お花を摘みに
「姫、もう少し早く歩けないの?」
「えー無理だと思うー」
子供の俺の足よりも遅いササの歩行速度…この人ホントに退魔団で活躍してる人なのか?
「ササはいつも何かに乗ってるから」
対してフィリーア様はサクサクと進んでいく。
メルシア用に買った弓矢はフィリーア様に渡り、今持ち歩いている。
『自動で標的に飛んでいく弓矢なんて面白くもなんともない』だそうで。
効果を発動できない俺からすれば、楽して当たるなら良いじゃないかと思うけど。
フィリーア様が使うには魔力消費が大きすぎるから、使いやすそうなら【消費魔力減】を追加で付けるらしい。
【減】と言わず、どうにかして【不要】にしてもらえないんだろうか。
「『姫』ってホントにササちゃんに合ってるよね。私もこれから『姫』って呼ぼうかな」
「良いよー。どんどん呼んでー」
「そう? じゃあそうするね」
ササの魔法の杖は移動中は完全に歩行を補助する為の杖になっている。
見た目と声は若いが、坂道を上る姿勢はまるで姫というより老婆のシルエットだ。
「ねー、マグマに乗っちゃだめー?」
「すぐ落っことされても良いならどうぞ」
「えー?」
「ガウガウ」
マグマがその気になってササに背中を向けた…が、細い背を乗り心地を確認するようにペチペチ叩かれて結局『やっぱりやめるー』と言われてしまった。
「ギャウゥ」
しつこく乗せたがるマグマ。
「えぇー、絶対落ちるよー。汚れるのやだー」
逃げるササは少しだけ歩くのが早くなった。
「神様、その橋は渡らずに道なりです」
「…あの、ルイスくん、私のその呼び方は変えてもらえないかなぁ? 私どこにも神要素無いしさ」
「え? そんなことないですよ。貴方はこんな素晴らしいものを作った方なんですから。創造の神ですよ」
横を歩いていたマグマを示すと、フィリーア様は立ち止まってマグマに顔を近づけた。
「あ、コレ! どこかで見たことあると思ったら私が作った魔力保存のネックレスじゃない! どうしてマグマが付けてるの?」
目的地までの道中、俺はマグマの食欲と魔力消費の暴走について説明した。
「そういえば朝にモゴモゴしてるな~とは思ってたのよ。マグマは食事をする珍しいドラゴンなのね」
「ギャウ。」
丁度果物の生っている木があったので、実際にマグマが食べるところを見せたらすんなりと受け入れてもらえた。
「そっかー。フィリーアはルイス君を救った女神様なんだねー」
「もともとは人間用に作ったのに誰も付けてくれなくて…けど役に立つところが見つかって良かったわ」
「神は武器も防具も作られるんですよね?」
「そうね、まぁ大体の物は……………ねぇ、やっぱり普通に呼んでくれない? 私だけ恭しくされるのは気まずいわ」
そんな…敬意を込めていただけなのに…。でも仕方ない、フィリーア様が嫌がることをしたいわけじゃない。
「…わかったよ、フィリーア。これでいい?」
フィリーア様は『よくできました』と俺の頭を撫でた。
「あ。ごめんなさい、つい子供扱いしちゃうわ」
「わかるー。ルイス君可愛いもんねー」
「それはどうも。両親とおばあちゃんが喜びます」
『おばあちゃんて』と二人が揃ってケラケラと笑った。
「で、なんだっけ? 装備? 結構色んな材質の物を扱う方だと思うよ。なにか作ろうか?」
「剣か槍が欲しいんだ。オザダに稽古つけてもらおうと思って」
「なるほど。じゃあ後で打合せしましょ…」
「ぃやーッ!」
突然ササが大声を上げた。
「なに?!」
「むーしー! ほーらー! 毛が生えたヤツがいるのー!」
指さしたササの目の前の木の枝にはモゾモゾと歩みを進める派手な色の毛虫が一匹、二匹、三匹…多いな。
よく見ると近くの木にも複数の毛虫がうごめいていた。
「フィリーアー! はやくー!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
フィリーア様が肩に掛けていたバッグに手を突っ込んで中をごそごそ探り、一つの小瓶を取り出した。
液体の入った瓶にはポンプとノズルが付いた栓がしてある。
「それは?」
「虫型の魔物に特化した消滅剤よ」
フィリーア様は木に近づくと、ノズルを毛虫に向け、ポンプを押した。
中の液体が霧状に放出され、毛虫に降り注ぐ。
すると、みるみるうちに霧を浴びた虫だけが消えて無くなった。
「なにコレ! すごい!」
「姫が虫嫌いでどこに行っても虫がいると騒いで煩いから頑張って作ったの。死骸が残らないようにするの大変だったのよ」
目に見える範囲の毛虫へ次々と噴霧していく。近くを歩いていた蟻が巻き添えをくらって消えていった。
「虫の魔物にだけ効くのか?」
「そうよ…とは言えないの。『虫型の魔物』って私たちは言うけど、括りとしては虫も人も『魔力を持った物』。『虫とは』っていう定義が私には難しくって付けられなかったわ」
「じゃあこの液体を人に掛けたら…?」
「それは何ともないから大丈夫。【消滅】の発動条件に『足が5本以上』っていうのを付けているから」
「だからタコとかイカも消えちゃうんだよー」
さっきまでの慌てぶりはどこへ行ったのか、目の前の障害物が消えたササは楽しそうに木の枝を潜っていった。
「姫、先に行くならこの瓶持って行ったら?」
フィリーア様が瓶を差し伸べるが、ササはクルリと振り返って、更にクルクルと回り出した。
「殺すの可哀想だからいやー。はやく来てー」
先陣を切るつもりは毛頭なく、毛虫のいそうな木から遠ざかりたかっただけらしい。
「その薬……消滅材? って他の魔物への応用したりとかも?」
「いろいろ作ってみたわ。『鱗がある』とか『牙がある』とか『体調が3メートル以上ある』とか。でも色々試していくうちに種類が多くなりすぎちゃって、今は一番需要のあるコレだけしか残してないの」
「便利そうなのに」
「だって、魔物と遭遇した時に『どの特徴があるかしら~?』って観察して薬を探して選んでる間にみんなが倒しちゃうのよ」
「フィリーアはお片付け出来ないコだからー、あんまり沢山のアイテムを持たせちゃうと大変なんだよー」
ササがフィリーア様のカバンの蓋をペロンとめくって見せた。
中は……よくさっきの小瓶があの短時間で出せたな、という感じだった。
「ここだよ」
「たくさん咲いているわね。良い香りがするわ」
山肌に群生するユリの花が甘い香りを放っている。
「全部とるー?」
「終わりかけは要らないよ。あとこれ」
俺は持ってきた花バサミと一緒に小ぶりなハサミを二人に手渡した。
「なんでふたつー?」
「この小っちゃい方で雄しべと雌しべを取っちゃって欲しいんだ。綺麗なまま持って帰れるし、長持ちするから」
「へぇ……詳しいのね。花が好きなの?」
「まぁ、昔ね」




