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個別受注生産

「リキューの父親のマルズと言います。ドラゴンの飼育と騎竜具の製造をやっております」

「どーもどーも、俺はジェイマーで、こっちがルイス、で、その相棒のマグマっす」

「おお!! まさしくマグマ!!」

 この親にしてリキューあり。マグマを認識した瞬間から一度も視線をマグマから離さない。

 そのせいでマグマが怖がってしまい、今では俺の後ろに隠れる始末。

 コイツにも苦手なものが増えていくのは……申し訳ないがちょっと面白いな。

「この子は卵からですか? それとも生まれてから購入を?」

「卵売りから買いました。ハルクデリウムで」

「王都ですか! ということはどこかで交配させた新色…? しかしこの色なら野生のドラゴンの巣からという方が可能性は有るか…」

 マルズは跪いて俺の足の間の隙間から見えるマグマを観察する。隠れるマグマを捉えようと角度を変える度に丸眼鏡が太陽の光を反射してキラキラと輝く。

「お父さん、そのマグマちゃんに竜具を作ってあげてほしいの」

 リキューがそんな父の後ろから声をかける。

「竜具だって? リキュー、この子はまだ人を乗せられる大きさじゃないよ。お前だってそれくらいわかるだろう」

「私だって可哀想だと思うわ。でもルイスが乗らないといけなくて」

 それを聞いたマルズが初めて俺を見た。そしてスッと立ち上がり、ジェイマーに向かって語りだした。

「お客さん、この子はまだ生まれたてなんですよ。この体のサイズだと魔力量だってそう多くはない。息子さんも子供で軽いから大丈夫だと思ってるのかもしれないが、そもそもドラゴンの子供だって『子供』なんだ。子供のうちは自由にのびのびとさせてやりたいと思いませんか。この歳で仕事させられる子が不憫だと思いませんか」

「あ、えっとー…」

 この所業は父親のせい、という認識か。まぁ子供に言っても理解されない上に泣かれる恐れもあるからな。

 そんなことよりも子持ちに間違われたジェイマーが若干ショックを受けている…。


 もともとドラゴンに関する事は専門外だからかあまり普段から口を挟まないジェイマーだし、俺たちの事なのに反論して貰うっていうのもなぁ。

 …飼い主は俺だし、頑張るか。でも子供の言葉に説得力持たせるにはどうしたらいいんだ?

「あの、別に無理やり乗ってたわけじゃないんです。こいつがどうしても俺を乗せたいって意地張るからで…」

「もう飼い主への忠誠心を見せているんだね。けどこの子の身体じゃあ自分だけが沼地を越えてこの町に来るだけでも魔力はギリギリだったはずなんだよ。乗っていた君も危ない目に遭うところだったんだし、いい機会だからお父さまにちゃんと理解してもらおうね」

「魔力量なら大丈夫です」

「え?」

 マグマの鎖の首輪を確認すると、淡い桃色になっている。ということは、マグマ自身の魔力は満タンということ。

 けどなぁ…この人に首輪の効力を説明するのも面倒だし…。

 一発で分かりやすく……

「こいつくらいのドラゴンだとどれくらいの炎を出せるか分かりますか?」

「炎? いや、攻撃技なんてますます魔力消費が多いんだから無理だよ。才能が有る子でもコツを掴むまで1年はかかるしね」

「そっか…マグマ、この人がお前になんかに炎は出せないってさ」

「!!」

 後ろに隠れているマグマに声をかけると、思った通りの反応を見せた。

 途端にグイグイ俺を頭で押しのけて堂々とマルズの前に立ち、彼に向かってカパっと口を開ける。

「うわ! おいマグマ、空に向けろ!」

 マグマの頭を開いた口を上へ向ける。焦った。もう出る寸前だった。危ない危ない。


 青い空へとまっすぐ伸びる赤い火柱。

 それは数十秒に渡って途切れることなくそこに在り続けた。


「おつかれ」

「ギャゥ…」

 ちょっと頑張りすぎたマグマは小さな声で返事をした。

 マルズとリキューが揃ってまだ呆然と上空を見ている隙に、ウエストポーチから取り出したカエルの干物をマグマの口に放り込む。

「これくらいの力があっても飛べませんか?」

「…あ、え? …あー驚いた……一体何なんだいこの子は……」

「マグマです。竜具、お願い出来ますか?」



「手綱、鞍、鐙を付けるとかなり安定してくると思いますよ」

 家の中は作りかけの竜具や資料が散乱していた。その中の一冊の資料に描かれた竜騎兵の図を見せてもらいながら説明を受ける。

 しかし俺は別の本を拾い上げてそこに載っている図をマルズに示す。

「こういうカゴが良いです」

「カゴ…は通常は乗り手以外に乗せるものがある場合に装着するものなんです。幅のある背中に付けますので、乗り手がカゴの位置だとドラゴンとの意思疎通が難しくなってしまうんですよ。今は胴体が短いのであまり違いが分からないかもしれませんが、指示や感情の伝えやすさを考慮して首元から肩の位置に乗るのが良しとされていますので、ご理解ください」

 え~…。

「それ以前にカッコ悪いわ」

「ギャウギャウ!」

 え~…。

 俺の要望はあっさりと却下されてしまった。

 しかしこのまま諦めるわけにはいかない。

 これからも災難に見舞われるかもしれないのは俺なのだから!

「あっ、あの、じゃあ! この手綱って、硬いもので作れますか?」

「硬いもの…金属ということですか?」

「ギュって握れて、グラグラしないヤツなら何でも良いです。あと、足がぶらぶらするのもどうにかしたいんですけど」

「…はぁ」

「…なにそれ。どうやって指示するの?」

「ルイス、お前そこまで……」

 ジェイマーが俺を憐れむように肩をポンポンと叩いた。

 情けなくてもいい。落ちなきゃいいんだ。


 マルズは暫く考えた後、鞍の前後に軽くて丈夫な金属でグリップを付ける案を出してくれた。

 首にしがみつくよりは周囲を見られるようになるし、心もとない細い紐を握るよりも何倍も安心できそうだ。

 更にはしっかり踏ん張れるような足置きも付けてくれるという。

 俺の為というよりは『ドラゴンが安心して騎乗者を乗せられるように』と、どこまで行ってもドラゴン中心の人だが何にせよ有難い。

 マグマの体型を計り、細かく仕様を記入した契約書にサインをする。

 完成までは一週間程度かかるとの事だ。

「それまでこの町にいられるかな?」

「大丈夫じゃないか? 先を急ぎそうだったら俺も一緒に残るからまた追いかけよう」

「ありがとう」

 それからリキューの案内で一通り牧場の中を見学させてもらった。マグマくらいのちいさな黄色いドラゴンや珍しい縞模様のドラゴン、2つ頭のついたドラゴンにも会えた。

 そうしているうちに来るだろうと思っていたシェマが一向に姿を見せないので、俺たちは宿に向かうことにした。

「うちの子で送っていきましょうか?」

 リキューが提案してくれたが、歩いているシェマを見逃したらいけないので遠慮した。

 マグマともう少し一緒にいたかったリキューは寂しそうだったが、別れ際にマグマからベロリと頬をひと舐めされて機嫌を戻し、手を振って見送ってくれた。

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