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「ハルクデリウムに行く」


 朝食は一つのテーブルを囲んだ。

 ジェイマーが恨み節を吐き出せない程に憔悴していたのでなるべく離れた席に座った。

 結局シェマが抜ける日をいつにするかは昨夜の段階ではまだ保留となっていたようだ。

 一刻も早くリュゼ村に戻りたいシェマがロディに責付き、悩んだ末にロディが王都行きを言い出した。

「王都に行くのー? 私も行きたいー」

 ヒラヒラの人がまだ眠そうな声でロディに賛同する。……しまった、この人にまだ挨拶していない。食事を終えたら話しかけよう。

「組合に行って良い竜騎士が居ないか問い合わせてみるよ。メルシアさん、同行してもらえるかな?」

 グラスに入った炭酸水を一気に飲み干し、メルシアが不機嫌に答える。

「後釜が見つかるまではシェマを手放さない気かい?そういう保険を掛けたがるのは好きじゃないね」

「でも戦力が減れば扱える魔物が限られてしまいますよ」

「言った意味が分からなかったのかい? あたしは補充に反対してるんじゃないよ」

 ロディの表情が曇る。

「王都には飛ばしてやってもいい。けどあたしはシェマとリュゼに戻るよ。ルイス、あんたも一緒だからね」

「別行動……ですか?」

 フィリーア様が不安な顔をしていらっしゃる…。

「シェマの旦那になるハーリーはあたしの弟みたいなもんなんだよ。結婚式くらい出たいじゃないか」

「結婚式ー? いいなぁー。あたしも見たいー」

「シェマの結婚式なら私も参加したいです」

「俺も!」

 次々とメルシアに付いていく団員達。

「オザダはどうする?」

 出遅れたオザダがメルシアに声を掛けられてオロオロしている……ようには見えないが、多分内心狼狽えていることだろう。

 劣勢のロディがオザダを見ている。オザダもそれに気づき、無視できなかったのか口を開く。

「俺は……ハ…」

 …が、言いきる前に俺が遮る。

「オザダ、昨日リュゼ村を見てみたいって言ってたよな?」

 口を開いたまま俺を見つめて固まったオザダだったが、『な?』と後押しするとどうにか頷いた。

「…あ……ああ、そうだった、か」

「これであんた以外はリュゼ行きだよ?」

 孤立したロディにメルシアが追い打ちをかける。

 少し可哀想だが、多分ここまでしないとわからない人なんだろう。

 ロディが挙動不審気味に、うっすら笑いながら言いきった。

「……仕方ないな…結婚式という大事なイベントに俺が参列しないわけにはいかないじゃないか」

 こうして俺は旅立ってたった10日で家に帰ることになった。


「あの、ちょっといい?」

「んー?」

 みんなが食事を終えて部屋に戻っても、まだ半分くらいしか食べ終えていないヒラヒラの人。

 食べ終わるまで待ちきれなくて声を掛けた。

「昨日から挨拶出来てなくてごめんなさい。ルイスです。これからよろしく」

「んー、別にいーよー。バタバタだったもんねー」

 ヒラヒラの人は手をヒラヒラさせて笑った。

「あたしは魔法使いのササだよー。殺すのとか汚れるのとか好きじゃなくて後ろの方にいるから回復とかはまかせてねー」

「わかった。ササって呼び捨てで呼んで良い?」

「んー……えっとねー」

 ん? ここで考え込むのか? 

「ルイス君、昨日フィリーアのこと『神様』って呼んでたでしょー?」

「あ、ああ」

「そういうのがいいなー。あたしあんまり自分の名前好きじゃないのよー。せっかくだから可愛い呼び方してほしいなー」

「……そうなのか。他のみんなからは何て呼ばれてるんだ?」

「ササだよー」

 ……。俺だけ別の名前で呼ばせるつもりなのか。

「あたしのことも神様って呼ぶー?」

「神様はフィリーア様のことだから」

「じゃあ何様ー?」

「…ササ様?」

「かわいくなーいー」

「お姉様?」

「キャラじゃなーいー」

「魔女様?」

「こわそー」

 ササはプルプルと頭を左右に振る。その度に耳の下までの長さのふわふわの髪の毛が更に広がってしぼんでを繰り返す。

「可愛いのって言ってるのにー」

「そう言われても様が付く可愛いものなんて分からないし……」

 そう言い合っているうちに、俺は昔どこかでこんなやり取りをしたような気がして記憶をよみがえらせる。


『可愛いお洋服が着たいの~! 可愛い髪飾りも欲しい~!』

『そんなに着飾ってどうするの? シルビーはお姫様にでもなるつもりなのかしら?』

『シルビーはお姫様になるのよ〜。キラキラでフワフワなの~』


「お姫様……」

 可愛いものが好きで、綺麗なドレスを着た女性をキラキラした目で追っていた。俺……私のシルビー。私のお姫様……。

「お姫、様?」

 首を振っていたササがピタリと止まった。

「あ、えっと……」

「姫がいいー。姫って呼んでー」

「……姫」

「はーいー。えっへへー」

 姫は大層お喜びだな。

 昔産んだ娘の小さい頃とイメージが重なったササ。

 そういえば娘も食事に時間がかかる子だった……。



「おばあちゃん!」

 姫はまだ食事中のため、メルシアは部屋に一人だった。

「…ん?」

 呼びかけただけでギリ、と睨まれる。

「これから家に帰るんだから呼び慣れておかないと。両親の前でメルシアとは呼べないでしょ」

「…仕方ないか。それで?」

「今から帰るのに何なんだけど、これ、預かってきた貢物」

 昨日渡しそびれた魔法書や武器の塊をメルシアの前に差し出した。

「ほう? これを全部あたしに?」

 身を屈めて魔法書を眺めるメルシア。弓は……チラリと見ただけだな。

「エマルダにしてはいいチョイスだね」

「大体はアレクシスが見繕ってたよ。また書いて渡すつもりだし」

「婿さんか。優秀な魔法書士らしいね。会うのが楽しみだ」

 メルシアが左の腕に何本も身に着けている幅太の腕輪の一本を指で弾いてクルクルっと回すと、持ってきた魔法書が一冊ずつ腕輪にはめ込まれている水晶らしき石の中に吸い込まれて行った。

「それ便利だね! 何でも入るの? 出すときは?」

「魔法書専門の本棚さ。使う本はこうやって…」

 左腕を前方に差し出すと水晶が光り、何もない空間に腕輪と同じ数だけ半透明な本棚が現れた。棚にはびっしりと魔法書が収まっている。そしてその中の一冊にメルシアの指が触れるとその本だけが実体化した。

「良いなー! 俺も欲しい…」

 たくさんの魔法書はマリーへの積み下ろしだけでも重くて大変だった。こんな便利な装備があるなら使いたい。

「魔力が無いあんたにはただの装飾品だよ」

「……そうだった」

 この世界の便利なものはみんな魔力が必要なんだった。

「あんた、グレイスの所で少しだけ魔法が使えたんだって?」

「え?ああ、魔力甕を入れてもらった時に。蓋が閉まるまでの数分間だけ魔力ってものを味わえた」

 ああ……あの時の体中に魔力が流れる感じを思いだしてしまった。

「譲渡一個で数分か。試しに見に行きたいけど…割が合わないねぇ」

「メルシア様ー、ロディがそろそろ行こうって言ってるっス」

 調子を取り戻したらしいジェイマーがメルシアを呼びに来て、俺がいるのを見つけると『怒っているぞ』アピールをしてさっさと次の部屋へ行ってしまった。

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