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神の鎖

「ドラゴンは魔力を吸収する能力が特別高い生き物なのよ。大気中の魔力を吸うだけで生きられるの。」

「食べないのか? 肉も野菜も?」

「食べないわ。口から摂取するとすれば、戦闘の後に回復薬を飲ませることがあるくらい。そもそもドラゴンに食欲は無いはずなんだけど」

「…おい、どうなってるんだお前」

「ギュ…」


 ドラゴンは物を食わないだって? 今この時も俺の膝にどうにか座らせているマグマは皿の上の焼き魚を涎を落としながら見つめているというのにか?

「食ったらどうなる?」

「どうかしら。マリーは食べたことないし…。前はどうだったの?」

「前は…普通に……勝手に飛び回ったり……走り回ったり……暴れまわったり……」

「それってさ、摂りすぎた魔力を消化する為だったんじゃないか?」

「それは有るかもしれないわ。許容オーバーの分を発散させていたのかも」

「…だったらなんで食うんだお前」

「ギュゥ……ゥゥゥ」

 前のめりなマグマは首を伸ばせるだけ伸ばし、今にも魚にかぶりつきそうだ。

 鳴き声の切なさにシェマが白旗を上げた。

「すごくかわいそうだわ」

 さっき止めた本人が今度は食わせてやれとけしかける。

「俺が悪者?」

「まぁそう見えるわな」

「暴れると言っても人を襲うわけじゃないんでしょう? なら…」

「でも……」

 食わなくてもいいなら食わないでほしい。

 生まれ変わった今なら、躾で何とかなるかも……

「もう無理! 見てられないわ!」

「あ」

 悩んでいるうちにシェマが串焼きの魚をマグマの口に突っ込み、シュルッと串だけきれいに抜き取った。つまりは、魚はもうマグマの口…いや、腹の中だ。

 

 一度食べると止まらない。マグマは俺の腕から強引に抜け出し、残っていた食べ物を片っ端から平らげた。

「ピギャルルルァ!!」

 そして野性的にすべてを食らいつくした小さな深紅のドラゴンは、声が高めの懐かしい叫びを辺りに響かせてどこかへ飛んで行った……。


「…なに?」

 シェマが呆然とマグマの飛んで行った方向を見上げている。

「いつも通りのあいつ」

「……」

 ジェイマーは苦そうな笑い顔を向けてきた。


 暫くしてもマグマは帰って来ず。

罪悪感に駆られたシェマがマリーに乗って探しに行ってくれた。

 戻ってきたマグマは飛び去った時より綺麗になっていた。

「マリーがまた火を吹いて…川で洗ってきたわ」


 その日の夕食は交代でマグマを抑えつつという不便極まりないものだった。

 抑え込まれながらも切なく訴えるドラゴンの鳴き声にシェマは苦しみつつも耐えた。

「あ、そうだ」

 全員が食べ終わる頃、ジェイマーが思い立ったとアピールの声を上げた。

「これ、使えるかも。試してみるか?」

 そう言って自分の荷物の中から引っ張り出してきたのは、太い鎖だった。

「これは?」

「うちの技工士が作った試作品なんだけどさ、俺達にはちょっと…なんだよな」

 それを見たシェマが微妙な顔をした。

「魔力甕の容量がいっぱいの時に自動的に魔力がこっちに流れて保管が出来るという便利なものなんだけどね」

「自分の許容量と同じ分の魔力が貯められるんだ」

「すごいじゃないか。なんで付けないんだ?」

「持ってみろよ」

 ジャリ、と手渡された鎖は異様に重かった。

「特殊な鉱物を使ってるそうよ」

「これの一番の難点は四六時中素肌に付けてないと貯めた魔力が外に逃げちまうとこなんだ」

「へぇ?」

「その感じ、全然わかってないな! 寒いとこ行くとめちゃくちゃ冷たくなるんだよ!」

「暑い所だと火傷するんじゃないかと思うくらい熱くなるしね」

 なるほど。利点以上に扱い辛いのか。

「その点ドラゴンなら温度を感じないし、これくらいの重さも大丈夫だろ」

 シェマがマグマを抑えてくれているので、俺がマグマの首に鎖を掛ける。首の太さに合わせて留め具で長さを調整する。大型の犬が付けられている首輪みたいだな。……この世界では愛玩動物も魔物か? ドラゴンも魔物だし、共存出来る魔物と出来ない魔物の線引きってどうなってるんだろうか。

