単独行動
「空から落ちるのってめちゃくちゃ怖いんだって初めて知ったよ」
アデギウスが切り分けた肉をライザの皿に乗せる。それだけでもライザは嬉しそうだ。
「もしかして俺を殺す気だった?」
「えっ、そんなわけないでしょ。ちゃんと落ちても生存できるギリギリの高さにしたわ」
……本当だろうか。いや、本当だとしてもギリギリ生きてれば大丈夫っていう考えは回復魔法があるこの世界だからなんだろうけど…やっぱり怖い………。
「そうだよね、ディノーさん」
「そうだねぇ…セーフラインはあと80センチくらい下だったけどね」
「ダメじゃん」
ジェイマーが笑い、それを聞いたアデギウスは表情を引きつらせる。
そしてライザは当然青ざめた。
「危ないってわかってたのにどうして教えてくれなかったんですか?!」
ディノーは大したことじゃないといった様子で
「んー……仲間の皆さんが傍にいてくれてたからなぁ」
と答えた。それを聞いたジェイマーから笑顔が消えていく。そして、無言でその場から離れていった。
「照れたねー」
「そうだな。嬉しくて返しが思いつかなかったようだ」
「良い仲間に会えたんだなと思って見ていたよ。お前もみんなの為に頑張るんだぞ」
ディノーの言葉にアデギウスが頷いた。
「それとライザちゃん、皆さんの協力が無かったら大変なことになっていたんだからね。ちゃんと反省しなさい」
「はい……すみませんでした」
「すみませんでした」
ライザに合わせるようにアデギウスも頭を下げた。
「さぁさぁ、日も暮れてきたから食べ終わり次第片付けて帰るよー」
「はーい」
引率が板についてきたロディの号令。魔物たちが元気に返事をした。
「ルイス、そういえばレリアリさんが来なかったね? 何か用事でもあったのか?」
と言われて初めて一人足りないことに気がついた。
「いつからいなかったっけ…」
近くにいたカラビウと目が合ったが、お互いに首を傾げるだけだった。
「詰所の人たちに術をかけたところまでは確実だけど…工場に戻ってからは記憶がないなぁ」
うん、俺も大体そんな感じだ。工場までは一緒に戻ったけど、飯を食っているときからは見ていない気がする。
……まずい? まずい感じか……?
誰かに意見を聞きたくて見渡すと、オザダ…………の胸元のロッジャルに目がとまった。
「!!…………。」
俺の視線に気づき、不自然に目を反らす馬。こいつ、何か知っている。
「隠し事するならここに捨てていくぞ」
「な! 急に怖いこと言わないでくれよ! 俺、何にもしてないっしょ?!」
「レリアリがどこに行ったか知ってるんだろ?」
「やっだなー知らないよ~。ここに閉じ込められてる俺が知ってるわけないじゃん?」
普段よりも落ち着かない様子でもうバレバレだ。
「オザダ、悪いけどそれ廃棄でも良い?」
「構わない」
「えっ、あああ?!」
オザダがロッジャルを首から外し、猶予も与えずに川に向かってぶん投げた。
「あのさ! あのさ! もうちょっと駆け引きの会話を楽しもう?!」
「そういう話題じゃなかっただろ」
水の中から引き揚げた八面体はちょっときれいになっていた。
「水が澄んでるから居心地がいいだろ? ずっとここにいれば心もきれいになるんじゃないか?」
「もー、そういう冗談は笑えないッスよ……………ちょ、待って、言うから……言うから!!」
水面に少しずつ浸していくと、ロッジャルはすぐに降参した。
「別に聞いてたとかじゃないし、同族だから気配を感じるだけっスよ?」
「早く言え」
「…レリアリ様は村に残ってるぽいっス」
「何だ。村にいるのか……。……何のために??」
「だから知らないって…………なんか、スキル使ってるっぽいけど……」
「は?!」
スキルを使ってるってことは、村の中で黒馬の状態になってるってことか?!
