後継者誕生
「置いて行くなー! 主のバカー!!」
「ぅ…いったぁい!!」
戻った途端にルイ……ーズの体当たりで吹っ飛び、黒馬の鼻に頭をぶつけた。
泣いたのは【女王】の方だ。
「ごめん、大丈夫か?」
「ぅうー…、早くその子をどうにかしてよ主さまぁ……」
どうにかと言われてもなぁ……
「おい、さっきから同じセリフでごめんだけど本当に悪かったよ。無神経だった。お前が何にイライラしてるのかなんてちっともわかってなかったよ」
「そうだよー! 名前間違う度に空から落としたり噛みついたりしてたのにさー! なんなのもー!!!」
そんなの気付くわけないだろ。
というか名前の呼び間違えに対する仕打ちとしてはあんまりだったんじゃないか?
すごく文句を言いたいが……この雰囲気では言えないか。
「主ってば全然ルイーズに構ってくれないしさ、早く死のうとばっかりしててさ、それでルイーズのこと置いて先に死んじゃうしさ、こないだもルイーズが助けたのに全然会いに来てくれないしさ、主ってばさ、全然ルイーズのことさ、もぅ………もぉーっ、なんでなのぉーっ!!」
ギャー! と泣き叫ぶ声が甕の中で反響して何倍にもうるさい。
「ちょ、ちょっと落ち着け、もう大丈夫だから。お前とこんな風に話せるってわかったからこれからは俺も変わるし。前の分もちゃんと構うし。な?」
「…グス、………ホント?」
「ホントだってば。だから許してくれ」
「…………」
急に静かになった。考え込んでいるのか。
まったく、ルイスがこんなヤツだったとは……………えーと、ルイーズ、な。
「………だ」
「…ん?」
「イヤだ」
「……は?」
「主は信用できないから許さない!」
「なっ?!」
ルイーズがプイ、と俺から顔を背けた。
「主はルイーズがここで何してるか気にしてくれたことなんか無かったでしょ? きっとまたずっとここには来ないもん」
「そ、んなことはないぞ」
「うそだよ。主は外のみんなの方が好きだもん。…………マグマとか」
「! そうだ、マグマ……あいつはお前とはどういう関係なんだ?」
「………」
「ルイーズ、意地悪しないで教えてくれ。アイツはお前の……」
「…………コ」
「『…………コ』」
「子供! マグマはルイーズが産んだ子だよ!」
そっか…こうしてみるとしゃべり方とか雰囲気とか似てるしな……兄弟とか分身とか言うかと思ったけど……そうか……
「お前、お母ちゃんなのか」
「で、でもね! 父親とかはいないんだよ! ルイーズは一人で産めるんだからね!」
なぜそこを強調するのかはわからないが……確かに別の遺伝子が混ざったようにも見えないしな。
「ルイーズは主のお家と山を守りたかったから、代わりにあの子に生まれ変わった主を探してもらおうと思ったの。でも卵を産んだのは初めてだったから加減がわからなくって…そのあとどんどん具合が悪くなってルイーズは動けなくなっちゃったの」
マグマの方へ魔力を注ぎすぎた、とかそういうことなのか?
だからアイツは小さいうちから力があるんだろうか。
「主……マグマの方が好きでしょ?」
「なんだ、自分の子供にやきもちか?」
「むー!!」
……こいつら、怒り方まで似てるんだな。
「どっちが好きとか無いよ。マグマのことはお前だと思って接してきてたしな。どっちも俺の相棒だよ」
「むぅ…………」
優等生な回答には満足できなかったらしく、真後ろを向いて喋らなくなってしまった。
「……なぁ」
「なに?」
俺は【女王】に小声で話しかけた。
「お前らをこのまま無視して置いて行ったらどんな問題が起こる?」
「……」
【女王】は顔を顰めた。
「主さまに見切りをつけてここを出るわ。そしてこの世界をぶっ壊す」
「出来るのか」
「出来るわよ。私たちにはあの数の分だけ仲間がいるもの」
鼻が甕の蓋を示した。数……くぼみの数、か。
「あの子の機嫌が直るのは主さまが何世過ごした後かしらね?」
「……」
「言っておくけど、主さまの望みは私たちが揃わないと叶わないわよ。べつに私たちはどっちでも構わない。むしろいつまでも主さまが生き続けてくれた方が嬉しいかも」
「……いまの俺の流れって良い線行ってるよな?」
「そうだと思うわ。私が主とこうして出会えたのは今までで二回目だもの」
それって一度目は何年前だよ……俺の記憶にないときの話だろ?
「…ルイーズ」
後姿のドラゴンがピク、と揺れた。
「お前と俺は今までに何度会ってる?」
「……3回……」
「俺が死んだら今度はいつ会えると思う?」
「っ…………」
「せっかく今は一緒にいられるんだから、仲良くしないか?」
「……でも、マグマとの方が楽しそう」
「それは…まぁ、今一緒に戦えるのはアイツだし……けどこれまでよりは頻繁に会いに来るようにするし…」
「そんなんじゃイヤ! ……ルイーズも……ルイーズも外に出て主と一緒に行く!」
………えー………めんどくさいなぁ…。
「そしたらもう俺から翼は生えないのか。危険な時に守ってもらえなくなるのは困るんだが」
「!」
ルイーズがハっとした顔をする。そして考え込み、
「……わかった…ちょっと待ってて」
と、上昇し始めた。
どこへ行くんだ?
くぼみ……?
「あの子が行くなら私も外に出たいわ。良いわよね、主さま」
「いや、ルイーズにも良いとは言ってないので……」
「そう? でもその準備に入ってるみたいだけど?」
「え?」
俺は目を凝らしてくぼみにはまっているルイーズを確認する。
何をしてるんだ…?
「…………ぅ…………」
……苦しそうな声が聞こえた。
「うぅぅ…………」
大丈夫か?
と近づこうか迷っていると、
「ぅう、ううう、…うまれ………たーーーっ!!」
「は?」
スル、とくぼみからルイーズが抜け出した後…そこには一個の卵が残っていた……。
「主! もう大丈夫! これからはあの子がこの場所を守るよ!」
戻ってきたルイーズは嬉しそうに俺の周りを飛んだ。
「お前……卵産んだ割に元気だな……というか、産むの早いな」
「慣れた! 力も半分くらいにしたし! さあ行こう!」
「そうね、行きましょうか」
「おい! 勝手に決めるんじゃない! 特にお前!」
「私?」
【女王】が『なぜ止めるのかわからない』とでも言いたそうだ。
「お前が出たらスキルが発動して大変なことになるだろうが! それに兵士に見つかったらすぐに討伐されるぞ!」
「あー…そっか。面倒よね………」
よし、考え直したな。
「うん、わかったわ」
「そうか」
「うん。さぁ行きましょう!」
「えぇっ?!」
【女王】は一気に甕の上まで駆け上がっていった。
ルイーズもそれに続き、蓋の施錠部を挟んで二手に分かれる。
「いくわよ、…せーのっ!」
掛け声に合わせて魔力の塊が放たれた。
すると、ガチャ、とロックの外れる音がして、蓋がおりてきた。
先に隙間から【女王】が抜け出て、………たぶん蹴った。
ガコン、と大きく蓋が開き、そのまま落ちてくるんじゃないかと焦ったが反対側についている蝶番がしっかりと支えていた。
「主さま、ぼーっとしてないで出るわよ」
「あ、いや、だから待てって!」
止めるのも聞かずに【女王】とルイーズが甕を出て消えた。
「ああもう!」
俺は急いで意識を体の外へ移した。




