捜索
「ルイーズ! お前昔っから物の扱いが荒いんだから気を付けろよ!」
「ごめんなさーい!」
上空からルイーズが叫ぶ。
大声の謝罪って申し訳なさがあんまり伝わってこないもんだな。
「おっと、すごい音がしたと思ったら惨事だな」
「ロディ…ごめん、また俺の連れがやらかして」
「……あの大きいマグマは何だ? それにさっきまでいた女の子がいないようだ」
「あれもそれもマグマの母親のルイーズなんだ。成り行きでアイツとレリアリが一緒に行動することになって」
「また俺の目の届かないところで何かやったんだね?! まったく…楽しそうなことは俺を待ってからにして欲しいんだけどな」
「ごめん」
ロディはルイーズに興味があるらしく、浮かんでいる彼女を見上げてじっくり観察し始めた。
後からやってきたカラビウが魔法で丸太の積み上げを手伝い、フィリーアが強力な結束バンドで丸太の山を固定して、丸太の山は落ち着きを取り戻した。
それを見計らってロディが空に向かって叫ぶ。
「ルイーズさん! 俺を乗せてもらえないかな?」
「ルイーズは主のルイーズだからダーメ!」
強く拒否したルイーズに、
「俺はお前には乗らないぞー」
と教えてやる。
「えー!!?」
「俺にはマグマがいるんだから当たり前だろ。それにその太い首に胴体…しかも竜具なしだぞ。俺が乗ったら確実に振り落とされるだろーが」
「そんなぁ………」
「ロディ、本当に乗りたいの? マリーさんやセシルとは全然違うよ? マグマの5倍はめんどくさいよ?」
「そこまで言われると逆に魅力的に聞こえちゃうね」
その返答、まったく意味が分からないんだが……乗りたいというのは冗談ではないらしい。
「……ルイーズ! 前の道へ下りてくれ。この人を乗せてあげるんだ」
「むー……わかった…」
まだ未練がありそうだが、俺は乗らないと言ったら乗らない。
ルイーズもそれを感じたのか、渋々俺の指示に従った。
「ロディ、念のためロープ」
フィリーアから渡されたロープをルイーズの首と自分の手首に結ぶ。
ロディはルイーズに乗りこむと太い首の根元に腰を下ろし、目の前の真っ赤な皮膚を撫でた。
「よろしく、ルイーズさん」
「……ぁい」
ロディはニコニコと話しかけるがルイーズは明らかに不機嫌だ。
「ルイーズ、俺の面倒を見てくれてる人なんだから仲良くしろよ」
「ママ、がんばれ!」
「…うん、行ってきます」
明らかに快諾ではない返事をしてルイーズは飛び立った。
最初こそ大きく体を揺らしたロディだったけど、すぐに体勢を直し、そこからはルイーズの飛行の癖に対応できているみたいだった。
あれが体幹というやつだろうか。鍛えている人はやっぱり違うもんだな。
「オザダ、ロッジャルは返しておくね。……それとも、どっちか使う?」
カラビウが首から下げていたロッジャルを三人の前に差し出した。
「コイツがいれば飛べるんだっけ。…んー、でも俺は遠慮しとくよ。あんまり魔力無いし」
「あー、結構魔力使うよね……あたしもいいや…」
「うそ俺いま売れ残ったの?! ショックなんですけどー!」
「……うわ、うるさ」
「うん、やっぱり要らないね」
「うおー! なんだとー!!」
「ということでオザダ、どうぞ」
「……えー、結局オザダの兄ちゃんかよぉ」
「……」
オザダは無言で受け取ると、ロッジャルをじっと見つめた。
「……ぇ」
「……」
「……ぁ」
「……」
「……」
「……よろしく」
「…ぁ、はい…よろしくお願いします…」
挨拶を終えたオザダが委縮しているロッジャルを首に下げ、ガララに乗り込む。
「町の中を走ってみる。アデギウスが探すことを想定したとすれば空からは見えない物陰に二人が隠れているもしれない」
「うん、お願い」
「行って参ります」
ガララが真っすぐな道を駆けていくのを、キンが見送る。
「ボクはどうすればいいでしょうか」
「あ、じゃあキンちゃんは私とお留守番しようか。ディノーさんがいないから戸締りとかできないし、もしかして戻ってきたときに確保できるように」
「はい、わかりました」
「もし誰かが戻ってきたら照明弾を上げて知らせるわ」
「うん、よろしく」
「私は単独行動でいいのかしら、ルイスさま」
レリアリの手には飛行の本が用意されている。
「良いけど、禁酒! 絶対!」
「フフ、わかったわ」
「僕も行くね。隠れるとしたら……村の近くの森とかかも?」
