メタルチャーム
「お肉お肉~」
効果を付けないチャームは一時間もかからずに出来上がり、もうルイーズの手首で揺れている。
「食べちゃダメだぞ」
「分かってるもん。…ねぇササ見て見て! お肉~」
「ホントだー。骨付きだねー。似合ってるよー」
「オザダ~」
「……ああ、良いと思う……」
腕を振り回しながら工場の中を練り歩き、一人ひとりに見せびらかしている。
「ほら見て見てキン~、エク~、良いでしょ~」
「よくわかりません」
「よくわかりませんね」
「むー! 他のコ達に見せてくる!」
二人の返答にへそを曲げたルイーズはわざとバタバタと音を立てて庭へ走って出ていった。
「キンさんもエクも正直だな」
次に寄ってこられそうだったアデギウスがスルーされてちょっとだけ寂しそうだ。
「わかりませんでした」
「ボクもです」
俺もだ。
「けどああやって見せられたらセシルも欲しがりそうだなぁ」
「それはマグマもだと思う」
と言っているそばから工場の壁の向こうでドラゴン達が騒ぐ声が聞こえてきた。
そしてドラゴンの足音、と……。
「フィリーア! 俺も肉のやつ欲しい!」
「俺は肉じゃないやつが欲しい! カッコいいの!」
「フィリーア様、私にもよろしいでしょうか。出来れば『ペガサス』という生き物を……」
「あら、ガララまで?」
ドラゴンが騒ぐのはフィリーアも想像していたようだが、ガララまで一緒に走ってきたのには思わず笑ってしまったようだ。
「良いわよ。じゃあご主人達、責任もってデザイン画を提出してね」
「えっ?!」
「マグマはルイーズママとおんなじが良いのよね? だったらすぐに作ってあげられるよ」
「やったー!」
「おそろい~」
マグマとルイーズは作業を始めたフィリーアの正面を陣取って嬉しそうに眺めている。
それを見てセシルたちが焦りそれぞれの相方へ詰め寄る。
「アデギウス! 俺も欲しい! カッコいいヤツ!」
「セシルの思ってるカッコいいヤツってなに?? 」
「オザダ、お願いします」
「俺は……絵が得意では……」
一気に工場内が賑やかになる。
キンはその様子を黙って見つめていた。
マグマの首輪にルイーズと同じ骨付き肉チャームが取り付けられ、ガララにはオザダの描いた絵を俺がちょっとだけ調整したペガサスがロッジャルの隣に。幾ら聞いても『カッコいい』の中身が出て来なかったセシルにはアデギウスの案で王冠の形のプレートが竜具の金具部に付けられた。
付けてしまえば自分では見られない場所なのに、みんな嬉しそうだ。
「キンちゃん」
フィリーアがキンの前にやってきた。
「要らないかもしれないけど、受け取って」
「これは…………」
キンの前に差し出されたのは、蝶の形をしたチャームが二つ。
「ジェイマーから貰った飴細工が壊れちゃったとき悲しそうだったから。もう一つはエクに」
「貰って良いのですか?」
受け取った蝶を見つめるキン。なんとなく目がキラキラしているように見える。
「あ、でもキンちゃんよく溶けちゃうから身に着けると取れちゃうかな?」
「もう変化しません」
「それはそれで助けて欲しい時に困るかも。お洋服に付けられるようにピンにしようか?」
「はい!」
「ボクはすぐに大きくなるので幹に巻いてもらいます。それまではお母さんが持っていてください」
「はい!」
「了解、二つとも加工するね~」
喜んでいる魔物たちを見てフィリーアもとても楽しそうだ。
「手にした人の反応が直接見えるのって良いよね」
「ディノーさん」
食事を作るために外していたディノーが大皿を抱えて戻ってきたところだった。
「うちの村にもお客さん一人ずつの対応をしてると製作の時間が削られちゃうって嫌がる人もいるけど、販売を店に任せちゃうとお客さんの反応が見えないじゃない? 俺は直接注文貰って出来上がったら自分で納品したいタイプなんだよね」
「ああ…話好き……」
「そうそう! お客さんの所に行くとついつい関係ない事で長話しちゃってね」
