出立
別れを惜しんで、みんなが揃って俺の家までついてきてくれることになった。
どこに行くんだとか何しに行くんだとかいろいろ聞かれて、大体の事にまだわかんない、と答えた。
それでも村から出たことがない退魔師に自分の友達がなるのだと、子供たちははしゃいでいた。
家へ続く道に戻って来ると、家の前でアレクシスとエマルダ、ハーリーと…他に2人、見たことない若い男女が会話しているようだった。
その輪の中で一番初めにこちらに気づいた若い男が、大きく両手を上げてアピールしてくる。他の大人たちも気づいて、俺たちが歩いて来るのを待っている。
「ただいま」
「おかえりルイス。もう来たぞ」
アレクシスが促すと男女が一歩前に出た。さっきからバカに明るそうな弓を持った男と、軽い金属で出来ていそうな鎧を着ている凛とした女性。その後ろにはオレンジ色のドラゴン。
「よろしくルイス様。俺は弓使いのジェイマー、で、こっちはドラゴン使いのシェマ。名前が似てるからって俺たちよく組まされるんだ」
「初めまして、ルイス様」
「……よろしくお願いします」
俺は一刻も早く呼び方を訂正したかったが、別れの場面だしと思って抑える。
「メルシア様からはあんまり詳しく聞いてないんですけど、とにかく安全に鍛えつつ合流するようにってことなんで」
「ご子息様は私たちがお守りします。ご安心を」
「よろしくお願いします。最悪、母は見殺しでも良いのでルイスだけは守ってください」
エマルダが頭を下げ、二人は半歩後ろに下がった。
「は、はぁ…承知しました…」
「ルイスにーちゃん、あの人たちと行くの?」
ダリアがコソっと聞いてきた。
「そうみたい。なんか賑やかそうだな」
「あの女の人、すごく美人さんだね。いいなぁ…」
「ダリア、ああいう人になりたいのか?」
「え? うんとねぇ…」
「? …何か?」
自分に視線が集まっていることに気づいたシェマが、俺たちに高さを合わせる為に膝をついた。カシャン、と鳴る鎧の音が涼やかだ。
「ダリアが…この子がね、シェマさんの事を…」
「あのっ、あたし、のっ…」
目の前に来たシェマに勢いづいたのか、ダリアがグイっと前に出た。
「はい?」
「あたしのママになって欲しいっ!」
「えっ」
真剣な訴えが直撃したシェマはパチパチと何度か瞬きをし、ダリアを見つめ返した。
「こらこらダリア、無理言っちゃだめだろうが」
慌ててハーリーが娘を回収に来る。
「でもパパ、あたしママが欲しい! この人が良い!」
「良いったって…すいません、親子そろって美人に目がないもんで」
「えっ、あっ、美人なんてそんなっ…やだ、どうしよう」
シェマはみるみる顔を赤くし、さっきまでの涼やかさはどこかへ追いやってしまい、オロオロとしている。
「ダリア、残念だがこういう若くて綺麗な人がこんな田舎の大工のオッサンのところへ来てくれることはないんだよ」
大きな手でダリアの頭を撫でて落ち着かせようとするハーリーだったが、ダリアの興奮は一向に収まらない。
「パパは素敵よ! パパの事好きですかっ?」
「ええっ…そんな、好き、とか、あの、えっと…」
「もう、お姉さんを困らせちゃだめだろ」
「わ、私も素敵だと…」
「…は?」
「あの、でも私、今は退魔のお仕事があるので…でも、待っていただけるのでしたら、ぜひ善処したいと…」
「なんてこった、でかしたぞダリア!」
ガバッ、とダリアを抱き上げ、自分も回りながら上下左右に娘を振り回す。娘は恐がることもなく上機嫌な父親を見て理解したのか、振り回されながらもシェマに確認する。
「ママ? もうママ?」
「えっと、さっさとこの任務終わらせたら仕事辞めてくるので、もうちょっと待っててくださいね」
「うん、ママ!」
「おお…なにこれスゲぇ急展開」
ジェイマーがあっけにとられている。
彼だけではない。その場にいた全員が言葉も出せない程に驚いた。
「えーっと、じゃあ…行く?」
魔法書や大きい荷物をシェマのドラゴンに積み込み終えて、別れを惜しむ親子(俺じゃない方)に遠慮しつつジェイマーが声を掛けた。
しかし反応が無くて、若干ムッとした顔をしながら大股で三歩近づき、視界に割り込むように二人の間で手をひらひらさせる。
「シェマさーん? 聞いてますかー?」
「えっ、ええ、聞いていますとも。もちろん。随分準備に手間取ったのね」
「いや、お前待ちだったんだけど? …まぁいいや」
ジェイマーが俺をひょいと担いで、ドラゴンの背にまたがらせてくれる。
このドラゴンにはカゴも何も付いていなくて、荷物は長い帯で胴体と一緒にグルグル巻きにして固定した。
破損の心配のある卵だけ俺がしっかりと抱きかかえ、それを固定するためにジェイマーが俺を抱きかかえる。大丈夫だろうか。
最後にシェマが俺達より前の位置に乗り込んで、首元を撫でるとドラゴンが立ち上がる。
「それじゃ、お預かりしまーす」
「行ってきます」
「すぐに戻って参ります」
「気を付けてね、無理だったら戻ってきても良いのよ」
「頑張っておいで」
「行ってらっしゃいママ!」
ドラゴンはゆっくり上昇し、太陽の方角を向いて飛行し始めた。
地上の人たちが手を振るのが見えたけどそれもすぐに点になり、その点すら見えない距離になったので前を向く。
「やっぱ泣かないんスね~」
風を切る音が左耳だけやんで、代わりにジェイマーの声が聞こえる。
「ま、誰かさんのせいでそんな雰囲気でもなかったけどさー。5歳設定にしてはやっぱ擦れてるっスよね」
「…どこまで知ってますか?」
「グレイス様んとこであったことは殆ど知ってるはずっスね。便箋何十枚もの束をメルシア様が音読してくれたんで。なので、フリはしないでオッケーっス。敬語とかも要らないんで」
「そうか…面倒を掛けて悪いな。こっちらも呼び捨てで頼む。気を使わないでくれたほうが気が楽だから」
「そりゃ助かる。ルイス、でいいか? もしかして他にも名前あったりする?」
「今はルイスだからそれで。それよりどこまで飛ぶんだ? このままじゃ俺の経験値が上がらなくないか?」
「もうすぐ魔物がいるとこに降りて、そこからはしばらく徒歩だ」
そう言っているそばからドラゴンが高度を下げ始めた。眼下には森が広がっている。
「ジェイマー、中ほどに木の生えていないスペースがある。そこで良いか?」
「オッケー、よろしくー」
シェマがドラゴンに指示を出し、降下のスピードが更に加速する。ずり落ちそうな間隔に思わず体が強張る。ジェイマーがそれに気付いて更にしっかりと俺を抱きかかえてくれた。
「もしかしてドラゴン苦手? スゲー顔してるけど」
「…懐かしいなと思ってるだけだ」