レリアリとカラビウがそれぞれに飛んでいき、ジェイマーも動き出す。
「俺は申請所に行ってみるよ。まさか自分の家に攫ったオッサンを連れ込むことはないだろうけど、あの建物結構デカいから物見やぐらとして使えそうだと思うんだよな」
「動き回ってたら見落とすところも定点なら気づくことがあるかも。頼みます師匠」
「おう、なんか見かけたらその方角に落下傘飛ばすから」
軽い駆け足で遠ざかっていくジェイマーを見送って、俺の出発は最後になってしまった。
「ある程度みんなバラバラの方角に見に行ったな」
「俺たちはどうするんだ?」
「明るい時間は村の人たちは外に出ない…目撃情報は期待できないけど、良いこともある」
「なに?」
「人がいない建物は少ないってことさ」
「?」
俺たちは村の入り口近くの一軒のドアを叩いた。
「なんだこんな朝から……お?…お前ら昨夜の……」
昨日俺たちに鳥の肉を切り分けてくれた男性の家だ。
肉を切るために家の中へナイフを取りに行く仕草がスムーズだったから、きっとこの家の人だろうと思っていた。
「朝からすみません、ちょっと教えて欲しいんですが」
「おう、なんだい?」
「この村に空き家はありませんか? とても良い村だなって思って、両親の所に戻った時どんな家があるのか教えてあげたいんです」
「移住希望かい?」
「出来たら、ですけど。ディノーさんに聞こうとしたんですけど、仕事を始めちゃったら僕の話なんて聞いてくれなくて」
「あいつはそういう奴だからな。いいぜ、俺が案内してやろう」
「あ! いえ、お仕事があるのに悪いです!! 場所を教えてくれたら自分たちで行けるので」
俺はディノーの家から拝借してきた紙とペンを取り出して見せる。軸にインクが入った持ち運びしやすいペンだ。この世界では初めて見たかもしれない。この村の誰かが作ったんだろうか。
「じゃあ…まずこれを簡単に書き写してみな」
男性が玄関先の壁を指し示す。そこには大きな村の地図が貼られていた。
「ありがとうございます。えっと……」
俺は急いで大まかに建物の纏まりを紙に写す。
簡単にあらかたの位置を書き込んだのを俺の頭上から確認した男性は再び壁の地図に指をあてる。
「今誰も住んでいないのは、この角、この並び、それからこのエリアはこことここ…」
指が抑えた箇所を手元に落とし込んでいく。
「……で、ここで最後かな。どうだ?」
「……は…い、書けました! ありがとうございました!」
「気に入るところがあると良いな。まぁここなら腕の立つ大工も多いから好きなように建てちまうってのもありだけどな。ついでに空き地の場所も教えようか?」
「あー……はい! ありがとうございます!」
空き地には隠れる場所はないだろうけど、話の流れのままに俺はその場所も手元の地図に書き込んだ。
「いいか、もし見つけても向こうに気づかれないように俺に知らせるんだ。転送されちゃうとまた振出しだからな」
「分かった」
教えてもらった空き家から少し離れた場所でマグマを地上に下ろし、人の気配がないか注意しつつ近づいていく。
入り口や窓の施錠を見て、開く所からはそっと入り、音を立てないように部屋の中全体を調べる。
開かないところではマグマに窓から見える場所で飛び立たせ、俺は壁に耳をくっつけて中から音がしないか暫くじっと待つ。
そうやって地図に付けた印を潰していっていると、途中でオザダとすれ違った。
「いない?」
「ああ、もうすぐ全部の道を回りきってしまう。そっちはどうだ?」
「こっちもまだ手掛かりはない」
「既に村を出てしまっているのではないでしょうか? いないものは幾ら探したって見つかりませんから」
ガララが最もな指摘をぶつけてくる。
現実的に考えれば、そうなのだ。
転送ができるライザなら世界のどこにでも逃げることが出来る。俺たちが行ったことのない場所に隠れられてしまってはどうにも出来ない。
けど。
「でも……これは、ただの雲隠れじゃないんだよガララ」
「どういうことですか? ルイスさん」
「ライザがわざわざ残したメッセージ『探さないで』はイコールで『見つけて』だ。それからディノーを連れて行ったことが気になる。自分が捜索の必要性が無いと判断された時のために張った予防線なんだとは思うんだけど…」
「……ルイス?」
「もし最悪な決断の証人にする為だとしたら……止めないと!」




