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確保

 赤と銀のドラゴンが空中に止まっているととても目立つ。

 …が、揉めているみたいだな。

 セシルの尻尾をルイーズが食いちぎろうと……いや、引きとめてるのか。

 その上に乗っているロディは並行してササと話を進めているようだ。

「スピード勝負だよ。いいね?」

「………オッケー、30秒後で良いんだよねー?」

「ああ、頼む」

 ササの前に握った右手を差し出し、その下にササが両手で受け取る形を作る。

 手のひらに落とされたのは、勇者のバッジだった。

「落ち着けアデギウス! まずは彼女を犯罪者にしないことを考えるんだ!」

 ロディのその言葉に前のめりだったアデギウスが動きを止めて振り向いた。

 セシルもそれに気づいて大人しくなる。ルイーズが噛みついていた尻尾を放した。

「君のバッジもササに預けろ。俺たちは草原で準備をしないと」

「大丈夫だよー。パパっと連れてくからー」

「…」

 アデギウスは納得していない様子だったけど、それでもササに自分のバッジを手渡した。

 もう一つの手にはまだフライパンを握りしめている。

「ライザちゃん……」

 何を考えているんだろう。

 ライザを確保するにはササを使う作戦が最善だろうというのは分かってるはずなのに。

 気持ちのどこかで再会を躊躇っているんだろうか。

「アデギウス、行こう?」

 セシルが遠慮がちにアデギウスへ声を掛ける。

 そして進行方向を村の外へと変えた。

「…。……っ?」

 そのセシルにルイーズが密着するくらい近づく。

 突然のことでロディもアデギウスもどうにもできないまま、フライパンの中のオムレツがペロリとルイーズの舌に攫われた。

「ん~~!」

 尻尾を振るルイーズ。美味いか、そうかそうか。

「ママばっかりー! 俺も食いたかったのにー!」

 目の前でオムレツが消えた衝撃にマグマが叫ぶ。コイツも狙っていたのか…。

「ディノーさんを連れ戻したらお前の分も作ってもらえるから」

「ホント?」

「ああ、だから頑張ろうな」

「おう!」

「頼もしいねマグマ!」

 ロディが更に煽ってくれる。

「任せろ!」

「ルイーズも!」

「ああもちろん! ルイーズさんがいてくれてとても助かっているよ!」

「わーい!」

 過度に喜びを表現するルイーズにも動じないロディ。

 乗りこなすだけでなくドラゴンの乗せ方も上手いようだ。

「じゃあみんなで草原へ行こう!」

「おー!」

「おー!」

 親子が揃って楽しそうに声を上げた。

「さあ、セシルも!」

「…………うん!!」

「セシルッ……!」

 ロディの呼びかけにセシルが動く。

 迷いのあるアデギウスはそれを止められない。

 3頭のドラゴンが草原へ針路をとった。

「カウント始めるよー! 30~…29……2…」

 ササの秒数を刻む声はすぐに聞こえなくなる。

「アデギウス!」

 俺は隣を飛ぶアデギウスを呼んだ。

「ライザさん、アデギウスに会いたがってたから!」

「…………」

「彼女を守ってあげよう!」

「…………ああ!」


 目的地を知っているルイーズはぐんぐん速度を上げて草原の上を突き進む。

 そして詰め所を二棟過ぎ、そろそろ三棟目が見えてきてもいいはずのところでロディが振り返って俺たちに降下の合図をした。

 スピードを緩め高度を下げていくと、草の生えていない一角に魔法使いらしき二人の男が立っていた。

「すみません! 少し離れていただけますか!」

 ロディが叫ぶ。

「なんだ君たちは! こっちは緊急事態なんだよ!」

 二人は本を広げて山へ向けて手をかざしている。

「ダメだ、やっぱり増幅器が無いと力のバランスが取れない」

「このままだと山から魔物が出てきてしまう! 応援を呼びに行こう!」

「待ってください! いまから建屋を戻しますので!」

「本当か?!」

「まさか君たちの仕業なのか?!」

「とにかく今は危険なので離れてください! もう数秒で来ます!」

「あ、ああ………」

 ルイーズに追い立てられた男たちがその場から距離をとる。

 村の方を見ると上空から幾つかの火炎が煙を上げながら落ちていくのが見えた。

