに慣れていたのかもしれない。
死んでもすぐに生まれ変わって次の人生が始まることに。
考えないようにしていたのかもしれない。
自分がいなくなっても、その後も日々は流れていくことを。
自分の人生は自分だけの人生ではない。
俺とルイスは、
俺とルイスだったんだ。
「これからどうするつもりだ? ここに居続ける理由はなくなっただろう?」
空になった竜舎の前でロロックの持った灯り一つで立ち話をする。
今すぐに明るい家の中に入るような気分にはなれない俺の気分を読んでくれているのはすぐに分かった。
「…そうだな。でも俺には帰る場所は無いし、ここの生活も悪くないと思ってるから」
草の匂いのする風が吹き抜けていく。
「アレがいるといないとじゃ全く違うだろう」
ただでさえ静かな場所だ。ルイスがいなくなり、独りきりで過ごすには寂しすぎる。
「…なぁ、一緒に来ないか」
「え?」
「ロロック、また一緒に行かないか? 旅に出るのが嫌なら村に住めばいい。それも嫌なら、あたしがここで一緒に暮らすのでもいい」
メルシアの申し出に、ロロックはあっけに取られている。
「メルシア、その話は…」
「あの子にもちゃんと話す。わかってくれなくても隠しているよりは良い。今日はそのために来たの」
「けど……。」
「人生もう半分来てるんだよ。いい加減、連れ合いと心に決めたあんたと一緒に生きたいんだ」
連れ合い……二人はそういう関係だったのか。
ああ、それでエマルダが怒ってると。
「……不倫じゃないからね」
考えていただけなのにメルシアが即座に否定してきた。
「エマルダにとっては不倫と変わらないよ。彼女にとっての父親はブラウンなんだから」
「だからそれをっ…」
「リュゼ村に連れていってもらえるか?」
「…ロロック」
「君に任せていたら君だけが悪者になってしまいそうだ。俺も一緒にエマルダに会うよ。」
「ルイス!」
地に足が付いたと同時に名前を呼ばれる。
飛んだ時と同じ、家の裏だった。
「おかあさん……ぅわ?!」
エマルダが、まるで悪い奴らから奪い返すみたいに俺を抱き寄せた。
「勝手にこの子を連れまわさないで!!」
「……ルイスをあたしに預けたのはあんたたちだろう」
「そっ……それと勝手に居なくなるのは別よ! それに何なのよその人っ…なんで今更連れて来てるのよ!」
「あ…久しぶりだね、エマルダ」
「気安く呼ばないで!」
「ッ……ごめん」
殺気立ったエマルダの声が鼓膜に響く。ロロックも真正面から受けて怯んでいる。
「エマルダいたのか?! …メルシア様? それに……」
声を聞きつけてアレクシスが駆け付けた。
沈黙が流れ、遠くで俺の名前を呼んでいる誰かの声が聞こえた。
「……行きましょう、みんなに見つかったことを伝えなくちゃ」
俺は強引に手を引かれ、その場から離れるように促される。
「あ、でもおばあちゃんが……」
「いいから」
「エマルダ」
メルシアはその場から動かずにエマルダを呼び止めた。
エマルダは足を止めるが振り返りはしない。
「式が終わって落ち着いたら話がある。聞いてほしい」
「……行くわよ、ルイス」
応えることなくエマルダは再び俺を曳いて歩き出し、背後でアレクシスが残された二人に向かって頭を下げた。
「ルイス!」
……は?
「どこに行ってたんだよ俺を置いて! 酷いじゃないか!!」
えーと……
ん?
どうなってるんだっけこれは。
ここにいるのは俺と、エマルダと、アレクシスと……
俺を見つけて飛んできたマグマ……だけだよな?




