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苦手なひと

「まず足は縛る。目は氷が解けたら何かで隠そう。あとは……」

 作業場へ運び込まれたナイトメアの女王は何の警戒心も持たずにスヤスヤと寝息を立てている。これが起きた時にどう動くかがわからないから怖い。

「お水は飲ませたら早く酔いが覚めるんじゃない? 汲んでこようか」

「大きいバケツが裏にあるから使ってくれ。案内しよう」

 ディノーとカラビウが水を汲みに行き、ライザと俺で足を縛る。

 ああそうだ、ナイトメアは口から火を吹くんだったか……。

「うーん……黒炎って威力はどうなんだったっけ? マグマの氷の檻に入れとけば一撃くらいは大丈夫かなぁ?」

「氷で囲めばいいのか?」

「厚めに頼むよ。……ところでルイーズも氷出せるのか?」

「いわあうい」

 ルイーズは鳥の骨をしゃぶりながら首を振った。今は無理か、そうかそうか。

 細い骨は噛み砕いて食ってしまったが、さすがに大きな骨には歯が立たないようだ。

 いつまで味がするのかわからんが、こっちが落ち着くまで大人しくさせててくれ骨よ、と願う。


 ほどなくしてレリアリはたっぷりの水を入れたバケツと一緒に氷の檻に収監された。

「あとは目を覚ました時の感じを見てかな…おいロッジャル、この状態でもまだレリアリが使えるスキルはあるのか?」

「えー……わかんねぇよ? 多分ない」

「ほんとかよ……ルイーズは何か知らない?」

「んーん、ひらない」

 ルイーズはトカゲの足を口からはみ出させながら首を振った。知らないか、そうかそうか。

 そのトカゲは一仕事終えたマグマに与えたはずなんだけどな。なんでルイーズが食ってるんだろう。

 …と、マグマを眺めていて思い出した。

「そうだ、忘れてた」

 マグマの背中に括り付けていた荷物を外す。

「そういえばそれはなんだい?」

 ロープをほどき、覆っていた布を外す。

 持ち帰ったのは4つの鉢。それに移して持ってきたのは、あの山に生息する植物だ。

「…これは?」

 予想通りディノーが反応して俺の隣にピタリとくっ付いた。

「えっと、育てている中に無かったみたいだから、良かったらどうかなって。こっちはお茶にすると香りが良くて、こっちは傷口に貼ると治りが少し早くなる」

「え、すごいね。育てるの難しいかな?」

「もともと山の植物だから、ここの気候でも大丈夫だと思う」

「ほんと? 嬉しいな、ありがとう」

「う、うん。……あ、こっちはもう少しすると小さな花をたくさん付けるんだ」

「へぇ? 楽しみだな!」

「うん、小さい花好きでしょ?」

「そうだよ。良くわかったね。…こっちは?」

「それは大きくなると甘い実をつける木なんだけど、今年はまだ小さいから来年かな…………」

「庭で良さそう?」

「出来れば日当たりのいい場所で………………なに?」

 カラビウがこっちを見てニコニコしているのに気が付いた。

「ずいぶん楽しそうだなと思って」

「君も植物が好きなのかい?」

「いえいえそういう意味ではなく。どうぞお気になさらず」

 …………。

 俺、はしゃぎすぎたかな。

 気を付けよう……。


「ルイス、ボクたちレベルアップしました」

 庭へ行くとザワハの鉢を抱えたキンが出迎えてくれた。セシルとガララも一緒だ。

「気づいた? これからは仲間のみんなと話せるんだよ。だからこれまで以上に仲良くやっていこうな」

「やはりルイスさんたちの仕業でしたか」

「ほんとだ! なんでわかったのガララ、すごー!」

「ふふ、少し考えれば想像出来ますよ」

 二人で尻尾を振りあっている。

 今までは一緒にいても会話出来ていなかった同士だからな。嬉しいんだろう。

「お、そういえばセシルと喋るのは初だ」

「うんうん! ねぇコレ、ルイスがやってくれたの?」

「いや、今度仲間に入ることになった人……人? うん、仲間がね」

「そうなんだね! じゃあお礼言わなきゃだよね!」

「ああ……でもいま中で寝てるから今度でいいよ」

「そうなの? あ、ねぇねえ、マグマも帰ってきた? 夜になったら村の周りに何があるか見に行こうって約束してたんだ!」

 …………。

「いけません。魔物だけで村からは出ないように!」

「ええっ!」

 セシルが俺の言葉に衝撃を受けてよろめく。

「どうせあの山に行こうとしてるだろ」

「うん」

 うん、じゃないんだよ。

 薄々感じてたけどセシルってマグマ並みに素直で馬鹿なんじゃないか?

