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芽吹き

「俺、将来的には勇者としてやっていきたいって思ってるからさ、接近戦にもある程度強くなっておきたい」

「剣をマスターしたいのかい? それはそうか、弓使いの勇者なんて聞いたことがない」

 一瞬にしてジェイマーがピリっとした空気を纏う。

「……あくまでもメインは弓だ」

「なんだって? 君は仲間だけを危険な前に立たせて勇者だと威張るつもりなのかい?」

「そうは言ってねーだろ!」

「言っているようなものだ。では君のなりたい勇者とは? 半端に剣を覚えて何がしたいんだ? 全滅しそうな時に我が身を守って逃げるときのためか?」

「ちょっとー、やめなよー」

 ササがロディを止める。

 けど、止まらないことは分かっているようだ。

「無駄によそ見をしてないで自分の弓の才能を伸ばすことを考えたらどうだ?」

「無駄ってなんだよ」

 ジェイマーが後ろに椅子を倒して立ち上がった。

「そうだろう? 君が勇者になったとして、本当に仲間を統率出来るのか? 的確な指示を出せるのか? 傷ついた仲間の窮地に自分が壁になれるのか?」

 冷たい言葉がジェイマーに次々と浴びせられる。

 ジェイマーが拳を握り、震わせた。

「………そんなの…」

「ジェイマー…だめだよっ…」

 フィリーアがその手を抑える。

 が、軽く振りほどかれた。

「そんなの、お前だって出来ていないだろうが!!」

「何だと?!」

「自分の信頼の無さを棚に上げてよくそういうこと言えるよなぁ?! お前のどこに統率力があるって?!」

「ジェイマー!」

 殴りかかりそうな勢いのジェイマーを今度はオザダが止める。

「勘違いしてんじゃねーぞ……お前みたいな頼りない奴が頭の団なんてな、メルシア様がいなかったら最初っから入る気無かったっつーの!」

「っ!」

 バシン、とテーブルを叩いてロディも立ち上がった。

「やめときなよー、言われたこと全部事実でしょー?」

 ササはクッキーに両手を伸ばした。

「……」

 サクサクサクサク…と軽い音をさせながら口の中いっぱいにクッキーを詰め込んでいくササ。

 緊迫感を削ぐササのその様子を見たロディから、フっと力が抜けた。

「俺が気に入らないから自分で勇者になるのか」

 威圧的な物言いだったのが少し緩んだのを感じているはずだが、ジェイマーのほうはまだ興奮が冷めない。

「当てつけとかそういうのじゃねぇ! 俺はずっとロロック様みたいな後世にも憧れられる勇者になりたいと思ってきたんだ!」

「このチームから抜けたいわけではないのか」

「俺そんな話してねーよな?! 俺は俺なりにこの団には愛着を持って…正直、夢は夢のまま、ずっとこのメンバーで旅していくのも良いんじゃねーかと今も思ってるよ!」

「なんだ、だったらそれでいいよ」

 ロディは自分もクッキーを手に取り、ストンと着席した。

「……は?」

 呆気にとられたジェイマーが脱力したのを感じ取り、オザダが離れる。

「ジェイマーが勇者、メンバーは一緒。良いじゃないか」

「は?」

「そういうことなら試験の期間はそれぞれ強化に勤しもう。ジェイマーのように他の職業を学ぶのも良いかもしれないな」

 急に機嫌が戻ったロディにジェイマーも他のメンバーたちも何も言えなかった。

 ササは何事も無かったかのようにクッキーを美味しそうにほおばり続けた。


「え。そんなことがあったの?」

 ライザの旅立ちを見送って帰ってきたアデギウスに先ほどの二人の様子を伝える。

「それで……ロディたちは?」

「ルイーズとマグマを連れてあいつ等が食うための魔物を狩りに。オザダもガララを走らせるためっていう口実で同行して、あとはササの代わりにカラビウが念のため魔法要員」

「そこはササは行かないんだな」

「うん、そんな暇はないらしい」

「へぇ……」

 工場には残りの全員が揃っているのに、人数の割には静かだった。

 ディノーがロディから依頼された家具の脚の製作に取り掛かり、ジェイマーは弓と矢のメンテナンス。フィリーアは俺が頼んだレリアリの変化制御のアイテムについての構想を練っているところ。キンは鉢を見続ける仕事が忙しそうだ。

「あそこに二人くらい暇そうなのがいるけど」

 レリアリとササの二人は窓から陽の差し込む位置にわざわざ椅子を運んでいって腰かけていて、まったりと日光浴中だ。正反対な出で立ちの二人が並んでいるのは少し不思議な光景に映る。レリアリはアレだけどササは日焼けとか嫌がりそうなのにな。

「暇じゃないよー、虫干し中なの~」

 それって服とか本とかがやるもんじゃないのか?