行商時代もリェリアンナはよくお客さんと話し込んでいたな。俺だけでは見向きもされなかったのにリェリアンナと歩くようになったことで常連になった客は何人もいた。客商売は品物の良し悪しだけじゃないなと思ったものだ。
「ところでアデギウス、防具の修理に材料が足りなそうなんだが」
「え、じゃあもう一回山行き?」
声を掛けられたアデギウスがセシルを収納しながら振り返った。
「ああ、でも今度は地下だ。どうする?」
アデギウスはいま装備がボロボロだ。
「俺が行こうか」
「叔父さんが出かけたら作業が進まないじゃないか」
「武器の修理はお前がやればいい。良い機会だから練習してみなさい」
「俺が?」
「作るときに見ていたんだから工程は分かるだろう。」
「そりゃまぁ……」
「フィリーアさん、すまないが片手間で構わないからこいつの事を見ていてくれないか」
「わかりました。変な動きをしたらすぐにキンちゃんで固めます」
溶接の手を止めることなくフィリーアが答えた。
「一人で行くんですか?」
最初にディノーが荷車を引いて山から出てきたのを忘れたわけじゃないけど、聞いてみる。
「ああ、いつものことさ。夕食の準備には間に合うように戻るよ」
昼食後にディノーは素早く支度をして山へ向かった。
「手伝わなくて良かったんだろうか」
オザダはずっと声をかけようかどうしようかとソワソワしていたが結局話しかけられず、本人がいなくなった工場でまだウロウロしている。
世話になってばかりいることに気が引けるんだろう。
「でもさー、慣れないパーティーだと逆に足手まといになっちゃうかもだよー」
ササはディノーが置いて行った紅茶とバウムクーヘンでまったりしている。
「叔父さんは強いから平気だよ。………フィリーア、なんか俺の構え変じゃない?」
「え? あー変かも。あ、指のかけ方だよ」
アデギウスは炉の準備をしつつ工具の扱い方を確認するのに忙しく、フィリーアは工場の中の工具を物色し、どれから試そうかと楽しそうだ。
最後にオザダは俺の方を見た。
「俺は山に入れないし」
「そうだったな……」
俺達二人は工場にいても何もすることが無く、とりあえず村を歩くことにした。
が、ライザの騒動の時にかなり村の中を行ったり来たりしていたせいで特に目新しい発見も無く。
昼を過ぎたばかりの村は静かで、ただただ暑い。
道の傍らに流れる水路の綺麗な水の誘惑に打ち勝てず、俺は縁に腰を下ろして靴を脱いで足を入れた。
「おおお…」
山から流れてくる水は冷たく、一瞬で体温を下げてくれる。
「オザダも入りなよ。気持ちいいぞ」
「…そうか」
少しの間があったものの、オザダも俺の横に座った。
「ロディに聞かれた時すぐ村に残るって言ってたから何かやりたい事があるのかと思ってた」
「……ないわけじゃないんだが改めて考えると……」
そう言うオザダはチット山をチラチラ気にしている。
「ひょっとして山に行きたいのか?」
「…………」
「珍しいな。黙秘?」
「い、いや…何と言うか、その為だけに単独行動するのも誰かに同行を頼むというのも……」
この躊躇い方はもしや……
「前世案件?」
またなにか必殺技でも思いついたんだろうか。
「……はっきりは分からないんだが、見かけた魔物が気になっていてな…」
「なに? その時に倒さなかったのか?」
「進行方向とは真逆で遠かったし向こうも気づいていない様だった」
「ふぅん? で、何を見たんだ? 教えてくれたらわかるかも」
「木の枝の隙間から見えただけではっきりしないんだが黄色い尾が長く垂れ下がっていたんだ。その色が見覚えがあるような無いような……」
黄色の…尻尾? 猿のゲームか?
霊長類がキャラクターになってたものは幾つもあったけど……黄色?
「何だろうな。落ちてくる果物をキャッチしてジュースを作ってお客さんに売るのとかはやった事あるけど普通に茶色かったし…違うよね?」
「あまりピンと来ないな」
だったら……と記憶を呼び起こそうとしているときだった。
ドオオ……!!!
雷のような地響きのような……大きな音と一緒に空気が震えるのを耳と肌に感じた。