「似合うじゃないか」

 提案したジェイマーが満足気だ。

「あとはドラゴンでも効果が出るかよね。もしまた暴走してもさっきの程度の暴走なら私たちで止められるわ。食べさせてみましょう」

 シェマが手を放すと同時にマグマは残っていた猪肉に飛びついた。

「美味しそうに食べるのよね…ほんとに可愛いわ」

 どちらかというと野生的な食べっぷりだと思うのだが。

「世の中のドラゴンがこんな感じで飯食いだしたら大変だろうな。一気に食糧難だ」

「そうか、普通のドラゴンが重宝されるのは食べ物の心配がないからなのか」

 ルイスを飼っていた頃はドラゴンなんて魔物対策くらいにしか役に立たないのにと思っていたが、そうではないんだな。

 大きい猪肉が皿から消えて大きなブドウにかぶりついた頃、マグマの首元に異変が生じる。

「光ってる」

 鎖が淡い光を放ち始めたのだ。

「魔力が流れ込んでいるわね」

「魔力が溜まっていくにつれて鎖の色が変わるんだ。いっぱいになると赤くなる」

 ジェイマーが説明しているうちにも白い光は徐々に淡い桃色に変化していき、赤になる前にマグマは満足したようで食べ物から離れた。

「3割くらいか」

「異常行動は……しそうにないかしら」

 暫く観察していたが、マグマはじっと見つめる俺たちを不思議そうに見つめ返してくるだけだ。

 朝のように叫んだり逃亡したりという雰囲気は見えない。これは……

「成功じゃないか?」

「そうかな?! そうだよな! やったぞマグマ!」

 大人しいマグマに抱き着いて喜ぶ。

「良かったわ」

 シェマもホッとした顔を見せた。

「ありがとう二人とも! すごいよ! ほんとにすごい!」

「礼なら作った本人に会った時に頼むよ。俺らも使い道があって助かった身だしな」

「わかった。早く行こう!」

 俺は一刻も早くこの素晴らしいアイテムを作った神に感謝の気持ちを伝えたかった。



 マリーが荷物とシェマを乗せて飛び立つ。先行して次の休憩場所を準備する為に別行動だ。

 俺とマグマとジェイマーは徒歩で森を抜ける。途中で遭遇した兎や猪、オオトカゲ等を的に弓の精度を上げる。

 それにしてもマグマが俺の言うことを聞くし飛び回らずに大人しく付いてくる。鎖の首輪が効いているのもあるだろうが、おそらくマリーの功績だ。

 生まれたての方が懐くと卵売りも言っていたし、やはり素直に吸収できる小さい頃に色々勉強させるというのは大事なのかもしれないな。

 マグマは歩きながら火を吐く練習をし始めた。ルイス時代には一度も火を吐くところは見なかったのに。これもマリーの影響だろうか。

「すごいなマグマ。どんどん上達してるぞ」

「ギャウ!」

 褒めてやると嬉しそうにもっと頑張ろうとする。

「子供みたいだな」

 ほほえましい…と思って見ていると

「あんたも見た目は子供なんだぜ?」

 と、こちらもほほえましく見られていたようだ。


 森を抜けてすぐの場所でシェマが待機していた。マリーは見当たらない。

「おつかれー」

「問題なかったみたいね。ルイスは? 疲れてない?」

「平気。それよりマリーさんは?」

「この先の丘で待機させているわ。この森よりも好戦的な魔物がいるから今度は短剣を使うところを見せてくれる?」

「了解」

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