 そもそもドラゴンの基本がこうなんだろうか…。

「お前らだけで行った森のこと忘れたのか? 山に行ったらあれより大変な目に合うんだぞ」

「でも俺たちだけで森に行ったときは大丈夫だったよ」

「たまたまだろ、たまたま。」

「セシル、山に入ると気持ちを乗っ取られてしまうんですよ。あの時よりも大変な目に遭ってもいいのですか?」

「え……」

 ガララが言う『あの時』……セシルが食い物を食って海まで飛んで行った時のことだな。

「アデギウスさんは貴方がいなくなった時、戻ってくるまで泣きそうな顔でずっと震えていたんですよ」

「そうだぞ。山に入ったらもうアデギウスと会えなくなるかもしれないし、もしかしたら訳が分からなくなってアデギウスを攻撃しちゃうかもしれない。お前、あいつを苦しめたいのか?」

「ううん!! やだ!」

「だろ? だったら勝手に出歩いたりしちゃだめだ。アデギウスが帰ってくるまでここで待ってなきゃな。それに明日の為に力を蓄えておかないと」

「明日は何かあるのですか」

「ボクは知っています。決闘です」

「ライザとアデギウスが明日戦う。アデギウスが勝つためにはお前の調子が万全じゃないと困るだろう」

「ライザちゃんか……」

 名前を聞いてセシルがうな垂れた。

「どうした?」

「ライザちゃん怖いからキラい……」

 お。

 これは予想していなかった。

 まずいかな。

「怖いのか」

「うん、すぐに怒るから。アデギウスが他の子にからかわれたりイタズラされても反撃しないと怒る。やり返そうとして返り討ちにあって泣いてても怒る。俺にも『どうしてもっと早く飛ばないの』とか『もっと強い攻撃は出せないの』とか『セシルが弱いからアデギウスが皆から馬鹿にされるんだ』とか…」

 そういえばライザが倒れて工場に運び入れたのと同時にセシルの姿が消えたような……。

 これはかなり苦手意識が強そうだぞ。

「…そうかそうか、嫌いなら負けるわけにはいかないよな?」

「ライザちゃんが負けることなんてないよ。凄く強いし負けず嫌いだもん」

「お前は負けても良いのか? アデギウスがまた弱いと言われても良いのか?」

「それは、イヤだけど」

「だったら頑張ろう。大丈夫。子供の時とは違うだろ。アデギウスもセシルも、その時よりずっと強くなってる」

「…う~ん」

「あの……」

「!」

 その一言だけでビクン、とセシルの体が強張る。

 そして、ライザが降参のポーズで一歩近づくたびにセシルは尻尾を丸めたまま二歩後退する。

「セシル……怖がらないで」

「ライザちゃん…」

「ごめん、さっきの会話聞いちゃって……あたし、そんなに怖かったかな?」

「うん、すごく」

「っ……そ、そっか。……で、でもねセシル聞いて、あたしは二人のことが嫌いで怒ってたんじゃないんだよ」

「知ってるよ。俺たちが弱いのがイヤだったんでしょ。ライザちゃん言ってたもんね『あたしが好きなのは強い人だけ』って。それで無理やり変な約束して、アデギウスのことを無視したんでしょ」

「そ……それは……」

「アデギウスは頑張ったんだよ。ライザちゃんとまた仲良くしたいからって。ホントは戦いなんか好きじゃないのに勉強とか訓練とかしてさ」

「え」

「ホントはアデギウスはディノーみたいになりたかったのにさ」

「!!」

 ライザは震える両手で口元を覆った。

 そして、その手はそのまま顔全部を隠し、目の前に暗闇を作り出した。

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