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フルフラート

「マグマーっ、その町に降りるのよーっ」

 それを聞いた途端に深紅のドラゴンは興奮したのか、またしてもどんどんスピードを上げていく。

「待て、早いって! マグマ!!」

 首の皮膚に向かって叫ぶ。頭なんか上げられない。一ミリ動いても落とされそうだ。

「ギャオオォ!!」

 俺はともかく、マリーの声も届いていない…これはもう、ダメだな。

 来るべき時に備え、マグマの首に回している腕に一層力を込めた。

 ザリザリザリザリッ!!!

 土を削る爪の音。

 急ブレーキに体が前へ浮き、俺はマグマの頭の上を宙返りで飛び越えて地面を転がった。

 結局こうなるんだ。そうだよな。無事に済むわけがないんだよ。


 フルフラートの町南側。

 魔物対策の門や外壁は備わっていない。他の3方向が毒沼に囲まれているというのはある意味安心ということなのか。

 おかげで恥ずかしいところを行き交う人々にしっかり見られてしまった。

「大丈夫っ?」

 数秒遅れでシェマ達が着陸する。マリーからは誰も何も落ちたりしない。

「マグマ、あれだぞ」

「キュウ…」

 自信満々だったマグマも、俺の惨状を見て反省しているようだ。

「大丈夫っ?」

「えっ? はい…」

 座り込んで仲間が来るのを待っていたら突然後から声を掛けられたので振り向いた…が、声の主らしい人はさっさと横を通り過ぎてシェマに向かっていた。

「どういうつもりなの?! 子供を一人でドラゴンに乗せるなんてっ!」

「すみません、お騒がせしました」

 お怒りな女性にシェマが軽く頭を下げる。

 その向こうでマリーを降りたジェイマーも続いた。

 ウェーブがかった金色の長い髪が綺麗な女性。見ず知らずの俺なんかの為に大人たちを怒ってくれるとは、なんと正義感の強い人か。

「あの子幾つ? まだ生まれたばっかりでしょ! それなのにこんな危険な場所を飛ばせてっ」

「え……ええと」

「竜騎士として恥ずかしくないの?! 申し訳ないと思わないの?! あんな…」

 クル、と振り返った正義感溢れる女性は想像したよりもずっと若い少女だった。

「あんなガキを上に乗せられてしかも長時間飛行させられるなんて…完全にドラゴン虐待だわ!!」

 そしてただのドラゴン溺愛者だった。



「こんな色の子、初めて見たわ」

 少女の名前はリキュー。珍しい色のドラゴンを大いに気に入ったご様子だ。

 道案内の最中だというのにまったく先を歩いてくれず、なぜかマグマが先頭を歩いていて、その様子をリキューが満足気に眺めている。

 時折『マグマちゃーん』と呼びかけ、振り向くマグマの仕草が可愛いと捩じれる。不思議な子だ。

 シェマは先に合流場所の宿屋へマリーと荷物を預けに行った。待ち合わせ時間の夜までは来ないだろうとの事なので、俺たちはリキューが提案した竜具屋へ向かっているところだ。



 ドラゴン虐待だ、と騒ぐリキューを黙らせたのはマグマだった。

 和解しようと大人たちがあれこれ説明するのだが、ドラゴン至上主義少女は聞く耳を持たず。

 そのやりとりを不思議そうに眺めていたマグマだったが、何度も何度もリキューが『小さい』『まだ無理』『かわいそう』と発し、それが自分のことだと気付いたのか、突然俺に体当たりし始めた。

「ちょっ、やめろよ何だよもうっ」

「ギャウギャウッ」

「ほら、この子も怒ってるじゃない!」

「これはそうじゃなくて…マグマ、さっき教えたでしょ」

 シェマから声を掛けられ、思い出したようにマグマは頭突きを止め、俺に背中を見せて座った。

「ギャウッ」

「ルイス、乗れって言ってるのよ」

「えー…さっきの今で? …見たでしょあの着地」

「ルイス」

 今もまだ土まみれだというのに…と渋ってはみたものの、恐らくこれが一番なのだろうとは俺も感じたので不満の態度を前面に出しつつマグマへ乗った。ガッチリしがみつくと、それが合図だったかのようにマグマが浮く。

 高度は上げず。

 速度も一定に。

 マリーを一周し、三人の周りを飛んで見せる。

 そして、リキューの前でホバリングしてアピールタイムだ。

「ギャウギャウッ」

 それを見たリキューは牙が抜けたようで、穏やかな表情に変わる。

「…そっか、ごめんね、出来る子なんだね」

 そして頭を撫でられたマグマは満足気に宙返りを……



「シェマはマリーに何も付けてないよな」

「シェマはSSランクの竜騎士だしなー。それにマリーはとびきり優秀なドラゴンだから」

「ああ…そうだよな」

 経験値を積むため陸路がメインの俺はあんまりマリーのお世話にはなっていないが、少ない騎乗体験を思い出して納得する。

 そういえばハルクデリウムで乗ったドラゴンは手綱が付いていた。

 マリーの安定感と安心感はやはりドラゴンの中でもトップクラスなのだろう。

「マリーって一緒に来たオレンジの子のこと?あの子も可愛かったなぁ…」

 リキューが思い出してニヤける。

「けどもう400歳くらいだし、そろそろゆっくりさせてあげて欲しいわ」

「へぇ? 君はドラゴンの歳がわかるのかい?」

 ジェイマーが関心している。普通は分からないということか。

「まぁね。だからって何かに役立つ特技でもないんだけど…マグマちゃん、そこを右よ、右、分かる?」

 マグマが振り返り、リキューが指さす方に進行方向を変える。

 すかさずリキューが『おりこうさんね!』と褒め称えた。

 これでもうマグマは右がどっちか覚えたな。


「ここよ。うちの工房」

 辿り着いたのはドラゴンを飼育する牧場の中の一角。二階建ての立派な丸太造りの家だ。

「ちょっと待ってて」

 手前の階段を軽やかに二つ上がり、ドアノブの無い玄関扉を勢いよく押し開く。

「ただいまお父さん! お客さんを連れてきたわ!」

 リキューは扉を体で抑えたまま、部屋の奥にいる相手を手招きする。

「お客さん?」

 すぐに木の床を歩く靴の音がして『お父さん』は現れた。

「おお!! …ッてて」

 丸眼鏡でひょろりと長い『お父さん』は両手と歓声を上げ、両手はドアの上枠へ見事にぶつけた。

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