 もうどこかの詰め所から王宮に報告が回っているかもしれない。

「時間だ、来るぞ! ルイス、彼女を確認次第マグマで止めてくれ!」

「わかった!」

 俺たちも小屋のあった位置から少し離れてササを待つ。

「光った!」

 山を見ていたアデギウスが叫んだ。

 と、ほぼ同時に目の前にも光が現れ、一瞬にして詰所の小屋が出現した。

「中! 暗闇と沈黙を掛けてあるわ!」

 外壁にくっついていたササが素早く離れる。

 窓ガラスが割られていた。

 中でライザがもぞもぞと動いている。

 見えない状態で回復アイテムを探しているのだろうか。

「マグマ、氷だ。ライザの手元だけ凍らせるんだ」

 マグマの凍結ブレスがライザの手のひらを氷で覆っていく。

 分厚いグローブをはめたようにどんどん大きくなっていく手。

 重さに負けて垂れ下がっていき、ついに床をゴツンと鳴らした。

 この方法で長時間拘束したら凍傷になりそうだが魔法とアイテムを使えなくするためだから仕方ない。

「みんな、場所を微調整するから手伝ってくれ!」

 元の位置からわずかにずれた場所に戻ってきた小屋を、ドラゴン達が押す。

「ルイーズ、もう少しだけで良いからちょと抑え気味に…うん、上手だよ。セシル、地面と建物の角度を見ててくれ。ピッタリ合ったら教えて」

 基本的に大雑把なドラゴン達がロディの指示に従って細かい仕事をこなしている。

 なんとも感動する場面だ。

「ルイス君!」

「ディノーさん! 大丈夫ですか?! 出られますか?!」

 ライザの様子を心配しながらも窓際にディノーが駆け寄ってきた。

「俺は何ともないんだけど、この建物にいた二人が眠らされてしまって。それとドアは今ロックが掛かってるからすぐには開かない」

「姫、ここから中に入れる?!」

「もちろんー」

 割れ残っている窓ガラスをたたき落とし、ササの通り道を作る。

 服の裾を気にしつつもササはスルリと中へ入って行った。

「頼む、奥の部屋だ」

「はーい」

「えっ」

 ササを見送っていると続けてもう一人、そこから入り込もうとする人影が俺の横を走り抜けた。

 鎧を窓枠にぶつけながらアデギウスは小屋の中へ突入する。

 そして、座り込んでいるライザを隠すように覆いかぶさった。

「見ろ、結界が!!」

 魔法使いの男が叫ぶ。

「戻ったか! …はぁ~、焦ったなぁ~……」

 男たちの緊張が一気に解けるのが見えた。

 中の様子を窺おうと小屋に近づこうと歩を進めてくる。

 そこにロディがすかさず進路に割って入る。

「お騒がせしてすみませんでした。無事に追っていた賊を確保できました」

「賊の仕業だったのか」

「ええ、俺達から逃げるために強行手段に出たようで。それよりお二人とも、持ち場の方は大丈夫ですか?」

「え? あ、そうだ、相方を一人きりで残してきてるんだった」

「うちもだ。急いで戻らないと今度はこっちのミスで結界が消えるかもしれないぞ」

「中の賊も魔物の方も俺たちがしっかり対処しますのでどうぞ業務にお戻りください」

「そうか? ……では、すまんが後は頼む!」

「はい、お任せください」

 ロディからの一礼を受けて、二人はそれぞれの小屋へ急いで帰って行った。


 眠らされていたこの詰所の魔法使い二人は無事ササによって目を覚まし業務に復帰。

 ライザのロックの魔法は施錠部に掛けてあるだけだったので、ディノーがアイテム倉庫から切断工具を取り出してその部分をくり抜いて開けることが出来た。後で窓ガラスと一緒に交換修理することを約束し、その場は許してもらえた。

 賊ことライザは二人に顔を見られることなく素早く犯行に及んだそうで、とりあえず素性はまだバレていないようだったのでササが早々にディノーと一緒に村へ飛んで行った。

 アデギウスが付いて行きたがったが、ロディが止める。

「山から沸いた魔物の処理が先だ。もしどこかで被害が出たら庇いきれなくなるぞ」

「………そうだな…ごめん。セシル、全部倒して早く戻るぞ!」

「うん!」

 セシルが大きく羽ばたき、チット山へ向かって飛び立った。

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