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ばいよう

「…なぁに主?」

 まだグスグス言ってるルイーズを手招きして呼ぶ。

「こっちにもちゃんと挨拶しろ。迷惑かけたんだろ」

 と俺は少し下がってロロックへの道をあける。

「あ! ロロックだ! 居たんだ!」

 ……気づいてすらなかったのか……それはあまりにも可哀そうだろ、おい。

 目の前に来たルイーズを嬉しそうに眺めるロロックに、今の一言が聞こえていなくて本当に良かった。

「ロロックにはお前の喋ってることが聞き取れないからな、ちゃんと態度で見せるんだぞ」

「態度?? …わかった!」

 そう言うとルイーズはロロックをベロンベロン舐めだした。

 うん、大抵の動物の愛情表現は舐めることだからな。

「うお、る、ルイーズちゃん……ちょ、激しいねキミ…んぷっ……」

「ありがとー! ロロックは主の次に好きだよー! …なんで離れていくのー?!」

「!!」

 舌の力に押されて徐々にロロックが後退してしまうのが嫌だったのか、ルイーズが彼を頭からすっぽり上半身まで咥えて持ち上げ、元の位置に下ろした。

「じゃあもっかい最初からね!」

「ちょっと待てルイーズ。もうロロックがずぶ濡れだ。少し加減しろ」

 濡れ鼠状態のロロック本人は笑っていたが。

「あらー。……じゃあ、ルイーズも変わる!」

「え」

 ルイーズの周りに赤い靄がたち込めた。靄は全身を覆い隠すまで広がっていく。

 これはもしや……。

 靄の大きさがだんだんと狭まっていく。が、そこにあったはずのルイーズの体がいつまで経っても見えてこない。

「ルイーズ?」

 どんどん靄は小さくなり、ロロックの背の高さより、メルシアの背の高さよりも更に低くなっても中身が出てこない。

「え、おい……」

 まさか、このまま消えてしまうんじゃないかと不安になった時だった。

「どーん!!」

 靄の中から細い腕が突然ビョーンと突き出た。

 その腕が残りの靄を払おうとグルグル振り回される。

「ロロックお待たせーっ!」

 勢いよくビョンッ、と靄から跳ね出たのは、俺とほぼ変わらない幼女だった。

「屋根のあそことかね、寝床のあのへっこんだとことかね、直してくれたのすごい嬉しかったんだよー!」

 抱きついた幼女がさっきと同じようにロロックの頬をベロベロと舐めている。

「る、ルイーズちゃん?」

「ロロック、ルイーズがいなくて寂しくなったよね? ごめんね?」

「い、いや、うん、えーと……」

 幼女の形状になった途端にロロックが狼狽える。

 老衰した雄ドラゴンと思ってたのが、生きてて雌で人間になってしかも幼女。でもって子供が二人。

 いやー、ほんと意味が分からないよな。

「もう良いんじゃないのかい」

 ルイーズの後ろ襟をグイ、と引っ張ってメルシアが二人を離そうとする。

「やだやめてよー! ロロックー!」

 がっちり首にしがみついたルイーズだったが、メルシアがその指を一本ずつ引き剥がしていきズルズルズル…とロロックの体をずり落ちていった。

「人の旦那に手ぇ出してんじゃないよムスメっこ!」

 ぺし、とルイーズの頭に平手が飛んだ。もちろん全力ではなかったが…見て分かる程度には苛立ちが乗っていた。

「…だって、感謝…………」

「大丈夫。よく伝わったよルイーズちゃん」

 またグス、となりそうだったところにすかさずロロックがフォローを入れる。

 地面に膝をつき、ルイーズと身長を合わせた。

「もし君の最期に心残りがあったら悲しいなと思ってたんだ。でもまたルイスと一緒に行けるんだね?」

「うん……」

「よかったな。俺もすごく嬉しいよ。ルイスは俺たちの大切な孫だから、俺の好きなルイーズがまた仲良くしてくれるのがすごく嬉しい。くれぐれもこの子を頼むよ」

「…うん!」

 大きく頷いたルイーズの頭を、今度はロロックの大きな手のひらが撫でた。



 ライザの魔法甕は無事減らせたし、なんだか同行者が二人増えたし、もうここでやることもないし、まぁまぁ時間も過ぎたので俺たちはチルチットへ戻ることにした。

「その採取した魔力ってどうするんだ?」

 メルシアが脇に抱えている採取の本。もう俺にはただの本にしか見えないけど、黒馬と竜から採取した魔力が取り込まれている。

「育てる」

「…何だって?」

「ワフのイカれたアイテムにブチ込むと、ここから魔物の体の一部が出来てくるんだ」

 何だそれ、何に使うんだ。

「魔石は無いから生きてはいないし完璧に丸々一匹作れるわけじゃないんだけどね。まぁ、ブッ倒した証拠だって言って肉片を見せれば充分だろ」

「おお!」

 何だそれ、神器か!

「そっちの首からさげてるヤツは壊したっつっても使ってりゃ嘘がバレる。この状態なら安全だってことを一筆書いて出しとくよ。あたしとロロックの連名なら大丈夫だろう」

「ああ、名前くらい幾らでも書くさ」

「ありがとう!」

 でも署名をする時はちゃんと何の書類か確認したほうがいいよ。

「コレは『貸し』って事で良いのかね?」

「孫相手に貸しとか無いでしょ。助けてくれてありがとうお祖母ちゃん!」

「…今度面倒事が起きたときはちゃんとあんたから頼られたいもんだね」

「わかった。その時はよろしく」

「そうだ、帰る前にみんなでお茶でもどうかな?」

「…そんなにルイーズと離れがたいのかい?」

「!…えーと……」

「ルウルから貰った菓子がある」

「そうだったね! さあみんな、家の方へどうぞ」



「突然何処に行ったのかと思ったら…何を積み込んでいるんだい?」

「ん? うん、ちょっとね。もう戻る?」

「ああ、帰りはレリアリさんが飛ばしてくれるそうだよ」

「そっか。…よし、行こうマグマ」

「おう」


「来たわねルイスさま」

 暗くなった家の前にもう全員が集まっていた。

「お待たせ。レリアリが転送掛けてくれるって?」

「ええ、私が役に立つってことを早めにすり込みたいから」

 レリアリは含みを持たせた笑い方をする。

 わざわざ言わなくて良いことを言ったりするのも、俺には牽制のように感じるんだけど…実際のところはどうなんだろうな。

「気をつけて」

「またおいで」

「お世話になりました」

「あっ、あの、メルシア様、あたし、あの…」

「何だ?」

 ライザがちょっとだけメルシアに近づいた…が、まだ緊張しているみたいだ。

 メルシアが言い淀んだライザを覗き込む。

「うっ! ……あのっ……あたしもいつかお二人みたいに幸せな家庭を築きますっ。メルシア様はいつまでもあたしの憧れですっ!!」

 大きくお辞儀して逃げていった。伝えたいことは伝えきれたようで、マグマの後ろに隠れながらチラチラこちらを見る表情は少しスッキリしたように見える。

「今の聞いたかルイス」

「がっかりさせないように頑張れ」

「………」

「ロロックまたねー」

「元気でねルイーズちゃん。あんまり食べ過ぎちゃ駄目だよ」

「わかってるもん!」

 ルイーズとロロックの別れは本当の孫の俺とのそれよりもしっくりくる光景だ。

「もう良い? じゃあ行くわよ」

 レリアリが転送を発動させる。

 ……あ。カラビウのバッジの回収も頼んどけば良かったかな。……まあいいか。

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