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悪い子

 マグマは夜をマリーと過ごすようになり、遅くまで鳴きあっていることもあった。

 多分マリーによる講義だろうとシェマが推察した。

 そのせいか日中の退魔においてマグマの動きは日に日に良くなり、恐らくは単独でもかなりのレベルの魔物に勝てるんじゃないかと思う程になった。

 

 旅立ってから6日。合流地点まであと2、3日という所まで来た。

 徐々に遭遇する魔物が強くなっている気がする。弓では元から魔石への直接攻撃以外は追撃が必要だったが、短剣での一撃で倒せるものもこの辺りには出現しない。

 単純に力が足りない。それを補うには技術と経験値。


 丸い月がぼんやり辺りを照らす夜、二人が寝息を立て始めた頃に俺はテントから抜け出した。

 それに気づいたマグマが寄って来る。

「俺も頑張らないとな」

 テントは崖の上の少し開けた場所に設置し、マリーは背後の林側で警備中。

 そのマリーは就寝中の二人を護るため一歩も動かないが、鋭い視線だけはこちらに向けてきた。

「大丈夫、マリーさんの見えるところにいるから」

 俺は行く先を指さした。マリーの警戒する林とは反対側の崖。

 突然何かが襲ってくることはないだろう。

 腰を下ろすと隣にマグマも座る。

 崖の下の河原にオオトカゲを見つけた。

 陽が落ちる前から他の種類の魔物もちらほら見えていたので、夜でも何かしらいるのではないかと思っていたのだ。

 川の音で気付かれにくいとは思うが、なるべく音を立てないように弓矢を構える。

 

 周りが静かな夜の方が自分の立てた音がよく聞こえる。


 ある程度距離があれば、ほとんど命中する。今も狙い通りの場所を貫いた。

 しかし背に光っていた魔石は外したようで、トカゲは矢を刺したまましばらく逃げ回り、やがて動かなくなった。

 横で見ていたマグマが下まで飛んで行って魔物を回収する。

「ありがとう。食うか?」

「ギャウ」

 マグマが宙返りして答えたので、トカゲを捌くことにした。

 ナイフを入れる前にもう一度マグマに川まで下りて水を汲んできてもらい、しっかり洗ってから切り離した足と尻尾は串に刺して焚火で炙る。

 胴体は明日の朝食用に香草と一緒に鍋にかけた。

 

 焼けた足をかじりながら他に魔物が出て来ていないか崖の下を覗くが、なにも動く気配はない。

 試しに先ほど切り落としたオオトカゲの頭を放り投げてみる。

 暫くすると、岩の陰で何かが動いた。ゆっくり、警戒しながらも転がった頭に近づいてくる。

「虫か…」

 大きな楕円形の焦げ茶色の身体が月明かりで光った。

 虫は頭に食いついた。この位置から見える場所には魔石は無いみたいだ。食べているうちは動かないし、あまり弓射の訓練にはならなそうだな。

 ぼんやり虫の食事を眺めていると、横にいたマグマがピクリと何かに反応した。

「どうした?」

「ギャァ」

 マグマが空に向かってひと鳴きした。

 かなり上空で鳥型の魔物が旋回していた。

「あれは…どっちを狙ってるんだ? こっちか?」

 虫の方だと良いが、それより距離的には俺達の方が鳥には近い。

 のんびり串焼きをかじっていても良いものかどうか。

 念のため急いで串に残った肉を口に詰めこんで、いつでも弓を引けるように構える。と、既に鳥は急降下を始めていた。

 ものすごいスピードで地上に向かって突っ込んでくる鳥の影。狙いは…虫の方だ。

「…よし!」

 こちらに見える場所、鳥の足の先、キラリと光る魔石。

 射程距離に入るまでに体制を整える。降下のスピードを確認し、タイミングを合わせ、目の前まで降りてくる前に…射る!

