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新しい名前

 早く寝た分早く目が覚めた。二人はまだ寝息を立てている。そっとテントから出たが、正面に陣取っていたドラゴンには気づかれた。

「おはよう、マリーさん」

 昨晩聞いたシェマのドラゴンの名前は、前世で連れ添った人のうちの一人と名前が一緒だった。

 そう言えばどこか彼女に似ているような…それはさすがに彼女に怒られそうだな。

 けどそんな事だけでも一気に親近感が湧くものだ。俺はマリーの顔の方へ近寄った。

「昨日はありがとう。これからもよろしくな」

 大きなマリーの鼻先を撫でる。マリーは大人しく撫でられてくれた。

 

 彼女の両前足の間に卵が置かれていた。誰かが置いたのか、マリーが運んでくれたのか。

 俺はマリーの懐にしゃがみ、卵を抱き上げた。

「お前もマリーさんみたいに賢いといいなぁ」

 これは対比で思い出されるルイスがいてこその願いだ。

 まぁ、あのバカもバカで可愛いところもあったが。

「お前の名前はどうしようなぁ」

 生まれたらすぐに付けるようにと若い卵売りは言っていた。

 今まで関わったことのある名称とは一緒にならないようにしないと、どんどんややこしくなるから気を付けないとな。

「短くて呼びやすいほうが良いよな。オイ、とかナァとか」

 呼びかけたときに他にも何人か振り向きそうだ。

「ドラゴンだからドラゴとかラゴンとか……」

「ダサいなー」

 テントからジェイマーが顔を出した。

「カッコいい名前つけてやれよ。アレキサンダーとかネオシュナイダーとかエクストリームとか」

「それがカッコいいかどうか私には疑問なのだけど」

 続けてシェマも出てきた。

「えー? カッコいいだろ?」

「私がその名前のドラゴンだったら呼ばれても恥ずかしくて反応しない」

「えー? カッコいいだろ?」

 ジェイマーは自分のセンスを否定されて不服そうだ。

「マリーさんの名前はどうやって決めたんだ? なにか由来があるのか?」

「この子は同じ色の花の名前から取ったのよ」

「花か…色をそのまま名前にするのもありだな…と、……。ん?」

「どうした?」

「中が動いてるみたいだ」

 卵の殻の内側が衝撃を受け、俺の腕にもそれが伝わってきている。

 シェマが卵に触れ、振動を確認した。

「もう少しで生まれるのかもしれない。食事の準備は私たちがするからルイスはその子を見ていてあげて。急いて割ったりしちゃだめよ」

「わかった。ありがとう」

 2人は森の中に入っていった。


 俺はマリーの正面に卵を抱えて座り直した。マリーも興味があるのか、視線の高さを合わすように顎を地面に付けるように伏せ、卵をじっと見ている。

 卵は細かくコツコツと色んなところから音を立てる。出たくて仕方がないみたいに。

「がんばれよー」

 コンコン、と爪で卵を叩いてみる。中の動きが止まった。驚かせてしまっただろうかと不安になったが、その数秒後、同じ場所を内側から叩き返されてほっとする。

 それからはその場所だけを集中攻撃しだし、衝撃も強くなったように感じた。

 しばらく音は続き、そのうちガリッ、と今までと違う音がした。

 それを聞いたマリーが顔を浮かせ、色んな方向からのぞき込むようにする。

 ガリッ、ザリッ、と削るような刺さるような音がして、ついに殻の一箇所にヒビが入り僅かに穴が開いた。

「おおっ、よし、もうちょっとだぞ」

 こんなに頑張ったんだからもう割って出してあげても良いような気もするが、敢えて見守るのも親心。

 …シェマに言われていなかったら穿り出そうとしたかもしれないが。

 それでもじっとしていられず、狙わせたい場所を俺が外からコンコンと突くと内側からコンコンと突き返してくるのを繰り返した。少しずつ一本のヒビが横へ延びていく。

 ヒビが一周しきる前にコン、と突いた殻の蓋が僅かにずれ、中で悪戦苦闘している子の色が見えた。


「……」


 別に色には拘ってない。マリーのようなオレンジも綺麗だと思うし、黒は強そうだし、白だって神聖な感じがしていいと思う。

 けど。

 前足で殻を押しのけて顔を見せたドラゴンの赤ん坊は、見慣れた深紅だった。

「まさかお前……」

「ピギャー」

 赤ん坊は元気に鳴いた。

「…俺を覚えてるか」

「ピギャー」

 赤ん坊は小さな翼を広げて元気に鳴いた。

「だよなー…。あー、お前かー」

 俺は後ろに倒れ込んだ。腹の上の卵から赤ん坊が這い出て俺の顔の方に寄って来ると、顎をカプリと噛んだ。

「痛ーっ、何するんだよもうっ、別にお前が嫌だって言ってるんじゃないっての」

「ギャウ」

「ほんとだよ。なんていうかなー……お前じゃなかったら良いなと思ってたんだよ」

 あの時魔物に喰われて死んだ俺。その後どうなったかは分からなかった。

「お前もやられちまったと思ってはいたよ。でもさ…お前なら生き延びてくれたかもって、そうも思ってたんだ」

 俺の事を乗せて飛んでいたルイスが、今は俺の腹の上に乗っている。

「ごめんな、置いて行って。また俺と一緒でも良いか?」

 ルイスは俺の顔をじっと見て、さっき噛みついた俺の顎を今度は舐めた。

「うわ、やめろよルイス! お前が優しいと変な感じだっ、ルイスッ!」

「スゲー色だな。初めて見た」

 俺たちは同時に声のする方に顔を向けた。

 大量の食材を抱えたジェイマーとシェマが揃って戻ってきたところだった。

 ジェイマーは昨日俺が釣ったものより大きな魚を切株の上に放り投げ、こちらに寄ってきてルイスを観察し始めた。

「それよりルイス、あなたその子をルイスと呼んでいたの?」

「あー…そっか、どっちもか」

「?」


 俺にしてみればルイスと言えばこのドラゴンなんだが、親からもらった名前を無断で変えるのは宜しくないだろう。

「ルイス、悪いんだけどお前の名前を変えてもいいか?」

「ピギャ」

 腹の上でポーズを決めながらルイスが返事をする。

 噛まれなかったということは、嫌がってはいなそうだ。

 ここはマリーのように色から連想してみようか。

 赤。

 花の名前だとこいつの性格に合わなそうだ。赤いものといえば

「……果物、肉、血、夕日……」

 敢えて口に出してみたが、周りの大人たちの反応がいまいちだ。

 他に赤いもの赤いもの……

「……マグマ?」

「ピ?」

「マグマってどうだ?」

「ピギャーッ」

 バサバサッと羽ばたいて浮いたドラゴンの赤ん坊。

 うん、喜んでるっぽいし、割と良いんじゃないか? 沸いてる感じもコイツに合ってるし。

「マグマ」

「ピギャー」

 呼ぶと一声返事のあと、くるりと宙返りをした。そして再び俺の腹に乗る。

 そしてまた舐めてくる…。

「あーもう、だからそれはやめろって」

「良いじゃない。好意だもの」

「ドラゴン使いの素質あるんじゃないか?」

 俺はマグマの気が済むまで舐められ続けた。

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