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16回目

 しかし生まれ変わりは続き、今が16回目。

 一体自分の人生はいつ終わるのだろうか。

 そしてなぜ、自分だけが前世の記憶を持ったまま転生するのだろうか。


 母体からの声が聞こえた。近くにいる人間の声も。男…父親だろうか。

『フレンディはどうだろう、あ、あとアシュレイとかパトリックも良いと思わないかい?』

『そうね、みんな素敵だと思うわ』

『俺の好きな物語の主人公にルイスっていうのがいるんだけれど、若いうちに苦労が多いんだよなぁ…。』

『だれも平坦な人生なんてないでしょう』

『それはそうだけど出来るなら幸福が多いほうが良いだろう?』

 俺の名前か。今回は何と呼ばれるようになるのだろうな。

 因みに、ルイスという名前は昔飼っていたペットに付けたことがある。

 深紅が美しいドラゴンだった。

 移動手段と退魔要員として各家庭がドラゴンを飼育する世界。

 人間を食料と考える魔物たちと、何の力もない一般人と、様々な力を宿した退魔師と呼ばれる人間と、そしてドラゴン。

 そんな世界で俺は一般人で、親から引き継いだ農地とドラゴンくらいしか財産が無い生活を送った。

 退魔師とは一度だけ会ったことがある。

 定住している俺を羨ましがっていたのが印象的だった。

 ゲームのある世界で生きていたときは勇者が魔王を倒す類のものをやったこともある。

 だから剣と魔法の世界に憧れはあるのだが、今のところ異能力が備わったことは一度もない。

 もしかしたら既にこの『前世の記憶持ち』というものが異能扱いで、これ以上特殊な能力は詰め込めないのだろうか。

 そうだとすれば、俺の人生はこの先…



 安産で外に出てから、俺はやっと気づいた。

 腹の中にいた頃から、外の会話が理解できていたことを。

 初めてのことだった。

 

 きっとこれは、一度生まれて死んだことのある世界だ。



 俺の名前は結局ルイスになった。

 そう、この世界ではルイスはありふれた名前なのだ。

 俺が飼っていたドラゴンについていたくらいに。

 両親は二人で魔法書の専門店を営んでいた。

 魔法書は、魔物がいるこの世界では欠かせないものだ。

 ある程度の魔物は物理攻撃で倒せるが、中には外皮の硬い奴らや、飛行するもの、水中のものには魔法が効果的だ。

 弓や銃を極めたスナイパーもいるにはいるが、攻撃範囲も大きくカバーできて、治癒も出来る魔法使いは退魔師のパーティーには必要不可欠と考えられている。


 魔法は、無地の本に魔力を込めたインクで魔法書士が呪文を書き、魔法使いが解放することで発動する。

 魔法書士は魔力を込められるが、発動は出来ない。

 魔法使いは魔法を発動させられるが、魔法書は作れない。

 更に、魔法使いとはいえ魔法書が無ければ魔法が使えないという不便さ。

 魔法が強力で脅威であるからこその制限なのだろう。

 ボタン一つで隕石が降って来るようなゲームとは現実は違うということだ。

 

 両親とも以前は王宮で魔法書士をしていたらしい。店は母親の母親…俺の祖母のものだったが、退魔のパーティーに誘われて入ったとかで、まぁまぁの年齢だろうに店より冒険を選んだらしい。

 若い頃も冒険者だったらしく出産を期に引退したらしいけど、どこかで気持ちは残ってたということだろう。で、魔法書専門店は集落ごとに最低1店舗は設置が必要と定められていて、この村にはこの店だけ。

 なんとか王宮で初級魔法書を書かせてもらえるようになり、彼氏も出来たばっかりの娘の…俺の母親エマルダは祖母と王宮双方からのプレッシャーで魔法使いへと転職し田舎に引き戻された。

 そして母と離れたくなくてついてきた父アレクシス。

 アレクシスは代々魔法書士として優秀な家の出らしく、そちらの家は母を追いかけて王宮を出た息子に随分とご立腹だそうだ。孫の俺に会いに来ることも無いし、こちらも一度たりとも行こうという話も上がらない。