 バサバサバサッ、と羽をバタつかせる音がこだまする。

 しかしすぐに静寂は戻り、鳥は地面に落ちた。

「…当たった?」

「ギャウ!」

 マグマがすぐに崖下に降りていく。

 鳥が狙っていた虫は、既に見えなくなっていた。

 フラフラとマグマが戻って来る。目の前に置かれた鳥はマグマと同じくらい大きいものだった。

「うん、やっぱり弓も良いよな」

 どんな強い相手でも魔石を砕けば倒せるというのは魅力的だ。腕が良ければ良いほど受けるダメージが少なくて済み、武器の消耗も抑えられる。

 ただ、一射で仕留められなかったときは難易度が跳ね上がるのが厄介だ。フォローしてくれる仲間がいるならまだしも、単身だと反撃を躱しながら逃げるのが精いっぱいかもしれない。

 これがもし、魔法が使えたとしたらどうなる? 標的に矢と同等のスピードで魔法を放つことが出来れば、弓矢は必要なくなるな。本を持っても片手が空くから別の武器や盾が持てるだろう。

 魔石を確認し辛い時は広範囲の攻撃で消耗戦も出来るし、撤退に便利な魔法もありそうだ。

 

 はやく魔法まで辿り着きたい。


 俺にとって魔法は最終目標。そこまでに必要なものを身に付けなければならない。

 とは言っても今の弓の訓練は間違いなく後で役に立つ。魔物の動きを見る力、標的の狙い方、無駄を省いた動作、集中力。

 これまでの経験が無駄になることはない。今こうしているのも、前の経験があってこそだという事もわかっている。

 焦ってはいけない。俺は既に誰よりも長い時間を生きている。



 太陽が昇る。

「これは」

 テントを出る途中でシェマが動きを止める。

「鳥の丸焼き」

「見ればわかるわ」

「食べ頃だよ。トカゲのスープも有るからどうぞ」

 深めの皿によそったばかりのスープを見せる。

「朝から豪華だな」

 後からジェイマーが顔を出す。つっかえているシェマをどかし、さっさと腰掛け椅子の一つを占拠した。

「…夜更かししたの?」

「羽を毟るのが結構大変で」

「美味いよコレ。焼くの大変だったろ?」

「マグマも手伝ってくれたから」

「ギャウギャウ」

「コレかけても美味いと思う。昨日採った檸檬をソースにしてみた」

「おお、良いねぇ」


「ルイス!!」


「!」

「ピギャーッ」

 驚いてビクリと跳ねたジェイマーがスープの皿に膝をぶつけてひっくり返し、マグマが頭からかぶった。

 マグマはジェイマーに怒りの頭突きを入れたかと思うとすぐさま崖の下に飛んで行った。

 ドラゴンは熱さは感じないというから、汚れたのが気に入らなかったのだろう。

 ジェイマーが横腹を抑えて唸っていても、シェマは仁王立ちで俺を睨んでいた。

「ルイス、あなた自分が何歳だか自覚してるの?」

「…5歳です」

 いつも冷静なシェマが声を大きくして俺を追い詰めてくる。

「5歳の子供が徹夜なんてしていいと思っているの!?」

「……」

「子供の成長には睡眠が大事なのよ! 夜はしっかり寝ないといけないでしょう!」

「…はい」

「自己管理できる人だと思っていたのに…次やったら貴方にもマリーの説教を受けてもらいますからね!」

「ギャオオオオオオオオゥ!!」

 マリーが賛同するかのように一声上げた。

「……すみませんでした」

「わかってくれればいいの。けど今日だって歩くんだから。途中でへばっても手は貸さないわよ」

「はい。心得ました」

 シェマは一つ深い息を吐き、椅子に腰かけた。

「……で? そのソースを付けたほうが美味しいの?」

「あ、ああ! そうそうこのソースな! きっとシェマ好みだぜ!」

 気を利かせたジェイマーがすぐさま肉を切り分け、シェマへ捧げる。

「…ほんと、美味しいわね」

「な? 作り方聞いといたほうが良いんじゃないか? お前ももうすぐ奥さんになるんだろ」

「!!! そ、そうよね、料理覚えたほうが良いわよね! ルイス、この味付け教えてくれる!?」

「あ、うん、ええと……」

 

 ダリアは見る目があるな。

 俺はその朝そう思った。

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[気になる点] 虫を呼び出すために投げたのはトカゲの頭?内蔵?
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