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君を乗せて翔びたいんだ

「今日は早めにフルフラートに入るぞ」

 ジェイマーはリュゼ村からこれまでのルートを地図に書き込んでいる。

 現在地点から少し離れた場所に【フルフラート】と町の名前が表記されていた。

「沼は?」

「あー…めんどくさいからマリーで行こうかと」

「了解」

 シェマが出発の準備中だったマリーさんの背の荷物を人が乗れるように調整する。

「沼って?」

 俺の質問に、ジェイマーは現在地と町との間のほとんどのスペースを指で囲んで見せた。

「でっかい毒沼があるんだよ。触ると服も体も溶けちまう」

「迂回ルートもあるけど今日中の到着は難しくなるわね」

「そうか。じゃあマリーさん、よろしく…」

「ギャウガウガウッ!!!」

 マリーさんを撫でると、マグマが急に騒ぎ出した。

「どうしたマグマ、お前も乗りたいのか」

「ギャウッ!ギャウガウ!」

 マグマは叫びながら、俺に…尻を向けながら飛んできた。

「な、なんだよ急に」

「ギャウッ」

 身体を押し付けてくるマグマから逃げるため、俺はマリーの背をよじ登る。

「ガウガォウガゥッ!!!」

 更に声を大きくしたマグマが俺に体当たりしてくる。

「ちょっ、やめろマグマ! 危ないだろ!」

 俺は落ちないようにマリーの背にピッタリとはりつくが、マグマはわずかな隙間に鼻先をこじ入れてくる。

 グリグリと首元に頭を突っ込まれ、どんどん体の下に侵攻される。

「もーっ、なにやってるんだよオイ…って、うわっ」

 マグマの身体がぐっと俺を押し上げる。両腕も、足も、どんどんマリーさんから引き剥がされ、遂にはマグマの背に乗って浮かんでいた。

 前後逆で。

「ああ、自分に乗って欲しかったのね、マグマ」

「ピギャウ」

 俺を乗せたままフワフワと浮かぶ赤い背中。

 俺は慌ててマグマにしがみついた…が、もうマグマの腹囲は俺の腕では回りきらない。

 しかもこいつの上はマリーと違って安定感がない。すごく滑る。

「ちょ、待って、一回降ろして…」

「ピギャーッ」

 消え入りそうな俺の声は上機嫌なマグマの耳には届かなかった。

 見せびらかしたいのかなんだか分からないがシェマやジェイマーの近くまで飛んでいく。

「た…助けて」

 目が合ったジェイマーに訴えるが、手を差し伸べてくれるどころかいつものように笑っている。流石にこの状況だとこの笑い顔にはいら立ちしか感じない。

 が、今の俺には抗議している余裕はない。

「落ち…落ちるっ」

「大丈夫、落ち着いてルイス。マグマ、この子を乗せるならちゃんと乗せ方を覚えなさい」

 シェマの合図で浮かんでいるマグマにマリーが近づく。オレンジ色の鼻先がゆっくり位置を下げてきて、マグマの腹の下に潜り込んだ。

 フラフラと上下に揺れていたマグマが、固定されて動かなくなる。

「ルイス、マリーが支えてるから安心して。さぁ…」

 差し出されたシェマの手を握り、俺は身を起こした。

「ありがとう…助かったよ」

「じゃあそのまま方向を変えて」

「え」

「前を向いて。マグマに人を乗せた時の飛び方を覚えさせないと」

「いや、でも今は…」

「ちゃんと教えないと毒沼に落とされるわよ」

「……」

 シェマの手を一層強く握り、どうにかマグマの上で方向転換をする。何度もバランスを崩す俺を見てシェマが『すべすべなのね』と褒めていた。

「首にしがみついて。足は前足の脇に挟むと丁度良いかも。あ、念のため首の鎖を握って」

 言われるがまま、俺はマグマにしがみつく。

「マグマ、もう少し頭を上げて。…そう、そのくらいよ。そのまま飛んでみて」

 バサ、と飛び立つ合図のように翼が音を立て、視界が少しだけ高い位置に動く。

「上下に揺れないように気を付けて、体の角度はこのままよ…」

 シェマがマグマに手のひらで角度を見せ、マリーの鼻が下から微調整を施す。

「いい? 飛び立つときもこの角度、降りる時もこの角度よ。じゃないとルイスがどっかに飛んでっちゃうからね」

「ピギャァ」

「よし。じゃあルイス、あとは貴方がマグマを信じるだけよ! 行きましょう!」

「もう?! 早くない?! もっとしっかり注意点とかコツとか…」

「え? 大丈夫よ。大丈夫よね、マグマ!」

「ピギャァ!」

「ほら」

「ほら…、って……ぇえ~?」

 そのまま地に足を付けることなく、俺は身動きできない空の旅に出ることになった。


 一瞬視界に入った毒沼は、緑と紫を混ぜたような、見た目からして毒っぽい色をしていた。

「もし落ちてもマリーが摑まえるから大丈夫よー」

 マグマの上で固まってる俺に、時折シェマが声をかけてくれる。

 マグマの飛行は見違えるように安定した。上下の揺れも急な旋回もしなくなり、まだだんだんとスピードが上がる癖があるようだが後ろからマリーがひと吠えすると我に返るらしくて、その度に持ち直す。

 だからと言って、景色を楽しむ余裕なんか生まれない。四肢に力を込め、じっと赤い皮膚を見つめる。早く、早く町に着きますように……。


「2時の方角に魔物発見ー!」

 ジェイマーがシェマの後ろで叫んだ。

 そんなこと言われても何にも出来ない。

 出来ないと叫ぶことも出来ないぞ。

「俺がやるからそのままでいいぞー」

 言い終わるか終わらないかで火のついた矢が三本同時に俺の横を飛んで行ったのが視界の端っこで見え、その後ポチャポチャと沼に何かが落ちる音がした。

 

 空中で両手を放して矢を射るとか……SSランクへの道は遠そうだ。

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