「ルイスはどちらになるだろうね」

「私たちが魔法書士だったんだから魔法書士の方が向いてるんじゃないかしら?」

「でも君の母上の血も流れているだろう? あの人の力が強く出たら魔法使いとして世界中に名前が知られる存在になるかも」

「もう、あなたったら大袈裟ね」


 俺は一日を両親と一緒に店の中で過ごす。

 会計カウンターの横に柵付きのベッドが置かれ、その中だ。

 魔法書を買いに来る旅の客が、俺を見つけてはのぞき込んでいく。そして俺はその度に笑ってみせるのだ。

「おぅおぅ、なんと可愛らしい。ワシを見て笑ったよこの子」

「お客様がお優しい顔を見せられたからでしょう」

 母のエマルダはにっこりと笑った。

 顎に白く長い髭を蓄えた高齢の魔法使いが俺に指を近づける。嬉しそうにその指を握ると、彼は更に機嫌を良くした。

 これでも何度か商売人をやってきた身だ。客が機嫌よく店の中を眺めてくれればこちらも嬉しいものだ。

 そのまま魔法使いは店内を見渡す。

「初めて来たが、こちらはずいぶんと品揃えがいいようだのぉ?」

「ええ、奥に一人、書き手がおりますので」

 エマルダがにっこりと答えた。

「魔法書士がおるのか? そうか、それは便利がいいのぉ。」

 通常、魔法書店はランクの低い魔法使いが営んでいることが多い。転職したばかりのエマルダも、魔法書士時代よりもランクが下がってしまっている。

 生まれ持った才能でも違うのだろうが、やはり普段から魔物との実戦を重ねている方がランクは上がりやすいだろう。

 そもそも、店を持った魔法使いは王宮から一定額の報酬を保証されるので生活には困らないため、実力があってもランクを上げる必要はなくなる。

 

 魔法の分野だけでなく、退魔に関わる職業はすべて8つのランクで分かれており、毎年王宮で行われる試験に参加する事で更新される。

 ただし、勇者にはランクがないそうだ。

「浮遊の魔法書が欲しいのだがさ川を越えた先の次の村まではどれくらいあるだろうか。この年だと歩くのもドラゴンに乗るのも億劫でのぉ」

「そうですねぇ、こちらの書でご本人さまお一人が10時間ほど飛行可能ですよ。次の村まででしたらゆっくり向かわれても充分かと」

「そうか、ではそれを2冊もらおう。他になにか珍しいものはあるかのぉ?」

「お客様くらい高いランクでしたら…もしお持ちでなければこちらを念のため手元に置かれても宜しいかもしれませんが」

「さほう。なるほど。これは初めてお目にかかった。よしよし、これも頼む」

 魔法使いがふさふさの白髪眉毛の奥の小さな目を見開いて、そしてすぐに目尻に笑い皺を作った。

「よい買い物をした」

「ありがとうございます。ただいま解錠致しますね」

 エマルダは受け取った銀貨を引出しにしまい、代わりに小さな本を手に持つと、本をぐるりと巻いている帯状の鍵に向けて解錠の魔法唱えた。

 魔法書店の本にはすべてに鍵がかかっている。そしてそれはその店の店主の魔法でしか解けない。店主が魔法使いである必要理由がこれだ。

 貴重で高価な魔法書の盗難防止、魔法使いの暴動を防ぐためらしい。

「それにしても、この子は…」

 魔法使いの興味が俺に戻ってきたようだ。

 買い物が済むまで付き合ってやろう、と思って笑い声を出そうとしたその時。

「あまり魔力を持っておらんようじゃのう。」

 俺は赤ん坊の表情を忘れそうになる。

「…そうですか…。将来は私たちのあとを継いでもらえたらと思っていたのですけど」

「なにも魔法が全ての世界ではないからのぉ。無理に魔法に拘らんほうがよかろう」

「…そうですね」

 エマルダの声から明るさが消えた。きっと、多大な期待を俺に寄せる父のことを考えて気が重くなったのだろう。

 俺も同じだ。

 魔法のある世界で、魔法書士と魔法使いの家柄に生まれた。

 ついに自分も魔法が使えると思った。

 しかしやはり自分ではないのだな、と思った。この生まれ変わりは、なにかの使命に立ち向かうための人生ではないのだろう。

 また世界の流れに従って生き、逝く。そしてまた、どこかで死ぬまで生きるのか。

「しかし不思議な目をしておるのが気になるのぅ…。儂では見透しきれんが…この子が興味を持ったものはなるべくやらせてごらん。」

「はい、ありがとうございます」

 最後に俺の頭を撫でて、魔法使いは店から出て行った。

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