「ごめん俺先に戻る! マグマ!!」
片付けの手伝いをしていたマグマを呼びつける。
「一人で大丈夫か? 俺も行こうか」
「ありがとう」
オザダもガララを呼び、首紐に八面体を取り付ける。
「この辺はさっきの勝負のせいで地面が荒れている。飛んでいこう」
「わかりました。行きましょう」
ガララは空を飛ぶのにももう慣れたようで、マグマに遅れをとることなくついてきた。
夕日の色に染まった平原を突っ切る。チット山もオレンジ色で綺麗だな。全然景色を楽しむ余裕がないけど。
村が近づいてくるとマグマがスピードを緩めた。
「どこに下りれば良いんだ?」
「ロッジャル!」
「えっ? いや、これ以上は分かんないってマジで。なんかもうスキル使ってる感じもないしさ」
「……仕方ない、とりあえず村の入り口に頼む」
「おう!」
村では仕事を終えた村人たちが前日と同じように外に集まり出しているところだった。
「こんばんは。今日はありがとうございました」
地図を見せてくれた男性を見つけ、声を掛けた。
男性は俺の声に振り返り、
「……こんばんは。でも『初めまして』じゃないのかい?」
と笑った。
「坊ちゃん、挨拶間違っちゃったか?」
近くでジョッキを握っているガタイの良い中年が更に豪快な笑い声を上げた。
「お二人さんで旅行かい?」
そう言ったのは昨日も同じようなことを聞いてきた人だった。
「……ディノーさんの所に用事があって」
村人たちの反応を見る。
「ああディノーの所か。アイツの工場はこの村の奥の方だ。誰か案内をしてやれよ…」
「大丈夫です、大体は分かるので」
酒を勧められて固まっているオザダを引っ張ってその場を離れる。
まだテーブルへ食事が運ばれてきていなかったのは運が良かった。
「さっきの人たち、記憶を消されてた」
「ナイトメアの仕業か? 何のために?」
「わかんないから早く見つけないと」
「あらぁー、もう帰ってきたのぉ~?」
「……」
手掛かりを探しに工場へ来たら、レリアリ本人に出迎えられた。
「あれぇ? 二人だけぇ? みんなはぁ?」
敷地の入り口に積まれている酒樽に背を預けて座り込み、手には酒瓶を握りしめている。
「禁酒って言わなかったっけ」
「これねぇ、お酒じゃなくて果物を発酵させたジュースだから、ジュース! ウヒヒヒ」
それを酒と呼ぶんだろうが。
「コレ、どうしたんだ」
「村のみんながくれたのー! 良いでしょ~ ヒヒッ」
「ルイス…まさか」
オザダが察した。多分そういうことだろう。
酒が欲しくて村人の記憶を消して操った……。
「そんなことのために…………アホかお前は!!」
「アホじゃないわよぉ~~だっ」
レリアリはうつろな目をしてまだ酒を呷る。
「……マグマ、冷凍。檻じゃなくていい。口から下全部だ」
マグマが言われたとおりにレリアリに冷気を吹き付ける。
「ん~??」
腕が強張って口元へ酒を運べなくなる。しかし酔っぱらいは何が起きているのか判断出来ずにされるがままだ。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だったら意味がない」
「…………」
「すずしー…………ウヒヒヒッ」
「マグマ、氷厚めに頼む」
その場をマグマに任せ、オザダとガララに未開封の酒を持ち主たちの所まで運んでもらう。
しかし、
「それは姉ちゃんにあげたもんなんだから返されたって困るってもんさ」
「要らねーならその辺の川に捨てちまいな」
と、受け取りを拒否されてしまった。
ここで気分を悪くさせるのも申し訳ないので、
「じゃあ他の仲間たちで飲ませてもらって良いですか?」
と結局持ち帰ることになった。
「こんなもん?」
戻ると、鼻の孔から下をガッチリ氷で固められた状態のレリアリが気持ちよさそうに寝息を立てている。
「いっそ残りも塞いでしまおうか」
「ルイス…ガララが怯えている」
!!
オザダの言う通りガララが震えている!
「ルイスさんは馬へ恨みでもあるのでしょうか…?」
「そ、そんなことないよ!」
「しかし馬への当たりだけ特に強いような…………」
「この黒い奴ら限定だから! ガララには絶ッ対に酷いこと言わないから!」
「出来ればこちらの方たちにも優しくしてほしいです。同じ馬としては見ていて悲しいので」
「っ…………善処します……」
ものすごく難しいが出来るだけ頑張ろう。
ガララには嫌われたくないもんな。