「あったかーい……生き返る~…」

 ああ、こっちは解凍したてだから体を温めているのか。

 アデギウスが近くの椅子を二つ運びだし、ササの隣に並べて置いた。

「ササはロディのこと心配じゃないのか?」

「何がー?」

 ササの隣にはアデギウスが座ったので俺はその隣に座る……と、アデギウスの鎧が日光を反射させて眩しい。椅子の位置を微調整しつつ会話を聞く。

「ロディが人の事悪く言うのって珍しいじゃないか」

「そうでもないよーいつもいつもー」

「そうなの? それってなんで?」

 ササは、ふぅ~……と長いため息を吐いた。

「…自分から離れて行こうとする相手に威圧的になるの。逃げていくのは自分に非があるからなんじゃないかっていう思い込みがあるから、どうにかしてマウントを取ってそれを否定したがるのよね」

「ロディは自信家なんだと思ってた」

「普段はね、そう見せてるの。退魔団のリーダーでSSランク、家柄が良くて自由に使えるお金もある。見た目だって悪くない。余裕ある素振りで振る舞って、自分に言い聞かせてるの。『大丈夫』って。何かある度に直ぐに化けの皮が剥がれちゃうから全然板につかないんだけどね」

 ササがロディへ勇者になることを勧めてこの退魔団を作った。

 連れ出さないといけなかった何かがあったのだろうか。

「ちょっとしゃべりすぎたかもー? これ以上は言わないからねー」

 ササはハンカチを取り出して自分の顔の上に広げて隠れてしまった。

「分かったような分からないままのような……」

 そう首を傾げたアデギウスと目が合う。

「要するに極端な寂しがりってこと?」

「アデギウスが抜けるって言ったら俺らも同じくらい怒るかも」

「え、なんで?」

「ロディと添い寝するのを嫌がらない人材は貴重だもん」

「必要とされてるのってそこだけ?!」

「これからもロディのことよろしくねーアデギウスー」

 物づくりの音が響く工場での日向ぼっこは思いのほか気持ちが良かった。



「緊急連絡ですっ!!!」

「?!!」

 耳の中で叫ばれたのかと思うほどの大声に驚き、俺は椅子から転がり落ちた。

 その上にアデギウスが降って来る。

「グェ……お、重……」

「びっくりしたぁ……なに?! だれ?!」

 ササは転がりまではしなかったらしいが声が上ずっていた。

「ボクです」

 まどろみの中にいた俺たちを突然呼び覚ましたのはキンだった。

 倒れた俺の横にしゃがんでいる。

 そしてその横にはフィリーアも同じ格好でこちらを見ていた。

「な……なに?」

 俺が聞くと、スス…、と傍らの鉢を前に差し出してくる。

「見てください。新しい仲間です」

 見る前から不安が全身を駆け巡る。

 そしてフィリーアを見上げると、ただただ満面の笑顔を浮かべている。

 俺はそっと顔を上げ、恐る恐る鉢の中を覗き込んだ。

 ……。

 ……ああ、やっぱりそう来たか。

 土の中から、出ている。

 茎が弧を描いて、小刻みに揺れているのだ。

 今にも二葉が土の中の種を捨ててこの世に飛び出してきそうだ。

「植えて何日だっけ……早すぎない?」

「キンちゃんが頑張ったからよ。ね~?」

「はい。頑張りました。」

 何度見てもフィリーアがニッコニコだ。これは実がついたら全部食い尽くす気だな。

「そういえばそれ、なんの芽なんだい?」

 ディノーが会話にだけ参加してきた。手元はやすり掛けの最中で、自分の作業を終えたらしいジェイマーがそれを手伝っていた。

「あれはっスね、ザワハっていう魔物の木なんスよ」

「ザワハ? 聞いたこと無いな。育てるの大変かな?」

 興味を持ち始めた植物好きがこちらをチラチラと見始めた。

「ディノーさん、危険なのでここでは育てられませんよ」

「この子は危険ではありません」

 即座にキンから訂正が入る。

 そして、

「キン子はとてもよい子です」

 生まれたばかりのその芽には、可愛くない名前が付けられてしまっていた。

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