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四獅子

 丘の上を見上げると、その場所のシンボルのようにマリーさんが羽を広げているのが見えた。

 よく見ると応戦中らしい。素早く飛び跳ねる何かを狙って火を吐くが、あまり命中していないようだ。

「獅子が多いみたいなの。気を付けてね」

 獅子は何匹かで連携を取っているようだ。正面の一匹が注意を引きつけ、逆側から別の獅子達がマリーに噛みつく。

 そんな様子を見ても、シェマもジェイマーも急ぐ素振りを見せない。

「大丈夫なのか?」

「平気よ。あの程度が噛みついたってマリーは痛くもかゆくもないわ」

 その割にマグマに噛まれた時は激高していたような…演技だったのか?

 だとすると、今獅子たちに攻撃が当たらないのも…

「マリーお待たせ! もう良いわよ」

 シェマの戻りを確認してマリーは上空へ移動する。マグマが後を追って昇って行った。

「4匹か。一斉に来られると厳しいかもな」

「ジェイマーでも厳しいとか言うんだな」

「そりゃあ言うだろ。子供対獅子4匹だぜ?」

「! 俺一人か?!」

「来るわよ、頑張って!」


 標的を失った獅子がこちらに気づく。大人たちの思惑通り、仕留めやすそうな俺が瞬時にロックオンされた。

 ジェイマーとシェマが俺から離れる。

 迷わず素早く、しかも複数で俺だけに向かってくる獅子達。

 俺はその場に弓を置き、両手に短剣を握った。

 先頭を走ってきた1匹目が大きくジャンプする。

 2匹目はそのまま突っ込んできそうだ。

 3匹目、4匹目はそれぞれ両サイドに分かれ、俺の逃げ道を塞ぎにかかる。

 このレベルになると知能がついてくるのか、しっかり頭を使ってくるな。

 1匹目が狙った位置からはずれる為わずかに右へ。避けられた1匹目は俺の左側に着地、2匹目は正面に。そして同時に4本の前足の鋭い爪が目に飛び込んでくる。

 俺は1匹目の右前足の肉球に短剣を突き刺すと同時に懐に潜り込み、もう一本の剣で腹の真ん中…魔石を叩いた。

 動きを止めた獅子に押し潰される前に腹の下を抜け、2匹目の鼻先を切りつける。前足で鼻を抑えて転がった。こっちはまだ魔石の位置が確認できていない。

 仰向けになった喉元から頭に向けて一気に剣を二本突き刺し、外へ開く。反撃は出来ないようだ。

 そこに3匹目が突進してくる。俺は2匹目から飛び退き身構えた。少し離れた先にいた4匹目も地面を蹴って向かってくる。

 3匹目の鋭い爪の光る前足が二本で俺を捕獲しに伸びてくる。

 のしかかる太い前足を両手の短剣で防ぐ。重い。押し倒して地面に貼付け、確実に仕留める気だ。

 俺は3匹目がさらに体重をかけてくるタイミングを見計らって両腕を抜いた。バランスを崩して地面に足を付けたところで、右の眼球に光る魔石に剣を振り下ろす。

 しかし一瞬早く3匹目が後ろに飛び、躱された。

「チッ」

 4匹目も追いついてきた。

 獅子たちも反撃されることを学習して、むやみに飛び掛かることはせずジリジリと距離を縮めてくる。

 距離を取りたいがそれではこちらの攻撃は当たらない。とはいえやはり弓で狙ってる時間はない。けれど接近戦で押し切るにはリーチが短すぎる。

「コイツらの攻撃って俺だと即死レベルかなァ?!」

 遠くで眺めている大人二人に向かって叫ぶ。

「一発かもねー!」

 ジェイマーの明るい声が返ってきた。

 これは俺の力が信用されているということなのか? それとも、もしもの時は瞬時に助けに入れることからの余裕なのか?

 取敢えず、子ども扱いはされてないことはしっかり伝わった。

 爪が食い込んでも死なない程度ならやりようがあるのだけど、一発となると…。

「ピギャーッ」

「!」

 突然上空からマグマが叫びながら獅子に向かって急降下してきて3匹目の横腹に頭から突っ込んだ。

 衝撃で横倒れになった3匹目の右目に俺は迷わず剣を刺した。

「ありがとう助かる!」

「ギャウゥッ」

 マグマは最後に残った獅子を挑発するように不規則に飛び回る。

 獅子は見事に集中力を奪われた。

「マグマ、そいつを少し上に引きつけてくれ」

 前足を伸ばせば届きそうな高さで飛ぶマグマに獅子は完全に標的を切り替えた。

「よし」

 マグマにつられ、獅子が動くところを見て魔石の位置を探す。

 しかし光るものは見当たらない。こいつも体内か。

 俺はそっと獅子の背後から近づき、後ろ足の腱を断った。

 振り返る前に獅子の背に乗り分厚い鬣を掴む。牙も爪も届かない場所で、斬れるところ全てを斬った。

 次第に獅子は動きが鈍り、腹に一刺しを深く入れたところでやっと最後の獅子は動きを止めた。


「おつかれー」

 大人二人が近づいてきた。

「俺を買いかぶるな。死んでたぞ」

 俺は両方に恨みがましい目つきで訴えた。

「そんなことないって。出来てた出来てた」

「フォローに入る隙も無かったわね」

「相当きつかったんだけど。見えなかった?」

「見えなかったわ。助けも求められなかったし」

 シェマに茶化す素振りはない。本当に平気だと思っていたんだろう。

「今度はちゃんと助けてくれと叫ぶ」

「ははっ、りょーかい!」

 マリーが転がった獅子を4匹まとめて背に担ぎ、俺達は丘の上へ向かう。

 マグマは俺に先ほどの働きぶりを絶賛されて喜んでいる。

「生まれたばっかりだっていうのにお前は頼りになるなぁ」

「ギャウゥ」

「そうね、いい動きだったわ」

 こいつと連携して魔物を倒せるなんてな。お互い良い時代に生まれ変わったもんだな。

「また助けてくれよ」

「ギャウギャウ!」

 嬉しさに火の玉を吐き出しながら俺の周りを飛んでいる。

 やっと分かった。こいつは褒められて成長するタイプだったんだ。前世では褒めるところが無さ過ぎて気づかなかったからな。


 夕食はもちろん獅子鍋だ。貯めていた魔力が一戦終えて随分減っていたマグマだったが、誰よりも食って元通りになった。

 そして、体も少し大きくなったようだ。

「子供はすぐデカくなるからなぁ」

「もう抱いて運べない……」

 マグマの胴を抱えようとしてみたが、俺の腕ではもう回りきらなくなっていた。

「すぐにルイスを乗せて飛べるようになるわ」

「もう振り落とさないでくれるといいけど」

「え、そんな目にも遭ってんの?」

 ジェイマーが笑った。

「だから、前は本当に酷かったんだって」

「今は大丈夫よね。こんなにいい子だもの」

「ギャウ」

 今晩の調理担当のシェマはパンパンに張ったマグマの腹を嬉しそうに眺めていた。

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