パジャマパーティー
「あの……」
「すまない!」
近づこうとしたが、突き出された左手が接近を阻む。
「嫌いとかではなく…初対面の相手がすこし苦手で……慣れれば普通になるから」
強面で人見知りか。なかなか苦労してそうだな。
「じゃあ早く慣れるように、喋り方を変えても良いか?」
「……大丈夫だ」
とてつもなく重大な決断をしたように頷かれた。
「うん。そしたら寝ながら話そうか。明かりを消しても大丈夫か?」
「ああ」
部屋のドアを照らす壁のランプを背伸びして消す。
天井から吊るされている高い位置に付いてる方はオザダが消した。
二つのベッドの間に置かれたナイトテーブルの上の小さな明かりだけ残して、俺たちはそれぞれ布団に入った。
「オザダは騎士かなと思って見てたんだけど合ってる? 馬の騎士がいるって聞いてたからそうかなと」
「そうだ。愛馬は青毛でガララという」
「俺、今は弓の修行してるんだけど、今度剣とか槍とか見てもらってもいいか?」
「その話は聞いている。俺で役に立つならいくらでも相手をする」
「よかった。シェマが抜けるし大変だろうけど、よろしくな」
「ああ」
どちらも、天井を見ながら会話する。対面してないだけで、オザダの躊躇する間は減り、言葉数は増える。
「一人減るのはやっぱり大変な事なのか?」
「そうだな。シェマは強かったし、人間も出来ているから貴重な存在だった」
「二人でうちのおばあちゃんの相手をしてくれてたんだって? 悪いな迷惑かけて」
「そっちは、まぁ、良いんだ。メルシア様の事は尊敬してるし、絡み酒も俺は止める側で被害を受けるわけではないしな」
「じゃあロディの方は?」
「……」
分かりやすい沈黙だな。
「キツイのか?」
「……キツイな。鎧を着たまま眠りたいくらいだ」
「触ってくるのか? 色々?」
「まぁ…そういう嗜好とは違うようだがな。ただ夜が怖くて一人では眠れないから誰かに密着していたいらしい。経験上、下手に離れようと動くと放すまいとして余計に絡みつかれて後悔する目に遭う。横を向いては駄目だ。うつ伏せか仰向けか。そのままじっと耐えることだ」
「野営の時とかも? 抱き着かれてるのをみんなに見られながら寝るのか?」
想像しただけで辛い。見られる側も見せられる側も得が無さそうだ。
「いや、野営だと俺たちはお役御免だ」
「え? どういう事?」
「俺達の他にもいるんだ。相手が」
まさか宿屋では節度を保って男限定にしてるけど、人目のない野営では女性陣も……?
「ロディが欲しいのは体温とか相手の息遣いで、別に人間じゃなくても良いんだ」
「……というと?」
「俺のガララでも、ドラゴンのマリーでも、その辺の魔物を生きたまま縛ったヤツでも。生きてる物に抱きつければ大丈夫なんだ」
「俺たちの活動地域は町から遠いことがほとんどだし、ジェイマーとシェマがお前を迎えに出た時から今日までも、ずっと野宿だった。本当は今日もこの町に来るのはメルシア様と俺だけの予定だったんだけどロディがついてくると言い出して…久々に被害者が出たというわけだ」
「だからジェイマーが慌ててたのか」
「宿屋に泊まるということは魔物とは寝られないということだから、俺たちのどちらかが犠牲になることが決まる。一応この退魔団のリーダーだから『お前は馬小屋で寝ろ』とは言えないからな」
いかにも何度か言いそうになった様な口ぶりだな。
「そもそも何でそんな面倒な勇者の所に居続けてるんだ? 今日見た感じだと器もさほど大きくなさそうだったけど」
「そうだな、俺は単に抜けるタイミングが掴めないだけだが…一番大きいのは資金に困らないことだろうな」
「ロディは金持ちってこと?」
「代々王宮勤めの家系だそうだ。定期的に実家から大金や物資が届くから装備品も必要なアイテムも大抵のものは頼めば揃えてもらえるし、報酬目的の依頼に拘らずに緊急要請の地域にすぐ飛べる」
「緊急要請、とは?」
「居住地域に近いところに魔物が出た時とか、通常いないはずの場所なのに凶悪な魔物が突然現れたとか、だ。ロディはそういったものを優先したがる。報酬よりも名声を重視するんだ」
名声…有名になりたいのか? それともあからさまに感謝されたいとか?
それにしても、添い寝の相手が魔物でも良いとは……。この際マグマを生贄に差し出そうか? けどアイツも日毎に大きくなるから宿屋に入室を断られる日も遠くないだろうし…
ああそうだ、どうしようか。
「明日からの予定は決まってるのか?」
「いや、合流してお前の力量を確認してから行き先を決めようと言う話だった。…何かあるのか?」
「この町の工房でドラゴンに竜具を作って貰ってて、一週間かかるって言われてるんだけど」
「い……!?」
絶句したな。するよな。一週間夜が来るのを怯えながら過ごすとなると…俺にもいずれその日が回って来るだろうし……。いっそ竜具をキャンセルして………否! それだと俺の危機が昼夜問わず増えるだけじゃないか!
どうにかして俺達が安心して寝られるようにならないのか……。
「魔物は仲間に出来ないんだろうか」
「魔物…ドラゴンや馬ではなく?」
「それは宿屋に持ち込めないだろ? 小さくて懐きやすい…例えば猫とか犬とか鳥とか、猿とか?」
抱いて寝るのに適した愛玩動物…愛玩魔物を飼って旅に連れて歩けば万事解決なんじゃないか。
「それはどうだろう」
考え込むことなく、オザダが否定した。
「戦いの場では相手の魔物に魔力を吸い取られることはよくあるんだ」
前に噛みつかれた兎を思い出した。
「馬やドラゴンは昔から戦場へ連れているからそういった攻撃を軽減する装備も充実しているが、愛玩用の小さな魔物の命を守れる装備品なんてものが果たしてあるのかどうか」
退魔団が赴く地域に出現するような魔物からのちょっとした攻撃でも小さい魔物だと死に直結する、か。
…そんなに弱いか?
…うーん、弱いよなぁ。
「かと言って強い種類の魔物は人間への敵意も強いから手懐けるのは難しい。縛り上げて連れてきたとしても見た目からして町に入れるのは周囲の目が痛いだろうな。試したことは無いが。」
宿屋に泊まりたいのに連れている魔物のせいで町にすら入れなくなったら元も子もない。
くそぅ、やはり犠牲者が出ることは避けられないのか……。
「どこかに強くて町でも連れて歩ける可愛らしい魔物はいないのか…」
「うーん……。……」
「ん〜………。」
「…………」
「……」
「…」
「すまない……寝てしまった」
「あ、大丈夫。俺も寝てたから」
「……そうか……」
明るい日差しを浴びたらオザダの人見知りは元通りだ。
まぁ、目に見えない程度でも警戒心は減らしてくれてるんじゃないかと思う。
昨日は鳴らなかった鎧が今日着る時は当たり前のように金属音を鳴らしていたから。




